テンプレ?
盗賊から押収させてもらった金品やらを換金店のおじさんに持っていったら銀貨十五枚と銅貨五十四枚になった。
盗賊捕縛代金もそれなりに貰ったからしばらくお金に困ることはなさそう。
この世界でこの金額がどれくらいの価値なのかはわからないけど、貨幣が重いことにちょっと異世界っぽさを感じつつ、換金屋のおじさんからお金を受け取った僕達はさっそく冒険者ギルドへと向かうことにした。
バーーンといった感じに両扉を開け放ち、中に入ると、昨日は一瞬だったからか感じなかった視線が刺さる刺さる。
見定めるような視線の嵐に内心滅茶苦茶動揺しながらも、平静を装いつつ、ポーカーフェイス。
飛んでくる視線を見ないようにしながら、昨日と同じ受付嬢さんのところに直行する。
誰にも話しかけられずにカウンターへ移動出来た事にほっと息を吐く。
心の平穏を保つためになるべく早く済ませよう。そうしよう。
そう思って僕が受付嬢さんに話しかけようとした刹那の事
「おいおい嬢ちゃん」という野太い声が掛かりそれと同時に肩に何かが触れるのを感じた。
体に悪寒が走り、反射的にその手を打ち払う。
今日一番の不快感を感じながらも振り返ると巨体があった。
2Mはあろうかという男で野太い声に毛むくじゃらの手足で覆われている。
革制の服は如何にも旅人や冒険者といった感じ。
正直体毛のせいで一瞬魔物と見間違えた。
ごめん嘘、魔物かと思って臨戦態勢取っちゃった。テヘ。
『血剣』を構えて身構える僕に対して男は不快そうな表情を浮かべている。
まだキレてないから男にとってこれが日常茶飯事なのかもしれないけど、こいつも悪いと思うんだ。
僕みたいなかよわい美少女(自称)の肩に毛むくじゃらの男が手を置くなんて犯罪以外の何物でもないでしょ。
僕と男、両者不快感を露わに睨み合っているところに変態が油を注ぐ。
「貴様。さっきから見ていれば主様に対して無礼な態度…… そんなことをしてどうなるか分かっているのか下等生物」
サフィアの侮蔑の瞳がゴリラのような男の事を射抜く射貫く。
鞘に提げた血剣に手を掛け、手を小刻みに震わせている。
それでも男に襲い掛からないのは僕からこいつを殺す許可を貰いたいのだろう。
……サフィアの怒りが凄すぎて怒りがちょっと冷めたよ。
いや、流石に殺すわけにはいかないよね。
ここは穏便に話を済ませないとだよね。うん。
そうと決まれば癪ではあるけど、このゴリラさんに訂正の言葉を……
「ふんっ。生意気な目をしやがる。ちびと女だけで、盗賊を刈るとか、不正してんだろ。俺様が教育してやんよ」
「は?」
カチーンと来た。
誰が身長が低すぎて常に上を見上げていて首が凝る可哀そうな奴だって?
うん。やっぱこいつは殺そう、そうしよう。
ギルド内を膨大な魔力波が覆った。僕の魔力波に充てられてあるものは口から泡を吹き失神し、あるものはたじろぎ後ろに後ずさる。
肝心の毛むくじゃらおじさんはというと一瞬顔こそ引き攣らせたもののそれでも引き下がる様子はない。
それどころか暴言をたらたらと吐き続けている。
「! ……なんだ。俺がその程度の魔力波でビビるとでも思ったのか? 剣なんて構えて後ろの物を守るお姉ちゃんごっこでもやってんのか? それによく見たらそのガキ。おうなかなか将来有望そうじゃねえか。おいチビ痛い目にあいたくなかったらそのガキこっちに寄越しな。そうすればさっきの事は不問にしてやるよ」
「……」
こいつは今何て言った?
僕をちび呼ばわりした挙句。さらにはソフィーを奪うと、そう、いったのか?
もともと最初に下品な声で話しかけ肩まで触るというセクハラをやらかしたのはあっちだし。半殺しにしても誰も文句は言わないよね。
いや、むしろ誰にも文句とか言わせん。
構えていた血剣を男の頭めがけて振り下ろす。
男は不敵に笑みを浮かべ僕の剣を真っ正面から受け止め、薙ぎ払う。
無防備な状態で空中にいるのはまずいと薙ぎ払われた勢いを殺さずに後退し華麗に着地。
感情だけで動けば隙が生まれる。
そういった隙は戦闘において致命傷になる。
『再生』もわずかなタイムラグがあるし追撃されかねない。
一旦距離を取り男とほぼ同時に地を蹴る。一瞬で間合いがつぶれ、つばぜり合いが起こり火花を散らす。拮抗する力を瞬時に察知し剣を滑らせ受け流す。驚いたような表情を見せる男に横なぎに剣を振るう。
さきほどの僕の受け流しで体勢が崩れていた所への一撃。
これでチェックメイト。そう確信した僕の予想を裏切って男は剣を縦に構えることでこれを防いだ。
ならばと斜めから斬りかかるがしかし剣は空を切った。
男がでかい図体では考えられない身軽さで後ろに跳んだのだ。
互いが気を研ぎ澄まし致命の一撃を放ちあう。
瞬くような速さで繰り返される剣の応酬に見惚れたのか周囲の声がやたらと騒がしい。男の大剣は森で遭遇した黒ローブとの戦いを思い出させる。
僕は強いけど身長が足りない。
認めたくはないけどそれは事実だ。
前世は170はあったけど今世は150あるかないかぐらい。身長的に長剣が持てず、リーチが絶対的に短く攻めきれない。魔物との戦いならば首を刈ればそれで終わったんだけど人間との『剣』との勝負だとそうはいかない。
ええい!
うだうだ考えるのはやめ。もう面倒だし圧倒的な力でねじ伏せたるわ!
「『吸血鬼化』」
変化は劇的だった。圧倒的なまでの力が君臨する。僕の魔力波に充てられてかギルド内には数人しか意識を保ってない。
対峙する男の瞳にも恐怖の色が見えた。
謝っても、もう遅い。
僕をチビとのたまい挙句にソフィーにまで手を出そうとした罪。
その身をもって償うがいい。
スキルを全開にした僕の体が一瞬にして男に肉薄し、先ほどとは比べ物にならないほどの神速の斬撃が一閃する。
それだけで男の体が冗談みたいに吹っ飛んでいき、壁に衝突。
それだけに留まらず、壁を突き破り何度か地面を跳ねて、隣の家の壁にぶつかることで、ようやく止まった。
反射的に剣は構えていたみたいだけど、それすら圧倒的なステータスを誇る僕の前では些事でしかなかったね。
……ていうか剣がヒビ入ってるし。
っふ。これこそが圧倒的暴力というやつだよ。
「うっそん……」
冒険者の誰かがそんな声を上げたのを幕明けにわっとギルド騒がしくなる。それからサフィアとソフィーが駆け寄ってくる光景を最後に僕の意識は闇(睡魔)に途絶えた。