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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
閑章 『サリエラの記憶』
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エルフたち

私が森に着いた頃。

そこには無数の魔物が跋扈していた。

私が捨てられた時はここまでの量ではなかった。


明らかに異常。

人為的ななにかを疑いたくなってしまうくらいに。


そうやって魔物をなぎ倒しながら進んでいくと、四方から弓が飛んできた。


「何者。姿を現せっすよ!」

私と同様に弓を剣で薙ぎ払ったイーラが大声を挙げる。


気配は十を超えていたけれど、出てきたのは一人の男性だった。



金髪を風に靡かせながら青い瞳をしている。

耳は私よりも長くて整った顔立ち。

獣王様に聞いていた通りのエルフの姿だった。


「私たちは怪しいものじゃありません。話を聞いてくれませんか?」


エルフの男性が足のつま先から頭のてっぺんまで値踏みするような視線が私を貫く。


その視線に若干後ろのイーラがしかめっ面で苛立っている雰囲気を感じた。

そうして下から上までまじまじと観察してきた後、

何かに気付いたようにエルフの男性が声を上げた。


「ん。あなたはまさか、勇者様ですか?」



その空気は一変している。

今までは警戒と疑念の瞳をこちらに向けていたのに、今は安心した様に息を吐いて、こちらを見ている。


勇者という名で呼ばれるのは聖王国の司祭様が私をそのように呼び出したかららしい。


最も私にそんな大層な称号は相応しくないし、恥ずかしいからそれを察している獣王国の皆は私をサリエラと呼んでくれるんだけど。


けど今はそれが功を成している。

エルフたちに敵対するつもりがないならそれ以上の事はない。


「お願いです勇者様。私たちを助けてください」

縋りつくような声音でそういうエルフの人。

だが、次の瞬間にはなにかに操られたように弓矢を構えた。


「なんなんっすか!」

それに苛立ったようにイーラが弓を剣で切り捨て、男を取り押さえ、腹を殴る。


「なにも殴ることはないと思う」

「サリエラ様は甘すぎるっす! いや、それがいいところでもあるんですけど、相手が殺すつもりできてるんですからこっちだって取り押さえるための暴力くらいは必要っすよ!」


予想外に強いイーラの抗議の声にどうどうと宥めながら、和んでいると、四方を囲むエルフ達が構えを取るのを感じた。


「ほんとに、なんなんっすか、あんたら」

言葉と行動が矛盾しているエルフたちに怒りが爆発したのか、イーラが跳んだ。


木の上で弓を構えていたエルフの顔面に拳が叩き込まれた。

そうして、次々とエルフに鉄拳制裁を加えていく。


止めようとは考えたけれど、冷静になった頭がそれを止めさせた。


先程イーラに言われたようにエルフたちを無力化しなければ話が聞けないのも事実だと。



暴力を行使しなければ解決できない自分を不甲斐なく思いながらも、私もイーラに続いて、エルフたちを無力化していった。







「私たちは、制約をかけられているのです」

すべてのエルフを無力化した後、エルフの長の長老が苦しげな表情でそう口にした。


「詳しく話を聞かせて下さい」

エルフ達から聞かされた話は衝撃的なものだった。


エルフ達は此処を立ち退かないのではなく立ち退けない、そうだ。


話によれば、エルフは自然の中で暮らすのを好み、自然を愛するらしい。


ここまではいい。けれど、その森や山は人間たちの戦争の場となっていたり、開拓と評して、次々と建造物が建てられたりでエルフ達の住める場所はどんどんと減っていく。


あまり大規模な移動をすれば、目立ってしまい、他種族といざこざが起こりかねない。


生まれながらに魔法に秀でていながら、その力を他種族に向けて、無闇に振るおうとはしなかった。


そんな温厚な人達が多いエルフ族だからこそ住める場所は限られていく。


魔法に特に秀でていたエルフ達は魔法をうまく使い、隠れながら森や町に暮らすことも出来たそう。


けれど、そうではないエルフ達もいる。

魔法でも、攻撃的なものばかりで、撹乱できるような魔法を持っていないエルフ達。


それを不憫に思ったという帝国の皇帝に、この森に住まないかと提案されたそう。


魔物が繁殖していて、危険な森で、軍が戦争を行いにくいこの森を。


当初はうまくいったらしいのだが、エルフ達が魔物を狩ってしまった事で、森全体の危険度が下がり、やがて、人間の使者が開拓の申し出をしに訪れた時、それは起きた。


なにかに操られるように体が動き、気づいたら弓を引いていた、と。

それを気味が悪く思ったエルフ達はすぐにこの森を出ようとしたらしいのだが、森から踏み出ると体が反転して、どうしても出ることができないという。


それどころか皇帝はエルフは世界の害悪だと評し、結界を張れと命じているそうだ。

こんな理不尽なことが許せるはずがない。

なにかの『スキル』でエルフ達を操っているなら、それは私が志す正義に反した行為だ。


「イーラ。行くよ」

「畏まったっす。サリエラ様」

長い付き合いのイーラはそれだけで私がなにをするのか察したようで嬉しそうに私の背に飛び乗ってくる。


「勇者様。どちらへ?」

「皇帝と話をしてきます」

「で、ですがそれは危険ですぞ。相手は森に住むエルフ全てを支配してしまうような恐ろしい存在で……」

「それでも、私が私で在る限り、こんな所業は見過ごせません」


不安そうな表情で俯くエルフたちにそう口にする。

一度は、人を、大勢の人を虐殺した身、たとえ、殺してしまった人達に偽善だと後ろ指を指されようと、なるべく多くの人を救いたい。


「……お気をつけて」

たった一言、深く重いその言葉を背に受けて、飛び立つ。


帝国は遠い。

各国はいつまでも立ち去らないエルフに苛立っている。


このままだとちょっとした綻びが生じるだけで事態が動きかねない。


見られる危険はあるし、狂化が加速するけれど、翼を使って向かう以外に選択肢はない。

「ほんとお人好しっすよね。サリエラ様は」

帝国に向かう道中、イーラが呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな表情でそう呟いた。

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