閑話 睡眠同好会活動日記
マンティコア襲撃前の話です
「皆さん睡眠を崇めましょう、眠気は誰であれ自然とやってきてそれに抗うのは眠りに違反する行為です。眠気を受け入れ大いなるまどろみへと堕ちていくのです」
「すばらしい、すばらしいぞ。クローフィー君! 睡眠会にまだこんな神童が眠っていたなんて(睡眠だけに……さむ)」
「すやぁ」
ソフィーが眠っている。
スヤスヤと可愛い寝息を立てて幸せそうな表情で。
「そしてソフィー君。……すばらしい。枕の位置、使っている素材。冬に備えた防寒着、自作の布団駆け、喋らずとも睡眠への愛が溢れ、試行錯誤の末に辿り着いた眠りへの探求心がひしひしと伝わってくる。これぞ睡眠界の習うべき姿だじゃないか」
大きく息を吐き感嘆の声を漏らし、かと思うとテンションが上がったように声を張り上げて胸に手を当てて言葉を噛みしめるギルマス。
傍から見たら情緒不安定な変人だけど、眠りへの尊敬の証と思えば許容できるというもの。
……ちょっと引いたけど。
まあ、でも言ってることは睡眠を愛するものとしては至極真っ当なことだと思う。
「僕はこの睡眠同好会の一員でよかったと思うよ」
「ああ。私もだ。」
自分で気づいているのかいないのか一人称まで変化しているギルマスは感極まった様子で涙を流している。
混じりけのない綺麗で晴れやかな涙だ。(汚くないとは言ってない)
「ぐう」
「そしてクローフィー、一瞬では眠りに入らず感謝を忘れずにしたところで溶けるように眠りへ誘われる、か。っく。間違いなく全世界睡眠チャンピオンを狙える逸材だ。」
徐々にギルマスの興奮の声が小さくなっていき僕の意識はそこで途絶えた。
――――
「ああ。早く私も眠りに入らなければ。眠りの心得第三条一日12時間睡眠の法を破ってしまう」
「感極まっているところ悪いですが、あなたはこれから仕事が待っています。たまった書類を片付けから眠ってくださいね」
「ふざけるな!仕事より睡眠のが大事だ!」
「そうですか、王国に報告したらきっとギルマスの称号は一か月もしないうちに剥奪されるでしょうね」
っく。分かっていながらこれを言うのだから苛立たしい奴だ。
私の真意を理解しているからこその無視できない発言をして、睡眠から意識を仕事へ向かうよう促す。いいように誘導されているとわかっていても反論できない自分が情けない。
だがそれでもなさなければならない。
睡眠と同じくらい大事なことも私にはあるのだ。
信念と誇りを貫くためにはいまは仕事と向き合わなければならん。仕事か仕事。憂鬱だ。
しかし、程よい疲れの後の眠りは無視できないものがある。
その時の至高の瞬間を思えば少しは気合が入るというもの。
「よーーし。がんばっちゃうぞ」
「あなたがやるきだされるとこわいですね」
失礼な言葉を投げかけてくる秘書を睨みつけ、今日も俺は書類仕事に精を出すのだった。