陰でうごめくもの
黒尽くめの男side
おうおうおう。すごい迫力だな。
俺を食らおうと開かれた顎を間一髪、後退することで躱す。
鎌状の鋭い爪を大剣で受け止め迫ってきた尾をしゃがんで回避。
ひえー。
強えよ。やべえよ。やっぱ強えよ。
こんなもん一発でもまともに貰えばお陀仏じゃんか。
『思考加速』
がなかったら相対した瞬間に死んでたぞこれ。
ビクつきつつも回避と迎撃を必死に繰り返す。
じわじわ追いつめられる現状に焦燥感を感じながらもまだかまだかとその時を待つ。
暫くそうして防御に努めていたが、そろそろヤバい。
息切れと切羽詰まる攻防がゴリゴリ精神力と体力を削られる。
そんな生きた心地のしない防戦を繰り広げて数分。
ようやく、ようやーく、魔物の動きが止まった。
先ほどまで射殺すような目線で迫ってきた獣が爪を振り上げた態勢で静止。爪を戻し尻を着いた。こうみると犬みたいだが、実際はただの化け物だ。
俺に対して服従のポーズをとるヤバい魔物。
伝説級に位置している怪物。下手をすれば一つの国を容易に滅ぼしかねない力をもち、冒険者であるならばAランクを超えていなければまともに戦闘すらできない物騒な危険生物。
その魔物『マンティコア』に周囲の魔物を追っ払ってもらう。
それで俺はようやく一息ついた。
『闇収納』の中からコーヒー(砂糖めちゃ入ってる)を取り出し優雅にティータイムとしゃれこむ。
甘い砂糖の味と苦いコーヒーの味が絶妙に折り重なり何とも言えない心地よさが口の中に広がる。
そんな幸せなひと時を堪能しても俺の心は微塵も晴れない。
《《マジで》》生きた心地がしなかったつーの。
闇魔法『洗脳』がなかったらどうしようかと思ったわ!
というかうまく発動しなかったら死んでたわ!
全く《《あの人》》も俺にマンティコアを捕縛しろなんて難解な仕事を押し付けて一体何を考えているんだか?
「はああ。」
一人森の中でため息を吐く。
所詮俺はあの人の使い走り。
ホントに俺を生かすも殺すもあの人の思うが儘。
あの人が俺の事を要らないと思えば俺は殺されるし、必要と判断すれば力をもらえる。
生殺与奪権さえ握られていなければホントだったらのんびりゴロゴロ。
悠々自適に暮らすつもりだったのによぉ。
大体俺は平和主義者なのに。
俺なんも悪ないのに。シクシク。
一人涙を流す俺を心配してか擦り寄ってくるマンティコア。
それを手で制止する。
やめろお前口臭いから。
血の匂いとか、獣臭やらで常軌を逸するほど悪臭なんだよ。
人間の口臭とは比べ物にならないんだよ。
そこんとこ分かってるんか?
「入れ」
発動した『闇収納』に入るよう促す。
迷いなくそれに飛び込むマンティコア。
うわ。容量ギリギリじゃんか。
マジやっばいわ、こんなもん連れ帰ってあの人は近いうちに戦争でも起こす気なんですかねえ。
おー怖。そしてそんな物騒なもんに首突っ込んでる自分の現状も恐ろしいんよ。
しかし、帝国。それもあの方の前では弱者に拒否権はない。
使い古されてボロ雑巾になるまで淡々と任務をこなすしか生きる道はない。
思い出すのは一戦交えた赤髪の少女。
あれは羨ましかったな。守るものが傍にいるのは幸せなことだ。
俺はもう家族も友人もなにもかも失ってしまった。
残ったのは自分の命だけ。
一人になって思うことは結局平和が一番ってことだ。
死ぬのは怖い。
戦場で華麗に散るような名誉ある死だとしてもお断りだ。
どんな死に様だろうが大小の差はない。
生きていなければなにも為せないのだ。
無価値で残されたものの心には只々慟哭と空虚が残るだけ。
まあ、俺が死んだところでもう悲しんでくれる人物なんていないんだがな。
残るのはあの人の有用なコマが一つなくなったくらいの不便さだけだろう。
とはいえせめて生き足掻いて死んでやる。
ま、死ぬまで死ぬ気はないし任務以外は好き勝手にぐうたらさせてもらうが。
影魔法を発動し木から木へと移りながら帝国を目指す。
はあ……
どうして俺がこんな目に。
あばばばばばばば。
吸血鬼「どしたん作者。弱すぎる精神が天にでも昇っちゃった?」
作者「いや、どうしたもこうしたもないのよ一大事よ一大事。作者が吸血鬼を描くに至る一翼を担った作品が消えてしもたんや、悲しいんや。泣いていい?」
吸血鬼「いやでもあの【魔王】のスキルを継承して百合ハーレムを作る小説。作者途中までしか読んでないにわかでしょ?」
作者「そうだよ。けど違うの。面白すぎるから後で読もうと残しておいたの! 作者は美味しいものは最後に取っておくタイプだったの! それなのにまさか永遠に続きが読めなくなるだなんて……」
吸血鬼「なにを言っても墓穴を掘りそうだから、詳しくは触れないけど、まあとにかく作者はお気にの小説が消えて精神崩壊してるみたいです……」