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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
一章 禁忌の森の吸血鬼
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緊急会議

『結界が解けたぞぉ!』

体育館をイメージに作られた巨大建造物。


その中心に円を作るようにして話し合っているんだけど、なんかドラゴンが中央にいて魔法陣から召喚されたみたいな感じになっている。


というかこの陣形を提案したのがドラゴンだし狙ってるんだろうね。


なにか緊急事態が発生した時はここを会議の場にしている。で、結界が解けたことは早急に話し合う必要があるためこうして全員が集まってるってこと。


『とりあえずいつか結界を壊す!』みたいなことを豪語していた僕としては触れてほしくない事態なんだけど、ドラゴンはめちゃくちゃ浮かれている様子。


会議が始まって開口一番。結界が解けたなどとのたまっているのがそのいい証拠。

さらには長々と苦労話を始める始末。

うん。誰がそんなこと興味あんねん。

少なくとも僕は興味ない。


あんまりなドラゴンのバカさ加減に肩を竦めていたら頭上から巨手が降ってきた。

『おい! 何を呆れてんだよ! これから俺とお前の冒険第二章が始まるんだろうが!』

どうやら殴られたらしい。なんでやし。

そしてすごい剣幕でまくしたててくる。

なに? このドラゴン。自分の置かれている状況も分かってないのかな?


例えば町中に巨大なドラゴンが現れたとします。

そしたら人間はどういう行動に移るでしょ〜うか。

まず間違いなくそれの迎撃か応戦するために騎士団とかを派遣するでしょうなー。

そしてそのドラゴンを討伐して騎士団は英雄と謳われるようになる。


わー。拍手拍手。

みたいな物語が透けて見えるね。

まあ実際はドラゴンが強すぎて万に一つもそんなことは起こり得ないと思うけど。


なんにしろ、いい顔で迎えてくれる。なんて国はどこにもないでしょ。


そんな簡単なことも想像がつかないとか。

このドラゴンは本当に頭が腐っているんじゃなかろうか。




「バーンさん。それはさすがに難しいかと……」

僕が心底ドラゴンに呆れているとサフィアが申し訳なさそうに口をはさんだ。

変体とは言えまともな思考力はあったのか僕と同じような結論に至ったらしい。

『なんでだ? やっぱ男は冒険だろ!』

それを理解できていないドラゴン…… さん。

バカと変態のやり取りにうんざりしながらも他メンバーを眺める。



ノクスは何やら目を閉じて瞑想してる。いやねてるだけかもしれんけど


ソフィーは俯いていてどこか不安そうに見える。

それも仕方がないことだろう。

森という名の牢獄に閉ざされ、母親は既になく結界に阻まれ子供のように自由に遊びまわることも許されない生活。


それは100年以上の時が過ぎた今でも変わっていない。この森は放っておけば自然と魔物が沸いて凶悪な魔物だってわんさかいる。いくらステータスが高くなっても、使える魔法が増えても常に死が隣にある生活という根本は変わっていない。


外に出ればどこまでも木々が広がり危険な魔物がのさばっている。


それでも強くなった僕たちは肉体的には何不自由なく暮らしてこれた。

肉体的にはね。

どんなに強靭な精神を持った人間でもこんなところに100年もいれば心はすさんでいくと思う。なんならくるってしまってもおかしくない。


そんな過酷な状況でも僕とソフィーが今の今まで正気を保っていられたのはサフィアやドラゴンといった仲間達の存在が大きい。


変態と竜が心の支えになってるて思うとちょっと悲しくなるけど……



「お姉ちゃん……」

ソフィーが顔を上げて僕の名を口にする。

しかし、なにか躊躇う様に口をつぐんでしまった。

それが見ていられなくて頭をなでる。

泣いた子供を元気づけるように優しく。

「大丈夫。もう、一人じゃないよ」

「……うんっ!」

ソフィーの頬には涙が伝っていた。

今まで辛かったのだろう。

苦しかったのだろう。

それを眠ることでごまかしてみんなの前では明るい態度を貫いて。

でも結界が解けて緊張が解けた事で今まで感じていた負の感情があふれ出してしまったんだろう。

それでも今ソフィーは笑みを浮かべている。

屈託のない。天使のように眩しい笑顔だ。

ソフィーは強い。そして優しい。

皆の前で感情を隠して涙を見せずに前に進もうとしている。

僕はそんなソフィーとこれからも肩を並べて歩んでいけることを誇りに思う。


「……」

ノクスは終始無言で感情を表に出していない。

寝てるのかどうか判別がつかないけど、起きているとしたらぶん殴って記憶をなくす。

このことは僕とソフィーの二人だけの秘密にしたいんだ。

なんか『二人だけの秘密』って響きいいし。

まあ、あの戦闘狂は戦う事しか考えてないから万が一起きていても誰かに言うことはしないだろうしすぐ忘れるだろうけど。

ソフィーの涙を拭いてもう一度頭を撫でてから正面を向く。


軽くいい争いになっているドラゴンと変態にうんざりしながら、でもそんな状況をほんの少し心地よく思う。


それでも、結界が解けた以上、向き合わなければいけない。


「みんなもうわかっていると思うけど、昨日侵入者が現れた。つまり僕たちを阻む結界はもうない。長かったけどここでの生活はもう終わりだ。この先どうするかは自由だけど、皆はどうしたい?」



「ソフィーは…… ――世界中に友達が欲しいの! 百年以上たってもこの気持ちは変わらないもん!」

「うん。もちろん僕も一緒に行くよ!」

「それならば私も同行いたします。」

僕とサフィアがそれに賛同し、同行することが決まる。

まあ、こうなることはわかっていたけどね。



「俺は一人で行くぞ」

ノクスの口から出たのは意外な発言だった。


戦闘狂なノクスだが、なんだかんだ優しいし仲間思いではある。

だからてっきり僕たちの旅に同行するものだとばかり思っていた。

「ノクスちゃんはいかないの?」


僕の疑問を代弁するようにソフィーが口にする。

「母さん、それにババア。勘違いするな。お前らの事は嫌いなわけじゃない。だが俺の旅の目的は強くなることだ。百年以上同じ屋根の下に暮らしておいて酷かもしれないがお遊び旅行に付き合ってる暇はない。」

お遊び旅行が嫌だから一人で旅をして強くなる……と。僕が思っていたより数段ノクスは戦闘狂だったかもしれない。

こんな子に育てた覚えはないんだけどなー。

どうしてこうなった?


『……我はどうすればいいのだ』

震える声で念話するドラゴン。

さきほどのサフィアとの会話で事の重大さに気付いたのか今更焦っているらしい。

「知らん。」

「それは……」

「?」

「……」


が、差し伸べる手は存在せず。

『このままでは我またボッチではないか! エア友達もそろそろ限界だぞ!』

叫ぶドラゴン。沈黙する僕達。

「時間は山ほどあったのに人化っぽいスキルも取らなかった奴の事など知らん」

『仕方ないではないか! この森だと大して不便じゃなかったんだもん!』

「一ミリも可愛くないし。取り敢えず人化のスキル取れるまで人里にはおりないほうがいいよ。バカドラゴン」


『ふ。バカなどという低俗な罵倒で寛容な我が怒るとでも思ったか…… ぶっ殺してやる。ここじゃ狭いな。少し表にでろ』

「上等。今日こそは叩きのめしてやる!」

「待って、俺も混ぜてくれ師匠!」

「主様を傷つける輩は許しません。」

「ソフィーはお昼寝してくるのー」

そうしてバカ騒ぎをして時が流れていく。

それも今日で終わりと思うと名残惜しいけれど、今はこのカオスな日常を心から楽しもうと思う。


……時はすべてを解決してくれるというけれど僕たちにとって今流れゆく時間は別れへのカウントダウン。それが淡々と刻まれ、別れの時が迫ってる。


もう少しで終わりを告げるこの生活に最後の色を付ける様に僕たちは喧嘩バトルを開始した。


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