呼び寄せられた魂達
黒い、一片の色もない漆黒の空間の中、一人の美女が佇んでいる。
整った顔に、肩まで伸びた漆黒の髪、柔らかそうで、バランスの良い肢体。豊満な胸。
誰もが美人だと口にしそうなその美女の実態は神である。
それも他の神々から危険視され、恐れられるほどの上位神。
この暗い空間の中で呑気にあくびをする姿は実に妖艶だ。
しかし、その惰眠を貪る姿は、見た目とは反して、まるでどこかの吸血鬼のようだ。
封印されている身でありながら、あぐらをかいて、《《自分が落ちた》》世界を写し見る。
「なんか、面白そうになっておるの」
薄い鏡の中に、今、まさに倒れ尽きそうな人物の姿が映る。
放っておいたらこのまま死ぬであろう。
しかし、未練を心中で呟き、嘆いている。
意思を継いでほしいと誰に言うでもなくただただ胸中で叫んでいる。
「今から自分が死ぬというのに、走馬灯を振り返るでもなく、自らの死を嘆くでもなく、最後まで意思を貫き通そうとするとは実に面白いやつよのう」
美女は不敵に笑うと、虚空に手をかざす。
それだけで先程まで、うわ言を呟いていた魂がこの地に降りてくる。
「気に入った。お主のその願い聞き届けてやろう」
そうして魂が主の元へ、吸血鬼の元へ戻っていく。
無論、神である彼女にはもう一度魂を付着させて、蘇らせることもできる。
だが、それは、その行為は思い半ばで亡くなったサリエラの生き様を冒涜する行為だ。
そうして、サリエラの死後、サリエラの体にスキルとしてそれが宿る。
長い年月を得て、呼び寄せられた魂。
次元の狭間から、死して尚、『サリエラの記憶』からサリエラの意向で選ばれた最も愛を知らない、受けなかった人物。
元男でありながら虚弱で女っぽい体をしていたこともあり、最もサリエラの体に適応、かつ、サリエラが救いたいと願った人物。
自分の意思を継いでほしいと願いながら人嫌いを選び、あまつさえ自由に生きてほしいなど、矛盾していると『サリエラの記憶』を神は笑う。
魂の輝きが薄かったせいかすぐに神は興味を失ったが、その魂はその神も予想をし得ない成長をしながら、進んでいく。
『サリエラの記憶』に魂を選ばせる影響で長年、開いていた次元の狭間から、クローフィーと似た性質を持ったとある魂が死んでもいないのに、ドラゴンに付着してしまうのだが、それは神も、二人の『始祖の吸血鬼』達すらも知らない話である。
これにて閑章は完結になります。
次章に関してはカクヨム版から大幅に改稿するか悩んでいまして⋯⋯
別作品も執筆中なもので場合によっては更新が遅くなってしまうかもしれません。
なんとか完結までは持っていきたいと思っておりますので、お付き合い頂けますと幸いです。
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サリエラの記憶に着いて補足。
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『サリエラの記憶』
封印中のとある神が、娯楽感覚で作った一つのスキル。
本来、魂に及ぶ次元のスキルなど存在せず、人知を超えた領域であるが、文字通り神が手を加えたことで、その形を成した。
直接喋ったりすることができるわけではないがスキルには魂が宿っており、この魂が憑依させる魂を選ぶことで、体に宿る。
尚、魂が憑依したと同時に元の体の主である魂は輪廻の輪に帰る。
一度死んだこともあり、『吸血鬼化』の呪いは解けているためスキルも好き放題に使用可能。
神が自らの娯楽として作ったため、スキルに実態がなく、『???????』として表記され、謎のスキルと化していた。
クローフィーがサリエラの存在を認知したことで、実態のあるスキルへと覚醒、昇華した。
その後、クロ―フィーがソフィーと協力し、帝国の皇帝を討ち果たし、エルフの人権を勝ち取ろうとしているのは偶然か、それとも因果なのか。
一つ言えることはサリエラも、クロ―フィーも性格はかなり異なれど、大切な人を守ろうとするという本質が似ているからかもしれない。