瞬く間に時は過ぎ……
結界が晴れることも、壊すこともできないまま百年の月日が過ぎた。
相も変わらず僕たちはプレハブさんの中で過ごしている。
特に改修工事は行っていないがサイズそのものをでかくして部屋はワンルームを卒業しておおよそ5つの部屋に分けられている。
寝室。お風呂場。食事処。寝室。寝室。
本当に最低限の物しか置いてないけど各々自分の好きなものをおいて部屋を飾っている。
ちなみに僕の部屋は相も変わらず何もない。強いて上げるならば着替え用の棚と自分なりにまとめた使ってみたい魔法研究書(黒歴史)が保管してあるぐらいかな。
あといろいろあって僕たちの間には子供ができた。
色々ありすぎだろって?
百年ですよ百年。
現代人の一生分の時を過ごしているんですよ。
人間だったころは悠久の時を過ごす種族とかカッコよくて憧れるー!
とか思ったこともありましたよ。
でその種族になって思ったこと。
暇。圧倒的に暇。
結界に蔓延る魔物や動物の生態系はほぼ把握済み。
その中で苦戦したこともあったけれど、もうそれも五十年くらい前の話なわけで、今僕たちの相手になる魔物なんていないし。
難なら魔力波を放出すると弱い部類に入る魔物達は逃げてくし。
外の世界に思いを馳せていたこともあるけどそれも五十年も続くとお思いかい?
で、話を戻すと暇になりすぎた結果惰眠を貪るのが大好きになったソフィーがあることをお願いしてきたわけだ。
曰く、話し相手が欲しい。
つまり友達が欲しい。
最初はさすがに無理っしょとやんわり断ったんだけど、が、しかしその日からソフィーが疑似的なヤンデレの波動に目覚め僕から片時も離れようとしなくなってしまったわけだ。
僕もソフィーの事は家族だと思うぐらいには大好きだけど、流石にお風呂までついてこられると……ね?
でそんな僕の心の平穏を取り戻すために試行錯誤した結果。
生まれたのが派生スキル。
転生直後に使おうとして断念したスキルの『眷属召喚』これと『眷属化』を掛け合わせて生まれたスキル。
『眷属生成』
効果は吸血鬼である僕と他の種族の血を混ぜ合わせて新たな生命を生み出すというもの。
結果生まれたのが僕たちの疑似的な子供。
決してコウノトリが運んできたとかそんなことはないよ?
もちろん僕がお風呂で意識が飛びそうになったとかそんなこともないよ?
うん…… ないない、ないし!
スキルで子供が生まれるのかという懸念はあったけど無事成功した。
血が混ざりあって命が生まれるという仕組みは全く分からないけどね。
血が人間に近い姿になるってどういう事よ?
ソフィーのヤンデレの波動に充てられて僕が死に物狂いで行ったことだから。
うん。わからん!
その時の記憶すら曖昧なのにわかる道理なんてないのだよ。
何事も為せば成る! だよ。たぶん。
で、なんかよくわからんけど生まれた子供は最初から意識があってある程度成長した状態で生まれてきたんよね。見た目5歳ぐらいだったかな?
なんで赤子じゃないんだとかいわれてもそこらへんはわからん。
ぶっちゃけこのファンタジー世界(多分)でそこを気にしだしたらきりがないでしょ。
まあそんなわけで長いこと時が経ってしまったのだよ。
今では僕もすっかりおばあちゃん。ロリババアとかいわれてもおかしくないとしになっちゃったわけだ。
そんなおばあちゃんの僕は絶賛睡眠中でございます。
身体はピクリとも動かせません。
決して布団の温もりが気持ちいいとか、いやそれもちょっとはあるか。でもそういうのはほとんどありません。
目覚めて鍛錬でもしようと思っていた所で、ソフィーにまたも奇襲を受けて僕は現在ソフィーに抱き着かれ拘束状態であります。
とほほです。
あのかわいかったソフィーも、いまや106歳。
とはいっても重ねたのは年齢だけで(失礼)
外見に変化はないかな。
強いていうのならちょっぴり大人っぽくなったきがする。
……主に積極性が。 なにがとはいわないでおくよ。
僕がソフィーが成長? したことをしみじみおもっていると扉をトントンとノックする音がした。
「はいってーいーよー そして助けてサフィアー」
僕が棒読みにセリフを並べ入室を許可すると一人の女性が現れる。
「失礼します。主様、母様」
優雅に一礼しながら入ってきたのはメイド服を着た美女。
何を隠そうこの子が僕とソフィーの娘です。
子供を作った『眷属生成』のスキルの影響なのか僕の特徴を色濃く受け継いでいる。僕と同じ紅の瞳に腰あたりまで伸びた鮮やかな緋色の髪、容姿は可愛いというよりかは美人さんといった顔立ちをしている。
僕を大人にした感じっていうのが一番わかりやすいかな。
そしてなぜか頼んでもないのに僕たちの世話係。件メイドをしている。
……うん? 今考えたら自分の娘が自分のメイドっておかしくない? おかしくないか……(洗脳済み)
「まあ、今日も随分と激しく致したのですね。主様」
「待て待て待てぃ! 誤解を招くような言い方をするなよ! それに僕とソフィーは同姓なんだからそんなことはでーきーまーせーーんー」
こんなやり取りを毎朝続けている。小さい頃はもっと可愛げがあってこんなこじゃなかったのに。
どこのどいつだ! 家の娘をこんな風にしたのは! ……僕か。
一人、胸中でボケツッコミを繰り広げている僕には目もくれずサフィアはソフィーを起こさないように僕から素早く引きはがした。
「おおー」
まさに熟練の技!
「何をいまさら驚いているのですか主様。朝食の準備がそろそろ完了しますので着替えを済ませてください」
「わかったー」
うーむ、我ながらどちらが母親なのかわからないな。このやり取り。
ちなみにサフィアがメイドになった初日。奴は僕の服を脱がしてお着替え手伝います。とか言ってきた。
速攻で蹴りを入れておいたけど。
そしたらあの娘なんて言ったと思う?
『赤面している主様。これでご飯3杯はいけますね』。
だってさ! あれ? マジでなんでこうなった?
どこで育て方を間違えたんだ。
……まさか! 僕には子育ての才能なかったのか!?
……サフィアの相手は今度からソフィーに任せよう、そうしよう。
ソフィーの拘束でだらけたパジャマを着なおして立ち上がる。
うお。丸一日寝てたからか足元がふらつくな。
え? 丸一日も寝るなって?
バカですか? さっきも言ったけど100年だよ。100年。
暇なの。とても暇だったの。寝るぐらいしかやることなくなるぐらい暇だったの。
だってこの世界ゲームないしアニメも漫画もラノベもないしー。
結果惰眠をむさぼるのが一番!
こうなるのはおかしい?
否!自然な流れである。
僕と長く一緒にいた影響か僕の惰眠成分がソフィーにも感染している。
なんせ僕より寝ている時間が長いからなー。天使からひきこもりにクラスチェンジしてしまったんだ。なんと立派なことか。子が親を超えていく……か。
なんと素晴らしいことだ!(ソフィーにだけ甘い)
「うわ! サフィア。また女物の服しか入れてないな!」
「女性たるもの服装には気を使うのが当然だといつも申しておりますが」
「い・い・の! 僕は男子にもてたいわけじゃないし第一ここ森の奥だよ! 自分の家族以外顔合わせないのにどこにおしゃれなんてする必要があるのさ。ジャージ。ジャージ着るから!」
『血液創造』で手早くジャージを作ろうとした僕の手をサフィアが包み込むように手をかぶせてきて止めてきた。
「それとこれとは話が別でございます。私の目の保養…… おしゃれは乙女のたしなみというものでございます」
「ねえ。サフィア。気のせいかな? 今自分の娘からすっごい不穏な言葉が聞こえたきがするんだけど!?」
さっと目をそらして素知らぬ顔をするサフィア。
「気のせいではありません。私は決して嘘はつきません。ちょっとごまかしただけです」
「それを嘘っていうんだよ!」
「そんなことより早くこれに着替えてください。それとあまり騒いでは母様が起きてしまいます。そういうわけで外でお着換えください。あとジャージとか着たら今日の鍛錬は地獄を見ると思ってください」
そういうとサフィアは僕のことをぐいぐい押して部屋から追い出そうとする。
僕の素のステータスだとサフィアをぶっ飛ばしてしまうのでそのままされるがままになり廊下にほっぽり出された。
しかし閉ざされそうになった扉をひっつかみ再度抗議する。
このままで納得いくわけないでしょうが!
「いや。ねえ! やっぱいろいろおかしいって! さっきの目のほよーー」
「そんな事実はございません」
ばたんと音を立てて扉が閉まった。
サフィアの奴「身体強化」使ってまで否定するとは。
ってことはやっぱりもしかしてもしかするともしかしなくても。限りなく高確率で。
どうしよう。うちの娘は変態かもしれません
それも母親譲りの。