閑話 シェイラ
私の生まれは獣王国の王都だったっす。
家系は代々、『蒼炎』に加入して、獣王様を守り、民を守護する獣闘士。
だったんすけど、私は人間と獣人のハーフということもあってか、生まれつき身体が弱くて、戦力外通告を促されて、直ぐに獣王国のはずれに送られたっす。
これを追放というらしいっすけど、私は特にどうとも思っていなかったっす。
他ならぬ、その外れの村での暮らしに私は満足してたっすから。
食べるものは村で取れる畑の野菜や、時々やってくる行商人のもの。
もちろん、王都で食べられるような豪勢な食事ではないっすけど、雰囲気は穏やかで、余所者の私のことも快く受け入れてくれて過ごしやすかったっす。
ただ、領主が税を高く設定しているとかで、みんな苦しそうにしてたっす。
幼いながらに私が獣闘師だったら、みんなを苦しめている悪い奴をぶっ飛ばせるのにとか、そんな風に考えてたっすね。
そんな私に転機が訪れたのは8歳の頃だったっす。
週に一度は訪れる行商人が大雨で来れず、畑の野菜だけでは飢餓が満たせなくて森で木の実を探していた時。
「なんだよ。噂に聞いてたより弱えじゃねえか」
巨大な大木が蠢き、根がなにかに向けて伸び、ぶつけていたっす。
木が動く、なんて異常現象は魔物でしかあり得ないっすからすぐに村に引き返そうとしたんすけど、私はそんな化け物と戦っている人の姿が見てみたくて、その場に止まったっす。
だれかは燃え盛る大剣で、数メートルはある植物の根を軽々と焼き斬っていたっす。
『紅蓮大剣—獄炎―』
やがて大木を燃え盛る巨大な剣が頭から両断したっす。
ドオォッ
「何見てんだお前」
「えと、すごいっすね」
あの時の私は兄貴の戦う姿に見入っていてうまく言葉が出なかったっす。
「お、わかるのか。戦いの良さが」
その時の兄貴はすごい嬉しそうな顔をしてたっす。
初めて自分の事を認めてもらったようなそんな純粋無垢な笑みだったっす。
それから何度か森に通って兄貴と話すたびにいつの間にかに打ち解けていたっすね。
私が身体が弱い事を伝えたら、何故か血を飲まされたっすけど。
流石にあのときは兄貴の正気を疑ったっす。
まあ、流されて飲んでしまった私が言えたことでもないっすけど......
けど、なんでか血を飲まされてから持病の頭痛や咳も治ったんすよね。
未だにその理由はよくわからないっす。
兄貴はなんというか、捉え所の無い人だったっす。
性格は、戦闘好きの狂人っていうのは間違いないんすけど、やたら世話を焼いてくることがあるっていうか。
私が兄貴の話を聞いてくれないと困るからって理由だけで、兼ねてから村の悲願だった悪政を敷く領主の館を一晩のうちにぶっ壊しっちゃうし。毎日毎日、これまで戦ってきた強者との戦いや冒険譚を聞かせてくるし。
そうして話しているうちに、流れで兄貴から『剣』を習っていて、兄貴は「弟子に教えることで自分の剣のブレや、悪いところが洗い出せる」なんていってなぜか喜んでいたっす。
『これで技術でもあいつにも負けなくなる』とかも言ってたっすね。
そうして気が付いたら話す時間が、一緒にいる時間が長く、多くなっていって兄貴の背中を追いかけるのが日常になっていたっす。
なぜかはわからないっすけど、兄貴と一緒にいないと落ち着かなくなったんすよね。
兄貴のお母さんの友達、ヨナさんに聞いたら『それは恋だね』って言われたっすけど私にはまだよくわからないっす。
けど『もっと大きくなったらシェイラちゃんにもわかるよ』てヨナさんが言ってたから私も早く大人になって『恋』を知りたいっす。
そうしたらこの兄貴と一緒にいないと落ち着かなくなった病気も治ると思うっすから。
そうじゃないと私は一生兄貴の傍にいることになってしまうっす。