盗賊狩り
猛ダッシュでギルドを後にした僕たちは速攻で盗賊を探しに向かった。
どこぞや? 盗賊どこぞや? 場所聞くの忘れたー! あーー。
引き返すかして改めて聞くべきかな?
いいや、そんなことをすれば うわー。こいつ ば、か、だ、なー プークスクスとか思われそうだなー
うん。それは嫌だ!
つまーり!我に引き返すという行動は取れぬ。
いつ見つかるかもわからぬ。
……まあ、どうにかなるっしょ!
幸いここら周辺は森と違って道は整備されている。
草木を取り払っただけでも森に比べれば土のみの道なんて可愛いものだ。
むしろ前世のコンクリより安全そう。
転んでもいたくなさそうだし。
そんなところを爆走しながら突き進んでいく。
ステータスで底上げされた体力でもって爆走しつつ探し回ったけれど、それが持ったのは一時間程度の物。
一時間もったのはすごいけど大事なのは過程じゃなくて結果なんだ。
ない。全然見つからない。どこにも盗賊居らん。
それでも根性で探し続け、気づいたときには日が暮れ始めていた。
「お姉ちゃん…… 眠い」
「主様。お戻りになって場所をしっかりと聞くべきでは?」
「バカサフィア。これも鍛錬だよ。気配を感知する技術を上げるための」
「―! そういった意味が。察することができず申し訳ございません。私では主様の深淵なる考えを見通せていませんでした。さすがです」
うーーむ。これだ。僕が何を言っても大抵こうなんだ。
途中から気配を感知する技術的な何かを模索していたのは確かだけど、自分でも屁理屈をこねていることは理解してる。
それをサフィアは褒めたたえる。
甘い。甘すぎる。
それはもう口の中にシュワっと解ける焼きマシュマロくらいにふわ甘だ。
僕の服装やソフィーとの関係にはなにかと茶々を入れてくる変態娘。
別名サフィア。
その生態は謎。
僕とソフィーの関係を知り尽くしており、出会いから今に至るまで書物をまとめて毎朝詠唱みたいに長々と聞かせてくる。
当事者ではあるけどその内容は事細かに書かれ過ぎていてちょっと怖いぐらいだ。本気で縁を切りたくなるぐらいにね……
ストーカーもびっくりぐらいの内容だもん。
そりゃびびるよ。内容? 世の中には聞かないほうが幸せなこともあるんだよ……
だというのに僕には甘い。というかなんか尊敬するような眼差しを感じることがあるんだよねー。
子供の頃はあんなに嫌われてたのにね。
なんでだろ?
とか考えていたら遂に夜がやってきました。それも夜中です。
あらどうしましょう。良い子は寝る時間ですよ。
しかーし皆が寝る時間でも『夜行性』を持つ吸血鬼にとっては昼間より過ごしやすいくらいなのだ!
そう思っていた時期が僕にもありました。
なんかねー。体がずきずき、するんだよね。
身体の奥底から炎が燃え上がるって感じ?
衝動が来てるんだよね。吸血の。
うん。鍛錬さぼって夜寝てたんだけど正解だったわ。寝てて。
感覚が鋭くなるのはけっこうなんだけど、その影響で血の匂いとかにも過敏になるっぽい。
それが表すのはつまるところ吸血衝動が高まる。溢れるぅ、というブ〇リー状態。
わー。吸血鬼っぽいって考えた諸君。
前に暴走した時の現状教えてしんぜよう?
吸血衝動増加。
思考力落ちる。
血吸う。あの時はのんだけど。
理性失う。
パラメータが上がる代わりに考えるのをやめた!
はっはっは…… いやシャレにならないくらいデメリットがやばい!
そういえばノクスはよく、夜に一人で抜け出して魔物と激戦を繰り広げてたなー
その件に関して詳しいだろうし今度あったら聞いてみよっと。
夜中なので、松明やランプで辺りを照らして監視する警備兵のような人たちがうろついてるけどそこは黒いフードとローブ+癖になっていて欲しい音を殺して歩く能力(願望)で誤魔化しとく。
いやはや、初日の夜に村に突入しなくてよかった。
だって警備兵の目が光る真夜中に村に入るとか普通に考えてヤバい奴だし声をかけられてきょどる自分の姿が容易に想像できるし。
混乱した勢いで下手すれば要らんことまで口走ったかもしれないし。
眠ってしまったソフィーをおんぶして探索を続ける。すうすう。と小さく寝息を立てていて可愛いです。その首筋にかぶりついて血を吸ったらどれだけ……
っは! やっばい『吸血』しようとしてた。
あっぶな。それはマジで抑えないと。
吸血衝動と葛藤しながら探し続ける。
永遠に続くかと思われていた時間だったけどようやく終わりの兆しが見えた。
僕達の前には隠れ家にピッタリそうなそれらしい洞窟が。
さらには洞窟の左右を松明を手に持った見張りと思われる男二人が立っている。
確定。盗賊だ。
たいしてギルドから遠くない場所にあったことに苛立つ。
僕がコミュ症なのが悪いんじゃない。
これもすべて盗賊のせいだ。そうに決まっている。
おのれ!盗賊め。僕の睡眠時間を奪いやがって。成敗してくれる!
「は?」
「え?」
その言葉が名前も知らない盗賊たちの最後の言葉だった。
僕とサフィアが手早く血剣で見張りを切り伏せる。
ギルドに受け渡したら追加報酬とか貰えそうだったから殺すかどうか迷ったけれど、ここで叫ばれると中にいる盗賊が起きてきそうだったから、首をね。
「じゃあ、いってくる。ソフィーをよろしくね、変態」
戦闘中にソフィーに怪我をしてほしくないので、サフィアにソフィーを任せ、僕一人で洞窟に入ることにした。
「お気をつけて」
「心配することはないよ。 僕の睡眠時間を奪ったバカどもを血祭りに上げてやる…… から!」
そう笑いの消えた虚ろな瞳で宣言し、後ろを振り返ることなくサフィアに手を振りながら、洞窟の奥に進む。
中に進むと呑気にも盗賊達は寝ていた。明かりがないから当然かもしれないけど、不用心にもほどがあるね。剣を向けられても文句が言えないのによくもまあ安眠できるものだ。まあ見張りが大声を出して気づかせるとかそういう算段だったのかもしれないけれど僕たちが瞬殺しちゃったし仕方ないか。
「ぐえ」
「ぐほお」
一人一人剣で刺して行動不能にするのも面倒なので槍を創造。射出して手早く処理していく。
急所は外してるから死にはしないでしょ。
「てめえ!」
「遅い」
「がっ!」
途中起きたやつもいたけど、『血剣』で手早く足を切断した。
迷いのない動きを見るに『夜目』を持っていたっぽいけど、速さも剣の振りも素人同然でいいとこなしだった。ノクスがたまに低ランクの魔物と戦って『つまらねぇ』とかほざいていたけどその気持ちが今ちょっとわかった気がする。
数分もしないうちに全員を片付けて持ちきれないほどの剣や道具を手に入れた。
その中には割と高そうなものも含まれている。
っふ…… 僕の睡眠時間を奪った罪。これでチャラにしてやろうではないか。
大体の奴も殺してはないし僕ってば優し。
麻袋のようなものがおいてあったのでそれにまとめて、両手で引きずり持ち帰る。
洞窟を出てからはサフィアが『お持ちします』ゆうてくれたので遠慮なく渡しておいた。
村に戻ると冒険者ギルドは明かりがともっていたけれど、すぐ横にある換金屋さんは閉まっていた。
村に宿はあるけど残念ながら僕らは一文無し。
盗賊をのした事をギルド嬢に伝える役目をサフィアに丸投げし、ソフィーをおぶって村の近くに設置したプレハブに戻った。
ソフィーをベットに寝かせて、恒例となったドラム缶風呂に入る。
小さな桶を使い、お湯で体を流す。
途中、盗賊との戦闘で着いた返り血を軽くなめとってみる。
「うぇ……」
けど、大して美味しくなかった。
これなら魔物の血の方がまだマシ。
味で言えば魔物の血はちゃんと動物の肉って感じでジューシーな感じなんだけど、盗賊の血は最低限の食料? 災害時に食べるような味のしない乾パンみたいなそんな味で、ついでになんか血がじゃりじゃりしてる。何食べて過ごしてたんだあの盗賊たち。
こんなことなら吸血衝動に任せて舐めてみるんじゃなかった。
閑話休題、そういえば変態の血は僕から生まれた生命だからか、全く味がしなかった。
けどソフィーの血は果物とかデザートのような甘い味がした。