閑話 暗殺者の憂鬱
その日。平和な暮らしを送っていた俺に再びの死刑宣告が下された。
あの人の直接指名で吸血鬼暗殺とやらに俺に白羽の矢が立ったのだ。立ってしまったのだ。
……いや、なんでや。俺より適任な人がいるでしょう。
カミラさんっていう素敵なちょび髭を生やした剣の神様がさあ。
なんでまたあの激ツヨ少女を俺が追いかけなならんねん。
おかしいやろがい。
なんて愚痴を漏らしたいところだけど、残念なことにこの国の軍人のほとんどは強者であるあの方を崇拝しているため俺に断る権利はない。
自分が損な役割を押し付けられているというのも理解している。
あの方もカミラさんを手放したくなくて、あまり期待していないながら俺に指名を渡したんだろう。
まあそれでも指令は指令。
仕方ないからいつも通り適当にこなして終わったら怠惰に過ごそう。
そんな風に考えていた。
あの日までは。
「私に協力してはくれないだろうか」
そう言われた時は本当に驚いた。
あの人も信頼を置いている剣神様からまさか反乱のお誘いが来るなんてな。
で、俺はそれにすんなりと手を取ったわけだ。
迷いはなかった。
このまま暗殺者まがいの生活を送るのは自分でも気が滅入るとは思っていたから。
何がカミラさんを反乱に駆り立てたのかはわからないけど、利害の一致といえばいいか、俺は今の生活に満足していない。
それで何か変わるとも思っていないし死にたくもない。
だから作戦が失敗すれば俺は影魔法を使って帝国から逃げて安全地帯ともいわれる獣王国かどっかの国に移住するだけだし。
まあ、けど死んでいった仲間達が少しでも報われるというのならそれなりに本気で取り組むが。
皇帝を裏切るという前提を考えればその点、今回俺に下った指令は好都合。
吸血少女討伐作戦を失敗したと見せかけて交渉してこちらに取り入れてしまえばいいのだ。
どうせ国民もあの人もカミラさんほど名のしれていない俺に大した期待はしていないだろうから行動しやすいという点もプラスに働いている。
吸血少女の説得は容易にはいかないだろうが、まあその暁に報酬与えるとかなんとかいって頼めばどうにかなるでしょ。
そもそも吸血鬼の少女はカミラさんを苦戦させるほどの猛者。向こうが全開だったなら、互角の可能性すらある。
味方になってくれれば俺の生存確率はグッと上がる。
そのためにもどんな手を使ってでも仲間に取り入れなければ。
正直、俺には立派な信念とかないけどまあ取りあえず死ぬまで死にたくはないしな!
「すー、はーー」
震える足に力を籠める。
向かうは聖王国。
狂乱の司祭ザハルとザイン国王が治める光と闇の大国。
移動中も帝国の監視の目がないとも限らない。
それを潜り抜けて吸血少女に接触し、協力を仰がなければならない。
危ない橋だがこれを乗り越えれば幸せな惰眠を貪る生活が待っている。
五時間というパッとしない睡眠時間を至高の二桁の台まで引き上げることができるのだ!
よっしゃ。やったるぜ!
遠くない未来。
自分が幸せそうに惰眠を貪っている姿を幻視する。
この絶望的な反乱計画もそれを思えば乗り越えられる。
そんな気がしてきた。