眷属化
ソフィーのけがは重傷だった。
四肢の多くにあざや打撲と思われるケガがありどれも青く腫れている。
特に手首は変な方向にねじ曲がっていて医者でもいないと治せないレベルだ。
美しかった金髪も今は土で汚れその色を失っているかのように見える。
すぐさま治療をしようとしたけれど、あいにく僕は医者でも何でもない。
応急手当のやり方すら知らない素人だ。
かといって何もしなければソフィーの流す血の匂いに魔物が集まり僕もろとも数の暴力によって蹂躙されるだろう。 かといって家に戻ろうにもソフィーを守りながら移動するのは危険があまりにも大きい。
何よりそれでまたケガなんてしたら今度こそソフィーは助からない。
「くっそ!」
どうすることもできないのか?
焦燥感に駆られるようにステータスを開き対応策を考える。
『眷属化』
対象の生物を己が眷属へと変えるスキル。
スキル所有者の血を摂取することで発動する。
己の能力をお互いに一部共有することができる。
共有できる数は眷属の数によって変動する。
多ければ多いほど共有できる数は少ない。
眷属召喚とは異なりどんな種族にも使用可能。
「ーこれだ!」
迷うことなく自分の手首を噛み千切る。
ドバドバと血が溢れ、手が激痛を訴えてくるけどそんなことも今は些事だ。
ソフィーの小さな唇に血を垂らすけれど、気絶しているからなのか血は喉を通ってくれない。
……あれをやるしかないのかな
えぇい、迷っている場合じゃない!
少しの躊躇の後、自らの血を口に含んでソフィーの喉に血液を無理矢理に流し込んだ。
『ソフィーを助けるためだから』と半ば自分に暗示をかけて同じ作業を繰り返していると――
「ん……」
というちょっとなまめかしい声と共にソフィーが目を開いた。
そう目を開いてしまった。
「んななな、あー! あーーーーー。あーー! これは違う! 違うからね!
あくまでソフィーを助けるための救命活動であって決して、決して! やましいこ気持ちがあったわけじゃなく、ただ僕はソフィーを助けるために必死だったてだけであって、それから、えーっと……」
「……おねえちゃん?」
飛びのいて瞬時にその場を離れた僕をソフィーの純粋無垢な瞳が見つめた。
その目から察するに僕が何をしていたのかは覚えていないようだ。
ホッと二重の意味で安堵の息を吐く。
一つはソフィーが助かったこと、もう一つはソフィーに変に勘づかれなかったこと。
まあ。ソフィーは純粋無垢な天使だし僕の邪念になんて気づくわけがないよね……
でも、そんなところもまた可愛い!
「ようじょしゅみ。なの?」
場に静寂が流れた。
辺りはしんと静まり返り、鳥のさえずりがやけに大きく聞こえる。
そふぃーは、いま、なんと……?
ソフィーの唐突な爆弾発言に僕の思考は一瞬停止した。
けれどそれもほんの僅かの事で優秀な僕の頭脳は瞬時に答えを導き出した。
「聞き間違い、かな?」
「ちがうよ。おねえちゃん」
僕の考えはソフィーの純粋無垢な笑顔と、返しツッコミによって速攻で否定された。