力の露見。マジかー
マンティコアの大量出現事件があってから半日。
慌ただしく、後始末を進める冒険者やギルドの職員を尻目に僕らはギルマスの部屋にやってきて、というよりも呼び出されていた。
あれ? なんかデジャブ感じるなぁ。
こんな事、まえにもあった気がする。
そしてこんな事があった時は大抵何か良くないイベントな感じがする。
いや、ただの今日の疲れを癒す睡眠同好会の活動かもしれないけど、それならサフィアまで呼び出す必要がないんだよなぁ。
「お前らはこの町にいられなくなった」
はい悪い予感的中。
なんで悪い事に限って勘が働くんだろうね。
良いことだったら嬉しく、もないか。
いい事が事前にわかったらその時の喜びが半減するもんね……
そんなことより大事なのは話の内容。
開口一番、理解不能の言語を発したギルマスのほうである。
「なんでー?」
いつもの軽いノリでごり押そうとする僕にギルマスはなおも真剣な表情を崩さずに告げた。
「お前らが強すぎるからだ……」
いや強すぎると街居ちゃいかんのかい?
意味わからんて。
机に顎を乗せ、嫌そうな顔を隠そうともしない僕を見て、ギルマスは嘆息すると、納得がいかなそうな表情で続けた。
「Cランクのパーティーが個体でA-に位置するマンティコアを数十体規模で倒したんだ。ここに滞在し続ければ、この国の王。聖王国国王ザインから近いうちに呼び出しがかかるだろうな。それだけならまだいいが、マンティコアを屠るだけの実力を持った冒険者。しかも将来有望な美少女ときた。貴族や王族にとっては物凄い優良物件だろうぜ」
「なるほど…… つまり放っておけば入籍や護衛として雇われる、ギルドを通した指名依頼などの可能性がある。というところですね」
「ああ。大方それであってるな。」
入籍?
隕石の間違いじゃないの?
いやいやいや。男と結婚とかありえないって。
たとえ地球がひっくり返っても、世界が滅んでも、魔法が一つ無償で使えるようになるって言われてもそれだけは断固として断る! ってばさ。
しかも話を聞く限り、政略結婚ってやつでしょ。普通の冒険者は大喜びしそうな案件だけど僕に限ってそれはないわー。
ホントに。いやホント。
しかし納得。
だからこの町を出ていけだなんて突拍子もない話を始めたのか―。
……うーん。まあそろそろ潮時なのかもしれない。
なんだかんだかなり長い間滞在していたしここらで見切りを付けて次の町に繰り出すのもあり、かな。
正直、めちゃくちゃ寂しいけどね。
けど元々、ソフィーと一緒に世界を回るっていう旅だし。
各地を転々と渡り歩くっていうのも楽しそうだしいいでしょう。
できたら寝てたかったけど。
いやどこにいっても寝るけど。
ソフィーはちょっと寂しそうだ。
いつもは元気いっぱいか眠たそうなのに今は俯いて悲しそうな顔をしている。
旅はしたいけど、この町にもっと長く滞在していたかったんだろう。
あんなわけのわからん襲撃で急に旅再開みたいになってしまってその心構えがまだできていなかったんだと思う。
僕もこの町に長居していたいのは同意だけどこればかりは仕方ない。
悪いのは襲撃してきたマンティコア、もといそれを送りつけてきた何者か。
不本意ではあるけど、これもいい機会だ。
正直居心地が良すぎて気づいたら100年ぐらいたってそうだったからね。
名残惜しいけど、出発の時だ。
そういうわけならさらばギルマス。
善は急げ。
「じゃあ。またいつか!」
サフィアとソフィーを連れて部屋を出ようと扉に手を掛ける。
「ちょっと待った! まだ話は終わってねえぞ?」
出鼻を挫かれました。