出会い
――――――
「……遅い」
既にマンティコアの待ち伏せを始めてから半時が経っていた。
太陽はすっかり高い位置に入り、今は一番日差しの強い時間帯なのか淡く光る湖を太陽光が差し込んでいる。
鬱蒼とした森の中とは思えないほどに光の強い湖にうんざりしながらも観察を続けていると、魔物達に動きがあった。
水浴びの順番を争ってなのか殺し合いを始めることはあったが、今。魔物達の視線は一転に集中しているように見える。
これには身に覚えがあった。
そう、魔物達がいつも僕を襲うときに向けてくる獲物を襲う時のような目に似ているような気が……
「いや? でもここに僕以外に人がいるはずが……」
こんな魔物がうじゃうじゃいる森。僕の持つ『血液創造』くらいのチートスキルがないとまともに生活するなんて不可能なはずだ。
……四の五の言ってる場合じゃない!
考えてる間にも魔物達は誰かに向かって突撃を始めている。
もし僕の考えてる通りならば人が襲われてるってことだ。
一大事じゃないか。
「うおぉォおぉお!」
咆哮し、魔物の視線をこちらに集め、瞬時に戦闘態勢をとる。
目に映る魔物の数だけでも十数体。
奥にいる魔物を含めたら二十体以上いるかもしれない。
「裁きの血剣」
「スピードモード 鮮血の双刃」
裁きの血剣が主の要望に応えるように純白の光を放つ。
高速でその形を変えた剣は片刃の二つの短剣へと変化した。
血で染めたような赤色と、漆黒の闇を体現したかのような黒の剣。
刺突、斬撃攻撃その両方に重点を置いた僕が『血液想像』で作り出したオリジナル武器だ。
それを逆手にもって疾走する。
向かってくる十数体の魔物達との間合いが急激に縮まっていく。
加速の勢いを利用して跳躍。
先頭のコカトリスの首を闇色の剣で回転斬りの要領で切り落とす。
攻撃しようと足を振り上げたコカトリスの攻撃をあえて受け突きの構えをとって剣で串刺しに。
それをステータスの補正で引き揚げられた腕力で薙ぎ払い周囲に群がってきた魔物達を牽制する。
それでも躊躇わず執拗に向かってくる魔物達に小さく歯噛みする。
魔物達にさえぎられて見えないがこうしてる間にも襲われているかもしれない。
この魔物達は僕にとって脅威ではない。だけど、数が多い。普段なら素早い動きで翻弄して一匹ずつ刈っていくけれど、それでは間に合わない可能性がある。
……あれを使うしかないか。
鮮血の剣で、自分の手首を浅く切り裂き、地面を赤黒く染め上げる。血だまりができた部分から脈を打つように血液が揺れ始め、やがてそれは歪みとなって荒れ狂う波のように振動する血液から一振りの大剣が姿を現す。
コカトリスをも超すほどに大きな大剣は地に足をついていては使えない。
ゆっくりと湧き出る大剣を横目に空中に跳躍すると、目で見えるほどの距離に少女の姿が見えた。木に背を預けて震えている少女は、今まさにゴブリンに攻撃されようとしていた。
「裁きの血剣」
デストロイモード 破滅の赤 起動」
赤色の粒子をまとう大剣をすぐさま掴んだ僕は少女を襲おうとするゴブリンに落下の勢いを利用して大上段から一直線にエリュトロンを振り下ろした。
直線状にいた魔物も巻き込んで大剣が唸りを上げる。
それだけで地が裂け陥没し、魔物が縦に両断される。
使えなくなった血剣を赤い粒子とともに消滅させ、落下中も攻撃の手を緩めず、裁きの魔槍を射出して魔物の数をさらに減らす。
着地した瞬間に跳躍、疾走し、鮮血の双刃に切り替えて残ったゴブリンやコボルトの首を刈り手早く殲滅する。
「……ふう。これで安心、かな。」
助けた少女は虚ろな目で僕の事を見つめてきている。
目は虚だけど、その頬には涙が伝っておりその心情をうかがえた。
僕は少女を驚かせないように目線を合わせて頭をなでながらそっと声をかけた。
「もう。安心だよ……」