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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
一章 禁忌の森の吸血鬼
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恐怖

 彼女がマンティコアを初めて目撃したのは異世界に転生してきて十日ほど経過しようとしていた時だった。


そのころになると

  『血に飢えた獣』を『血液操作』で制御可能なことが分かり、それをどうにかコントロールし、安全に『吸血』を行えないかと頭を悩ませていた時、『血に飢えた獣』を発動した状態でも倒せない魔物がいた。


 大木にも似た威圧感を誇る3m近い体躯と、コボルトより数段頑丈そうな強靭な牙と爪。サソリのように伸びた尾でバランスを取り、3m近い巨体に似合わない俊敏な動きで何物をも寄せ付けない。皮膚は鮫肌のように固く鋭い牙や打撃を通さない。


そう『マンティコア』である。


 『吸血』を行い、『血に飢えた獣』が発動した状態の強さは尋常ではなく彼女の視界に入った魔物の大半が膝をつき、抵抗するすべも力もなかった。

 だが、『マンティコア』に限り彼女の攻撃を一切寄せ付けず、鬱陶しいとでもいう様にしならせた尾でたった一撃で『血に飢えた獣』を発動状態だった彼女の意識を容易く刈り取った。






------------------

 次に目覚めたとき彼女は自分が死んでいなかったことに目を見開き、生きていたことに安堵した。だがそれ以上に自分の攻撃をもってしても傷一つつけることの叶わなかったマンティコアにただならぬ恐怖を覚えた。



『吸血』の反動による倦怠感と体中にできた傷やあざの痛みに顔を苦痛に歪ませながら、痛みを訴える体を引きずる様に歩いて家に戻った。





 それが彼女の初めての敗北であったが、幸運だったのはマンティコアが彼女のことを意にも介さずに立ち去っていたことだろう。


 マンティコアから見れば、目障りなハエを追い払った程度にしか、感じなかったのだろう。


だがこの敗北は彼女にとって大きな衝撃だった。


 魔物には注意を払っていたし、これが命の奪い合いで弱肉強食が世の摂理だということも理解していた。


そのはずだったのに、怖かった。

外に出ればまたあれに出くわすかもしれない。そうなったら今度は……

 そんなことばかりが脳裏に浮かんで広がっていつしか不安は大きく膨れ上がり三日も経たずに彼女は外に出なく、出れなくなった。



 寝ても覚めてもマンティコアの凶悪な外見が脳裏に浮かび上がり、そのたびに荒くなる呼吸をどうにか整える。連日のように悪夢を見て、幼い少女になった影響なのかそのまま一晩中泣き崩れてしまう。


「……ぐす、ひっ……」


 寝て、泣いて、また寝て、泣いて、寝て、泣いて、寝て、泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣いて寝て泣く。







……それから五日ほどが過ぎた。

彼女はすでに戦うための覇気など欠片も持ち合わせていなかった。

だというのに、頭の想いとは反対に体は生存すること、新たな『血』を求めて、自分を守ってくれている牢獄を後にしていた。



それからの十日間は廃人のように過ごした。

身体の赴くままに血をむさぼって、命をつなぎとめる。



だが、すでに崩壊して考えることをやめていた精神に語り掛ける声があった。

それすなわち、自分の中に眠る獣。それは『血に飢えた獣』による本能なのか、はたまた『吸血鬼』という種族だからか、それとも自分自身を守るために作られた人格なのかはわからない。


『獣』は恐怖を克服するために恐怖という感情を封じ込めた。

つまり彼女は今、恐怖を知らない。

獲物を探して血をむさぼることしか知らない血に飢えた獣。


 恐怖の感情が欠落した今、彼女は自分の命すらも天秤にかけず、血に飢えた本能『吸血』をするだけのために『マンティコア』への無謀な戦いを行おうとしていた。


厄介なことに恐怖の感情が欠落していることに気付かないままに……

それを不思議とも思っていない自分に疑問も抱かずに


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