僕、ツインテールになります。
※タイトルから察する方もいらっしゃるかと思いますが、今回の話は他作品のパロディが多分に含まれます。正直エゴで書いた単話みたいなものなので、苦手な方や不快な方は飛ばして頂いても深く本編に影響はありません。
上記を許容して頂けて、かつて某文庫ラノベを読んでいた方は楽しめるかもしれません。
良かったら是非是非。
ノクス、それについていく形でヨナとシェイラちゃんがドラゴンの背に乗って『サリエラ』へと向かっていった。
なにやらヨナが最後までしたり顔でこちらに手を振っていたのが気がかりだけれど、取り敢えずこれにて当面の不安は解消されたと言える。
道行く人に聞き耳を立てた限り、聖騎士A君も死んではいなかったらしい。
これが仮に死んでいたりしたら騎士団総出で捜索されていた可能性があったそうで。
聖騎士団なんぞ力では余裕で制することが出来るだろうけど、面倒ごとになる事は確実。
不幸中の幸いってやつだ。
万感の思いでヨナ達を見送った僕とソフィーはひとまず、プライベートが売りな宿屋へと戻って来ていた。
ロードを探しに行っていた変態も夕方には合流し、今は就寝前である。
前日まで修学旅行気分で有頂天になっていた気分も鳴りを潜め、大部屋の広い空間にどこか閑散とした雰囲気が漂っている。
「ツインテール……」
と、そんな静寂を切り裂くかのように意味深な言葉がサフィアの口から漏れ出た。
僕とソフィーが疑念を隠さず、『こいつは何を言ってるんだ』と目で訴えると、サフィアが狼狽して弁明を始める。
「ち、違います。主様、母様。そ、そんな目で見ないでください。興奮してしまいます!?」
おい、途中までまともだったのに、急に文面が変体と化したぞ。本性を現したな。
「コホン。そ、そのローグを教育した帰りに、ツインテールを棚引かせてはにかむ幼ー 少女を見つけまして」
「それで?」
「どうせ髪型を変えるならば、主様と母様にツインテールにして頂けないでしょうか?」
いや、まあサフィアにしては悪くない案だけど髪を結ぶのなんてこっちに来てから一度もやったことがないぞ。
髪に関して気にしている事と言えば、せいぜい形を整えるために櫛ですくくらいのものだ。髪のケアなんぞ、前世とあまり変わっていないまである。
つまり、何が言いたいかと言えば。
「無理」
「うわぇ!? し、しかし主様。それでは変装として成り立ちませんよ! 髪に関しては私が奉仕しますので、どうかご遠慮なさらずに!」
「えぇ~。でもなァ」
「ソフィー、お揃い嬉しいけど。お姉ちゃんは嫌?」
「そんなことないよ。むしろソフィーとお揃いは望む所。ただサフィアの動機がキモ痛い」
「……き、キモ痛い!?」
興奮しながらもショックを受けたように項垂れるサフィア。
……興奮しながらショックを受けるってなんだ。
器用な真似をする変態である。
まあ、でも冷静に考えてもキモイ事に変わりはない。
幼子のツインテールを見て僕とソフィーの髪型変更を進言するなど。
あれだ。まるで、僕とソフィーを幼くしたいみたいじゃないか。
ただでさえ、こっちに来てから身長が低くて苦労してるのに、これ以上小さくなって堪るか。剣のリーチとか足りない上に幼くみられすぎてからかわれて困ってるんだぞ。
「で、ですが主様も母様もツインテールにして頂ける。ふひひっ♪」
僕がコンプレックスを憂いているなど露知らず、変態がなにやら女の子にあるまじき含み笑いを漏らしている。普段、鋭めな指摘をしてサフィアを窘める事の多いシェイラちゃんやヨナが居ないことで、サフィアの変態ゲージが際限なく上がり続けている。
『禁忌の森』で家族だけで暮らしていた頃とほとんど変わらない変態へと力を取り戻しつつありそうだ。このままじゃ『エレメ〇ラ』とか体得して人々の心の輝きを奪う精神生命体にでもなってしまいそうだ。
サフィアの来るかもしれない怪獣化を憂いつつも、木製の椅子に腰かける。
こっちに来てから、身なりを整える習慣など皆無と化していたこともあり、こうして鏡と面と向かって向き合い、自分の顔をまじまじと見つめるのは実に、久しぶりの事である。
「主様。ヘアアクセサリーは何にいたしますか? ヘアピン、ヘアゴム、それともヘアクリップですか!? ちなみに、私としてはリボン一択です! 少々、結ぶのに時間を要しますが、主様の薄闇がかった緋色の美しい髪にはこの、簡素な黒色のリボンが似合うかと存じます!!」
「……なんでもいいから早くして」
早口で捲し立てる変態に僕はされるがままになる事にした。
ヘアアクセサリーのへのじも分からない僕では判断のつけようがない。
変態に頼むのは癪とはいえ、普段それなりに身なりに気を使っているサフィアに丸投げするのが最善策だろう。
「ッッ!! 畏まりましたァ!!」
背後で指をわなわなさせて歓喜に打ち震える変態淑女。
その余りの豹変ぶりに若干選択を後悔したが、時すでに遅し。
変態の魔の手が一心不乱に僕の髪を弄び始める――。
かに思えたが、サフィアは一呼吸挟んで凛とした面持ちに戻り、桶から水を掬って、僕の髪をすき始めた。
目まぐるしく流転する変態の態度。
単なる情緒不安定か。それとも呪いの類か。はたまた雷にでも打たれたのか。
なんにせよ、いっそ恐怖を抱かせるほど冷静に、サフィアは僕の髪をこねくり回している。しかし、その反面しっかりとしたケアも行っているようだ。
こ、この変態。丁寧で朗らかな仕事の姿勢に混じって、役得を最大限に活かしていやがる。
普通、興奮度が上がれば上がるほど冷静さを失うはずなのに、なぜこの変態は興奮度が上がって知能指数を増幅させているんだ。
っく。でもちゃんと自分の仕事はしてやがるからなんも言えない。これが要領が良いという奴なのか。
「これにて主様改造計画並びに、中結びのツインテール。完了であります。ごちそうさまでした!」
「……ほぉ」
我知らず感嘆の声が漏れる。
変態が、好き放題に髪を弄くり回してくる事にはげんなりしたけど、完成した髪型は中々にすんばらしい。
髪一つでこんなに印象や雰囲気が変わるものなんだなぁ。一瞬、鏡にツインテールの女神でも現れたのかと放心してしまったほどだ。
「やはり、小柄な主様にはツインテールがよく似合いますね。一時期私もツインテールにした事がありましたが、幼さが足りず、あまりツインテールを活かせませんでしたので」
「む。それだとツインテールが小さい子専門みたいなの。ツインテールは皆んなのものなの」
「言葉が足りませんでした。微塵も、ツインテールを貶めるつもりはございません」
……なんか今日はソフィーもサフィアもやけにツインテールってるな。
まぁ、こんな日もあるか。
「せっかくだから、サフィアちゃんもツインテールにするの!」
「い、いえ私なんぞがツインテールにするなど恐れ多いです」
「大丈夫。ツインテールは万物において平等なの!」
選手交代。
今度はサフィアがソフィーの手解きを受ける。
「ツインテール、ツインテール、ツインテール! なの!」
ソフィーが聞き馴染みのない古代の言葉を噛み締めながら、サフィアの髪をツインテールに変貌させていく。
カオスと化した室内の只中。
ソフィーとサフィアが互いの髪をツインテールに変換していくのを尻目に、ふとおもむろに空を見上げた。
遠くない未来、ツインテールが世に広まる。そんな光景を幻視しながら、星々灯る夜空の絶景へと、想いを馳せた。