逃亡、逃走、どうしよう
サフィアがやらかしてから数分。
僕らは一旦宿に避難してきていた。
大部屋でまあまあ高級なこの宿は他の冒険者や客、聖騎士でさえ容易には立ち入れないプライベートルームが売りだ。
つまり、ここなら絶対安全なのである。
ロードくん?
ああ。彼ならソフィーの風魔法で彼方に吹き飛ばしてもらった。
今大切なのはそこじゃない。
新しく宿を探して、かつフード以外の変装方法を即刻、考えなければいけない。
というわけで僕らは大部屋のテーブルを囲んで緊急会議を開いていた。
「髪型変更!」
取り敢えず女性陣にはそう支持を出しておく。
髪型を変えるだけでも結構イメージって変わるものだ。
張り出されている似顔絵もそこまで正確に細部を書いてるわけじゃないし。
けど短髪のヨナとノクスはどうしよう。
体形、髪色くらいはばっちりマークされてるからなー。
ノクスだけなら坊主! でどうにかなるんだけどヨナの流麗な蒼穹の髪を傷つけるわけにはいかないもんなー。
「フィーちゃん。前に話してたサリエラはどう?」
「それだ!」
以心伝心。
僕の考えを瞬時に察したヨナ。それだけに留まらず名案まで出してくれた。
確かにあそこならギルマスが匿ってくれる上に、いざとなったら『禁忌の森』に逃げちゃえばいいから安全性はピカ一だ。
ただ情報収集のためにも誰かはここに残らなきゃだから、ギルマスの顔見知りが誰もいないんだよなー。
「フィーちゃんたちの名前を出せばどうにかなるんじゃない」
「うむ」
……どっちが司令塔だかわからなくなってきた。
けどどうすればいいか。
気絶させた聖騎士Aが発見されるか報告するかなれば警戒態勢が敷かれるはずだから即刻行動しないと間に合わない。
「……」
「なるほどなるほど。フィーちゃんはボクと離れるのが寂しいご様子」
「違う」
そんなことはない。
いつもからかってきて調子が狂うし、でも一緒にいると安心感があって恋人でパートナーみたいなヨナと離れるなんてめっちゃ寂しい!
じゃなくて。せいせいするし!
「大丈夫だよ。どうにかして戻ってくるし、破壊神の件が終わればこんな居心地の悪い街、用はないでしょ?」
「でもいつまでになるかわからない……」
っ! つい思ったことが口に出てた。
羞恥心でヨナの目を見ていられなくて明後日の方向を向く。
心なしか目を逸らす前、ちょっとヨナが顔を赤らめてた気がする。
「いちゃついてるところ悪いっすけど、何の話をしてるんすか?」
「……の、ノクスとボクがサリエラに行くって話だね」
放心していたヨナがシェイラちゃんの疑問に慌てて言葉を返す。
「ええ! 師匠どっかいっちゃうすか? それならシェイラもお供するっす」
「そもそもどこだそこは?」
「『禁忌の森』に一番近い村だね」
「修行し放題ってわけか。いつ出てくるかもわからん破壊神とやらをいつまでも待つよりかは建設的でいいかもな」
「それより、ローグはどこにいきましたか。あれ以上面倒ごとを起こさないよう教育しないと……」
そういうことをいってるわけじゃないんだが戦闘狂。
あと今ロードはどうでもいいんだよ変態。
なんで内の子供はバカとアホしかいないのか。
ヨナとシェイラちゃんを見習ってほしい。
「ソフィーはみんな一緒がいいの」
「それもいいっすね!」
何この健気で優しい会話。
すごい和む。
「冷静に考えてみたら、ドラゴンさんに頼んで『禁忌の森』に来てもらえればフィーちゃんとも毎日会えるね」
「せっかく久しぶりに全員が集まったのに、すぐに解散は寂しいっす」
「ソフィーもそう思うの」
「確かに」
うーむ。
……四の五の迷っている場合でもないかもしれない。
門番に聖騎士Aの件が伝わると出入りもできなくなっちゃうし。
唯でさえ僕とノクスとシェイラちゃんはほぼ毎日フードを被って門を抜けているという怪しい行為をしている以上。目を付けられてる可能性も高い。
速いところノクスとヨナにはサリエラに向かってもらわないとまずいかもしれない。
「解散!」
「言葉が足りねえんだよババア」
「遅くなるとまずいからサリエラについてから『禁忌の森』で追々話そうってことじゃないかな」
「お前はなんで一言でそこまでわかるんだ男女?!」
それはたぶん愛のちかr
じぶんで言ってて恥ずかしくなってきた。
……そもそも愛の定義ってなんなんだろ。
「おいババア! 呆けてるとこ悪いが話が済んだなら俺はもう行くからな」
「あ、ちょっ、まってくださいっす。師匠」
「フィーちゃん。じゃあまたあとでね」
「主様。私はローグを探しに行って参ります」
嵐の如く事が終わってしまった。
さて、まずはこれを作った元凶にケジメつけに行かないとなぁ?