親、姉として
朝。防弾ガラスの窓から刺す朝日に目を覚ました僕は眠い目を擦りながらパジャマから裾の短いローブに着替えて朝の支度を終えてソフィーが起きて来るまで軽く食事を取ろうと食卓に移動する。
「ふぁあ、あ〜、ん……」
自分の幼さを残した声にまだ少し違和感を感じながらも、体は自分の思う通りに動く。
むしろ転生する前よりも軽く感じるくらいだ。
調子に乗っって無駄に中世っぽくデザインした装飾の豪華なゆったりとした椅子に腰掛けて食事を取ろうと『血液創造』を使おうとしたところでーー
「おねえちゃん……」と、どことなくよわよわしい感じのする声が僕の耳に入った。
「ソフィー。おはよー」
「なんで、ぐすっ。おねえちゃん。ソフィーと、一緒に寝てくれないの? ソフィーのこと、嫌い?」
声の聞こえた方に視線を向ければ、そこには瞼に涙を溜めて今にも泣き始めてしまいそうなソフィーの姿が。
や、やばい。
そ、そうだ。こ、こんな時は話題をそらそう。
「あ〜、え〜っと、ほらソフィーの好きなりんごさんだよ〜」
瞬時にリンゴのぬいぐるみを創造してソフィーに手渡す。
しかしそれでもソフィーはぬいぐるみに顔を埋めるばかりで一向に泣き止む様子がない。どうしたものかと頭を悩ませたところで、ソフィーが再び声を発した。
「おねえちゃんがいなくなったら、ソフィー。寂しいよ、いやだよ。はなれたくないよ」
ソフィーの声は静寂を保っていた室内にがやけに大きく響いた。
遠い昔の前世。僕がまだ10歳にもなってない頃感じたこと。
自分を捨てようとしたクズにもそこに愛と笑顔があると思っていた。
その気持ちがなんだったのか未だによくわからない。
幼い頃は不思議なことに誰だって親を、自分を守ってくれる存在が必要なのだ。
子供は誰だって一人でいることが怖くて、それだけで見えない何かに押し潰されてしまいそうな恐怖に駆られるのだ。
それゆえ親の言うことがどれだけ理不尽なことでも従ってしまうことがある。
それが世間から見て虐待と責めて咎める行為でも子供はそれが当然で自然なことだと受け入れてしまうことが多い。
ましてやソフィーは7歳で親を亡くして、今もまだ8歳と半年だ。
この先ソフィーがどれだけ強くなっても12歳頃までは成長を守る存在が必要なんだ。それが例え、親になったこともない、子育てのこの字も知らない奴でも僕にはソフィーを見守る義務がある。
自分がコミュ症だからソフィーと一緒に寝ないなどとその気になっていたお前の姿はお笑いだったよ。とか言われてしまう。ん? だれにだ?
まあとにかくソフィーは僕が守る!(ゴリ押し)
「大丈夫。お姉ちゃんはどこにも行かないよ。ずっとソフィーと一緒にいるから」
そういってぬいぐるみを抱いていたソフィーごと優しく抱き締める。
「ーぐすっ。ほんと?」
「うん! ソフィーが大人になるまでずっと離してあげないんだから」
「そふぃーはおとなになってもおねえちゃんといっしょにいるよ?」
ソフィーが心底不思議といった感じに首をかしげているのが可笑しくてつい笑ってしまった。
「そうだね。ずっと一緒だね。僕たち姉妹みたいなものだもんね」
「うん! ソフィーとお姉ちゃんはいつだって一緒なの!」
そういって微笑むソフィーの顔には先程までの不安や恐怖の色は見られず、ただただ嬉しそうな屈託のない笑顔があった。