ドラゴンVS吸血鬼②
ドラゴンが悔しそうに咆哮するのをありったけの笑みでもって返す。
遂に、遂にこの時が来たのだよぉ!
100年以上喧嘩まがい殺し合いめいたことをしてきたけど、勝ち数はゼロ。
対してドラゴンは12000。
そのすべてがドラゴンブレスの一撃によって薙ぎ払われたもの。
しかし、しかしだ!
今、僕はそのドラゴンを追い詰めている。
やっと、ようやく、僕が元男という事実を嘲笑ったことを裁くことができる!
ドラゴンの脳天に真っ直ぐに『死の血剣』を振り下ろす。
火花を散らし衝突する鱗と剣。
その衝撃で爆風が巻き起こり、木々が蠢き、大地が耐えきれなといわんばかりに悲鳴を上げる。
もう少しで斬れる。
そう確信して剣にさらに力を籠め、て……?!
理解に苦しむ事象が発生した。
「……ふぇ?」
そう呆けてしまったのは仕方のないことだと思う。
勝ちを確信して振るった『死の血剣』が中心から真っ二つに折れ、深紅の残滓を虚しく散らし、露散していく。
目をお互い点にして見つめあう僕とドラゴン。
暫くそうして沈黙が続いた後、焦ったような表情を浮かべていたドラゴンの表情が一変した。
魔力を口内に溜めて勝ち誇ったような笑みを浮かべるドラゴン。
咄嗟に手首を爪で切りつけ、盾を創造する。
刹那、紅蓮の光が視界を覆いつくした。
「っ~~~!」
盾に身を預けると森が一瞬にして遠ざかった。
そのまま等速直線運動の要領で(適当)吹き飛ばされて気が付くと大空を見上げていた。
―――――――
―――――――
「ほへわっ!」
風切り音で我に返った。
落下死している己の姿が脳裏をよぎり、即座に手首を切りつけ『吸血鬼化』で羽を展開する。
「ふへぇ」
そのままパラシュートの要領で降下し、落下直前で羽を解除。
カッコよく着地した。
……え? 途中気絶してたって?
あれはドラゴンがチート性能すぎただけだからさ。
の、ノーカンだって、ノーカン。
そうやって自分に言い聞かせて辺りを見回してみる。
感想としてはみどりみどり。
しかし、森ではない緑。
大草原の薄緑。
森じゃないから見晴らしはいいし、魔物もあまり見られないのが幸いけど、ここどこやねんって感じ。
いつもの喧嘩なら大抵『禁忌の森』の結界に衝突するで終わっていたはずなのにね。
……ん。逆に考えれば『禁忌の森』の結界のおかげで吹き飛ばされていなかったという事か。
……じゃあほんとにここどこなのさ。
取りあえず情報を集めようと足を動かそうとして―
膝から崩れ落ちた。
使うのが久々すぎて『吸血鬼化』の反動のことを失念していたんだぜ!
★★★★★★
『死の血剣』
『禁忌の森』に隔離されている際に主人公が秘密裏に体得した最強の剣。
物理攻撃無効というヤバすぎる権能を持ち、かつ霧化OFFの状態でも魔法を斬れるという破格の性能を持つ。
反面、5秒以上の詠唱が必要であり、血液と魔力も大量に必要。当たり前だが、自分が攻撃に回る際には『霧化』を解かないといけない。
ハイリスクハイリターンな血剣。
分厚い刀身で重い。
長さは90cmほど。
『血剣』の詳細
『裁きの血剣』、『鮮血の双刃』は小型なため自傷なしで創造可能。
『死の血剣』、『破滅の赤』はデカすぎて手から生み出すとか無理があるため、自傷が必要。
『死の血剣』の説明は設定資料集的な何かの回にも追加しています。