異変
睡眠同好会。
略して睡同
さてさて今宵もおやすみなさい
「ぐう」
「すう」
「ぐがあ」
寝息の音が静かな室内に満ちる。
幸せな時間を堪能していた僕ら睡眠同好会のメンバー達。
しかし無情にもそんな幸せな時間を引き裂く脅威が迫ってきていることをこの時の僕はまだ知らなかった。
――――――
とある冒険者side
「グガァァァ!」
時は朝方。日が空に昇り、暁の光が空を彩り始めたころ。
いつもの日常を送っていた俺たちの前にそれは唐突に現れた。
「うおおお」
一人の冒険者がそれに突っ込んでいく。
しかし無情にもその化け物が軽く腕を振るっただけで血が噴き出し肉塊と化した。
「ひぎゃああ」
恐怖に顔を歪ませた冒険者たちが化け物とは逆方向に走っていく。
その場に残った冒険者は俺を抜いてたった6人ほど。
一塊になっていることから金目当てで集った高ランクパーティーだろう。
リーダーらしき剣士の男が覚悟の決まったような瞳でマンティコアの事を見つめている。それに同意したとでもいうように他のパーティーメンバーもマンティコアの異様に臆することなく立ちふさがる。
冗談じゃない。あいつらはあれと戦うつもりなのか?
マンティコアが近くに寄ったことを敵対行為とみなしなのか『魔力波』を放つ。
その獰猛で肌に突き刺さるような魔力波に逃げようとしたもの達がバタバタと倒れていく。
逃げるに逃げられない耐えがたい恐怖からか、自らの運命を悟ったらしい冒険者や村人たちの阿鼻叫喚が響く。
かく言う俺もあいつの殺気に充てられて身動きが取れない。
それでも俺が冷静でいられるのはまだカードが残っているから。
空間魔法の一種である転移。これが俺がクールでいられる理由。
構築には1分以上の時間を要するものの発動すれば王都まで逃げ帰ることができる。
もちろんマンティコアを見た瞬間から構築は始めている。
そのおかげでもう発動まで一分を切っている。
転移が発動するまでの間。
こいつらに時間を稼いでもらって俺は生き残って見せる。
我ながら完璧な作戦だ。
周りで泣き叫ぶ奴らには悪いし酷だと思うがそれでも俺は自分の命を優先する。
勝てる勝てないの次元ではない強敵に出会った時は逃げるのが冒険者の鉄則なのだから。
暗黙の了解で村や人を魔物の脅威から守るという責務があるがそんなものは酔狂な奴らだけに任せておけばいいのだ。
『威圧』を受けても屈しない6人を得物ではなく敵と認識したのかマンティコアが猛然と突っ込んでくる。
一人が魔法を速攻で放つ。
発動速度から低位の魔法だと思われる火の玉が直撃。
しかしそれを気にも留めずに実際効いていないのかマンティコアは歩みを止めない。
牙を向けて襲い掛かるマンティコアに2人が剣で足を狙う。しかし、その刃は硬い皮膚に弾き返されている。
煩わしいとばかりに振るわれた爪を盾役と思われる奴が間に入り盾で防ぐ。
が、それも一瞬の事。次の瞬間には巨大な尾に吹っ飛ばされて男は民家のほうに突っ込んでいった。
盾がなくなったことで連携が止まりパーティーに動揺が走る。
盾の男の死を全員が悟ったところで激昂した魔法役が中級魔法の『ウォーターシュート』を放つ。
が傷一つ付けられていない。
剣士2人が刺突をしようと剣を構えるも直前にマンティコアの爪に剣を弾かれる。
武器を失い呆然としたところにマンティコアの爪が襲いかかりあっけなく前衛の全員が事切れる。
魔法役は牙に噛み千切られ喰いころされた。
後方から弓で魔法物理を合わせた『火矢』『雷矢』を放っていた後方の女達も虫のように尾で薙ぎ払われ命を散らす。
その数瞬後俺の魔法が完成する。
マンティコアが口を大きく開き俺に迫ってくる光景を最後に景色が切り替わった。
目の前には大きな館。
聖王国王都最大規模の冒険者ギルドの前に転移した。
はあ。生きた心地がしないとはこのことだ。