幕間 高みの見物
広大な敷地を持つディエス帝国。
その王城で一人の男が鏡のようなものを手に薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「そうか、貴様は吸血鬼であったか。どうりでナハトの手に余るはずだ」
精巧な作りをした玉座の上。
黒でありながら光を反射しているその異様が、どれほど高価で、掃除が行き届いているのか伺える。
クツクツと、悦に浸る男の瞳はこの世の万物を馬鹿にしたような、世界は自分の手でどうにでもなると信じて疑わないような、そんな自信に満ちていた。
「だが、どうにもならん。部外者ごときがいくら我を傷つけようとしたところで、な」
その言葉はまるで《《だれか》》に対しての皮肉なような言い草であった。
「王よ。ならば彼の吸血鬼は捕らえるべきでは? ナハトを軽くあしらい、マンティコアを容易く屠るほどの戦力あの少女が持つスキルは王の覇道に何か役に立つのでは?」
その王の反応を見てかカミラが声を上げる。
疑問形ではあるものの腰に提げた剣を手にかけ、いつでも出撃可能だと意を露わにしている。
「必要ない。あれはただの劣化コピーだ。私が欲するほどのものではない。だが、奴らはくだんの件で自分たちを狙う敵がいるとでも認識しただろう。千歩譲ってこちらの正体がばれたとして、《《三百年》》以上生きていてあの程度の強さにしかなれん傀儡だ。邪魔をするようならこちらから出向いて潰せば済む話だ」
「―承知いたしました」
カミラは言葉を呑んだ。
この世界で見ても屈指の強者を傀儡と、あの程度といって切って捨てる。
長年仕えていながら未だ見えることのない底に背中に寒気が走ったのだ。
それでも平然を装い部屋を後にする。
一人部屋に残された男は悠然とグラスを仰ぎ、ワインを口内で弄ぶ。
「残る問題は聖王国か。私以外の神を召喚しようなどとおこがましい爺が。勇者など大した脅威ではないが、奴が召喚されることだけはなんとしても阻まねばならん」
「恐れる、などとこんな感情は久しぶりだが、脅威は事前に潰せば済むものだ。あの司祭は確かに強いが、力に奢っている。《《あれ》》一匹贈ればどうにでもなろう」
後に世界を混乱の渦に陥れる大事件。
聖王国を襲った悲劇と邪悪に満ちた司祭の計画。
不本意ながら獣王国の片隅にクローフィーが飛ばされた事で、事態は少しずつ動き始めようとしていた。
かなり後に、この回の伏線を回収予定ですが矛盾する可能性大です。
暖かい目で見守って頂けると幸いです。