道中
「お姉ちゃん。暗くて怖いよ……」
「大丈夫。お姉ちゃんが手をつないでいるから怖くないよ。それにどんなことがあってもお姉ちゃんがソフィーの事を守るから!」
日もすでに落ち辺りが暗闇に包まれた森の中。
僕とソフィーは外に出るために暫く鍛錬と魔物狩りをして日々を送っていた。
そして今日。いよいよ森を脱出する為にソフィーと暗い森の中を進んでいたのだ。
既に異世界に転生して2年と半年、マンティコアを倒してからは一年ほどの時が経過している。
その間ただ引きこもっていたわけではない。
森を探索して魔物の種類やどの程度の強さの魔物がいるかの確認。
ついでに駆逐。この世界にはレベルアップはなくてもどうやら何らかのシステムでステータスが変動するみたいだからね。戦っておいて損はない。
恐らく経験値なるものを得るのに一番効率がいいのはゲームのように魔物を倒すことだが、それ以外にも方法はある。
例えば鍛錬や訓練。それだけでもステータスに微小ではあるが影響がある。最も変化が少なすぎて本当にあがってるのかどうかは推測でしかないんだけど。
スキルの獲得方法については未だ謎だけどまあステータスはそれだけで強大だ。スキルや魔術で体を強化してもせいぜい一つ上のランクの格上に勝てるかどうか。
圧倒的な暴力はそれだけで脅威に成り得るのだよ。
マンティコアがそのいい例。
やつは平均ステータスBはある僕を圧倒してのけた。
そこから察するにAランクってとこ。
わー。化け物じゃないですかやだー
それでそんなAランク越えの化け物がほかにも探索したりもしてた。
まあそれは杞憂に終わったしよかったよかった。
マンティコアに再び遭遇することはあったけど、マンティコア以上に僕たちの脅威となり得るような魔物は見られなかった。
苦戦することはたくさんあったけど。ゴブリンの中でキングのように図体がデカイ魔物。硬質な毛皮を持ち素早い動きで翻弄してくるコボルト、毒攻撃が厄介だった蛇。
ちなみに蛇が一番苦戦した。
何故かって?
僕は蛇恐怖症なのだよ。威張ることじゃないのはわかっているけど、なんとそのおかげで蛇を見て硬直からの崩れ落ちた僕をソフィーがお姫様抱っこしてくれたのだよ。
これが不幸中の幸いってやつだと思う。
いやーあれはヤバかった。ある意味マンティコア以上の恐怖だった。
蛇は怖いけどそのおかげでソフィーにだき抱えられている僕。
あの時はなんかもう興奮と恐怖の感情がごちゃ混ぜになって途中から半分意識飛んでたからあまり覚えてないんだけれども。
説明すればきりがないけれどマンティコアほどの脅威ではないけど、やばい魔物がうじゃうじゃとこの森には生息していることが分かった。
そんな森の中でも今日の今日まで生きてこられたのは紛れもなくソフィーという癒しと温もりを持ち魔物と戦いつかれた僕の体を気遣ってくれた天使のような子がいたからだ。
今の僕とソフィーは互いが互いを必要としている。
そんな関係なような気がしてならないんだ。
現に今僕の手にはソフィーの小さな手が握られているわけだし優しく握り返せばソフィーが柔らかな笑みをこちらに向けてくるしね。
ソフィーかわいいマジ天使!
あれぇ? これやっぱりソフィーと二人で暮らしたほうが幸せじゃね?
もうソフィーと一緒にここで生涯終えちゃダメかな?
駄目ですか。そっすか。
暗闇でソフィーに僕の事が見えないであろうことをいいことに僕の顔はだらしなく緩みきっている気がするがそれでも緊張は緩めていない。
いつどこから現れるかもわからない魔物に目を光らせて森を進んでいくと熊、蛇、狼、鶏さん多種多様な魔物達が襲い掛かってきたが、それをすべてはねのけて、順調に森の中を進んでいた。
方角もわからないから一直線に突き進んでいるけどまあ、こうして進んでいけば、いつかは森を抜けられるだろうっていう寸法だ。
それでも疲れには勝てず僕とソフィーは深夜に入ったであろう時間帯に睡眠をとることにした。
『血液操作』と『血液創造』をリンクさせて即席で作ったプレハブに入る。
それからソフィーの水魔法で軽く身体を洗い流したところで就寝時間にすることにした。
二人分のベッドを創造。布団にダイブし、そのまま気持ちよく眠ろうと顔をうずめたところで布団にもぞもぞと動く感触があった。
「えへへ、また来ちゃったの」
「ソ、ソフィー。できれば自分のベッドのところで寝てくれるとありがたいんだけど……」
「やーー! そふぃーお姉ちゃんと一緒に寝るの!」
布団から顔をのぞかせてぶんぶんと頭を振って否定するソフィーの可愛さにやられどうすることもできずに結局ソフィーと一緒に眠ることになってしまった。
一緒に眠ったあの日から二日ぐらい家を空けたり構ってあげないとソフィーは夜な夜な僕のベットに侵入してきて甘えん坊モードで抱き着いて眠るようになった。
何度も一緒に寝ているとはいえやっぱり気が休まらない。ソフィーに甘えられた翌日は僕は日中そのままベットで気絶するように眠る。
が、しかし今日だけはそれを阻止しなければならない。
だって明日は多分疲れるんだもん。村に着くってことは必然的に人との会話が求められる。まだ幼いソフィーは話すのが難しいだろうし僕が受けこたえするしかない。
結果精神的に鬼疲れる。
我コミュ障ぞ?
それも前世では人と会話するのが嫌すぎて、エレベーターを待っているときに乗る前に人が来たら階段使って緊急脱出するくらいには極めまくってるんだぞ?
それが会話。っふ。ヤバい引き返したくなってきた。
ソフィーが眠りに入ったところを見計らって起こさないように慎重にベットから脱出した僕は素早くもう一つのベットに移動し気持ちよく眠りに入った。