閑話 動き出す歯車
そこは世界の中でも有数の武力国家。
戦時での圧倒的な強さと残虐性から『死神』と恐れられどの国も迂闊には手をつけられないほどの力を有している。
その名をディエス帝国。その中央に位置する王城の一室で二人の男が薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「カミラ。して、いつ結界を解く?」
カミラと呼ばれた執事服に身を包んだ男が顔を上げる。服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体に白髪をオールバックにまとめている。年を重ねていながらその瞳は鋭く未だに強い光を放っている。
「陛下。予定としては聖魂暦673年の予定でございます」
カミラと呼ばれた男は片膝を立てていた所をおもむろに立ち上がる。
「しかし陛下。本当に宜しいのですか? あの森には300年前に結界を張ることを拒否したとされる狂気のエルフの生き残りがいるのでは?」
「構わん。エルフの寿命の長さを加味してもあの森には凶悪な魔物達が蔓延っている。その状況下で生き延びることのできたエルフなど存在しないだろう。大半が自らが犯した罪を贖い、懺悔し自分たちの信仰する神に祈りでもささげて息絶えたことだろう。仮にエルフが何匹か生きていたところで、我が覇道を妨げることはできん」
凍てつくような瞳と起伏のない声音にカミラは一瞬目を見開くがすぐに表情を戻した。
「本当に結界を解くのですか、陛下? そんなことは各国が許さないでしょう」
「既に大国との交渉は終わっている。皆同意してくれた。数百年前に現れた異常な強さを持つ魔物達の謎を解明するにはいずれ、結界を解かなければいけなかった。いつまたあのような厄災が訪れるか分からない以上、多少危険でも仕方がない。皆願ってもないことだろう?」
「しかし陛下」
「くどいぞカミラ。何人たりとも我が道を止めることは許さん。障害があるのならば取り除くのみ。あいつに似た聖人君子のような輩が出ようと我が敵ではない」
「……はい。」
カミラは言いかけた言葉を飲み込んだ。それを言ってはこの男の神経を逆なでするだけだと。普段は険相な顔立ちをしているカミラだが今は苦い顔を浮かべている。
「全ては我が筋書き通り、最後の瞬間に各国が、人間がどんな醜い姿を見せるのか、楽しみでならんな」
静かな室内に男の狂気の薄笑いだけが、断続的に響いていた。
その声を合図に始まった男の計画はこの世界そのものの命運を分ける大事件へと発展していく。
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「遂に動くか帝国よ。」
帝国から南方にずれ遠く離れた位置に君臨する聖王国。その聖教会の聖堂で一人の老人が不気味な笑みを浮かべていた。
「貴様のその狂気に満ちた瞳も計画もすべては我が術中の中よ。世界の広さを知らぬ若造が。ーおお神よ私に力を授けてくれるのですか。はい。わかっています。必ずや成し遂げて見せましょう。貴方様の御心のままに」
髭の生えた老人が銅像に触れ、魔力を捧げる。
それに続くように部屋のものが手を合わせ銅像に祈りを捧げる。
皆が虚ろな顔をして生気がないというのに不気味にも、その顔には笑みが張り付いていた。
――――――
夕日に染まる地平線を眺めていたクローフィーは一人感慨にふける。今日でこの世界に転生してきて120年が経とうとしている。茜色の空はいつもと同じであるのに何かを予兆した様に輝いていた。
「あ、お姉ちゃんまた一人で夕日見てるの。ソフィーも一緒にっていつも言ってるのに!」
「そうですね。母さま。どうして主様はもっと母様に構ってくれないのでしょうね。私も二人仲良くしているのが見られないと寂しいです。」
外野が何か煩いがサラッとスルー。
気にせずクローフィーは日が沈むまでの短い間。幻想的な光景を目に焼き付けたのだった。
吸血鬼「一応この回の話は、後に繋げようと思っているけど、曖昧なうえ、まだどういう感じに終わらせるか決めていないから、多少つじつまが合わなくても許してね」
by作者、and吸血鬼より