これからの方針
帰宅する道中マンティコアと戦っていたとソフィーに報告すると、ものすごい勢いで心配されてしまった。姉として妹に心配をかけてしまうとは情けない。
そう考えはしたものの、確かになかなか僕は怒涛の生活を送っていたと思う。
一日一日食いつなぐことに重点を置いた日々だったといえる。
スキルの恩恵で自給自足とまではいかないもののなかなかに僕は頑張ったんじゃないだろうか。いやきっと頑張ったはずだ。
そんなわけで現在。僕はベットに横になり絶賛ごろ寝中である。
思えば転生してからサバイバル生活で休日とかなかったしどんなブラック企業だ。
だから僕にはごろ寝する権利がある。決してニート生活をしているわけではない。
ごろ寝はサバイバル生活をしている僕にとって当然の権利だと思うんだ。
♢
森に夜がやってきた。
異世界でも太陽や星があるのは同じらしく空には満天の星空が広がっている。
木々に阻まれ、一部しか視認できないがそれでも前世で都会に住んでいた僕としては星なんてものは見えなかった。せいぜい見えたのは空を彩る月光と機械的な飛行機の光程度の物。
でだ。満天の星空だよ。マンティコアの呪縛から逃れる前の僕は空を見上げて眺める余裕すらなかった。ソフィーに聞いたら毎日情緒不安定みたいな状態だったらしい。
なにそれ姉として失格じゃん。て思った。普通に凹んだ。でも健気に励ましてくれたソフィーが可愛かった。食べちゃいたいくらいに。いや食べないけど。
あれなんのはなしだったけ?
あ、そうだそうだ空が綺麗ってはなしっだった。
だって夜空だよ! 夜景だよ!
なんか満天の星空ってだけで僕はすごい神秘的な何かを感じるのだよ!
自然界でしか発生しえない超常的な現象。これだけでなんかカッコいいじゃん!
などと自室のベットから見える夜空にテンション上がりまくっているばかりではいられない。これからの事も考えていかなければならない。
いやーね。僕としてはソフィーさえいればいい気もするんだけど、テンプレみたいに『冒険者』とかあるならやってみたいじゃん。僕には軽いTS願望があったわけだけど変わらず女子が好きだし冒険という言葉に興奮しないことなどない。
心は男。体はロリコン。あ、違った。
心は男。体は少女。名探偵クロ! みたいな
あ、でも一人でやるのはさすがに寂しいからその時はソフィーと一緒がいいな……
まあ、ソフィーがNOというのなら僕は冒険者なんてやるつもりはないのだけれども。
そうそう。ソフィーは数時間前に
『そふぃーもおねえちゃんをまもれるくらいにつよくなりたい!』 といって僕が作った訓練場に魔法の修行をしに出かけた。
僕としてはソフィーは別に今のままでいいし、むしろ一生養っていくつもりなんだけれど……
はっ! いけない、いけない。
こんなことばかり考えていらまたソフィーに幼女趣味って言われてしまう。
そういえばソフィーの口から出た幼女趣味という言葉はお母さんから教わったものだったらしい。
っていうか今考えてみるとやっぱりおかしいよ!『男はみんな狼!』はまだわかるけれど、普通自分の娘に
『女性でも十分注意してね! 幼女趣味の人がいないとも限らないわ!』
何てこと教える母親がいるか?
どれだけ過保護なんだ!
……少なからずやましい気持ちがあった僕が言えたことじゃないかもだけれど。
などと今は亡きソフィーのお母さんに文句を垂れていると、ドタバタと足音が聞こえ、自室のドアが勢いよく開かれた。
「おねえちゃん!」
満面の笑みを浮かべて勢い良く僕のもとへとダイブしてきたのは我が愛しの眷属であり、家族であり天使でもあるソフィー。
重傷を負っていたソフィーだったが『眷属化』で共有した『再生』の効果でかすり傷すら見られないほどに完璧に治っている。
「けがはもうだいじょうぶ?」
心配そうな瞳でこちらを覗き込んでくるソフィー。だが僕も、これといったケガは『再生』で完治している。
「大丈夫だよ! もうすっかり元気だから」
小さく握りこぶしを作って見せる僕の姿に感極まったのかソフィーはベットの上でジャンプし始めた。
「ちょっとソフィー危ないからやめて」
「はい!」
「……」
っは!
元気よく返事をし、敬礼するソフィーの天使のような可愛さに一瞬惚けてしまった。
……っぐ! マンティコアの呪縛を打ち破った僕が抗えないほどの可愛さ。
ソフィー恐るべし。
何とか踏みとどまり意識を取り戻すとソフィーに本来の目的を告げる。
「ソフィー。僕はもっと強くなるよ!」
そう僕たちにはまだ力が足りない。
既に異世界に来て一年と半年の月日が流れているわけだが、未だに森の中を探索しきれていないし、終わりすら発見できていない。
「そふぃーもなの!」
賛同するようにソフィーが返事をする。かあいい。
「だよね! だから現状確認は大事なことだと思うんだ」
「げんじょーかくにん?」
「ごめん、ごめん。ソフィーにはまだ難しかったかな。簡単に言えばソフィーにステータスを見せてほしいんだ」
そう。『血に飢えた獣』に恐怖の感情を奪われ『血』をひたすらにむさぼり食らう獣となっていた僕ではそこまで頭が回らなかったのだろう。
自分自身の事で精一杯だったのだ。
でも今は違う。これからもソフィーと一緒に道を歩んでいくことになるのならば戦力確認は必須だろう。
「いいの!」
元気な声で返事を返してソフィーがステータスを開いたのかARのホログラムのようなものが出現する。
っていうか『ステータスオープン』って宣言しなくても思い描くだけでステータスって出てくるんだ。
……過去の自分が恥ずかしいよ。
ステータス
名前 ソフィー 状態 普通
種族 エルフ 性別 女
筋力 Fー
俊敏 F
耐久 Dー
魔力 A
体力 Fー
種族スキル
『魔法の才』
スキル
『風魔法』『水魔法』
称号スキル
『始祖の眷属』
眷属スキル
『再生』『遅老』
……おう。
風魔法と水魔法があるのは魔法系統のスキルを持っていない僕としてはとても羨ましいが全体的にステータスが低く感じる。
だけれど魔力はずば抜けている。
というか僕より高いじゃないか。AランクがあるならSランクが天井だろうか?
うーん…… 異世界系の小説だと大体がSが天井だけど場合によってはSSとかSSSとかあるからなー。
この世界のステータスの基準値を知りたいけれど、それをするにはこの森を出なければいけない。
まあ僕とソフィーには『遅老』があるし、そう急ぐことはないだろう。
まじまじとステータスを見て考え込んでいた僕の横で返事を待ちきれないといった感じに目を輝かせているソフィーの姿が見えた。
「そふぃー つよい? つよい?」
「魔法チートだと思うよ!」
「ち~と?」
「えーと、すっごく強いってことだよ!」
「つよいの? やったー そふぃーつよい そふぃーはつよいのー!」
「ところで、ソフィー?」
「なになに?」
「魔法ってどうやって使ってるの」
実際これが分からなかった。
魔力の使い方。
そういうのが僕にはいまいちよくわからないのだ。
今までの戦闘も基本的に基礎能力であるステータスと『血液創造』で生み出した『裁きの血剣』頼りの物だったし。正確にはこれも魔力とスキルの効果で自分の中にある少量の血を消費することで発動しているはずなんだけれど。
魔法に関しては使い方が分からない。魔力さえあれば使えるのかも、スキルさえあれば使えるのかも。なんにも。
ソフィーのように遠距離攻撃があれば戦いが有利に働くのはまず間違いないはずだし。
それに魔法はやっぱり使いたい!(これが本音)
ファンタジーの定番だし! カッコいいし! 派手だし! 迫力あるし!
なんなら吸血鬼っぽく闇魔法とか炎魔法とか変身とか! (個人の意見です)
「うんとねー こうバーンってやってドーンてかんじでドッカーンって感じなの!」
おうっふ。
「なるほど! よくわかったよ。ありがとうソフィー」
そんなわけないけどね。
でもソフィーが悲しむから文句も言えない。
まあ感覚で使ってるってことが分かっただけよしとしよう!
才能は人それぞれってことで。
魔法をマスターするにはソフィーみたいな感覚派じゃない人に教わる必要があると思う。
そのためにも早いとこ外に出る手立てを見つけなければならない。
このままここで生活するのも悪くないけれど日本で過ごしていた身としては何とも不便なのだ。
たとえば食。実はこれが一番辛い。『血液創造』じゃ料理後の食べ物は出せないのでいっつも食事が味気ないのだ。
というかお米食べたい!
それにドラム缶風呂もいい加減に飽きた!
ということで第一目標は森の脱出でいこう! そうしよう!