認めない、認めたくない吸血鬼
カオスと化した現場もほとぼりが覚めた後。
サフィアの体調に障るといけないので、時刻は丑三つ時。僕達はそれぞれの今後について話し合う為、近くの山に場所を移していた。
『禁忌の森』以来の重大会議である。
会議の場所が何故山なんだと聞かれれば、僕もなんでだ。
というしかない。
ノクスが『バーンさんとも話しておくべきだ』などと生意気な口を…… お願いをしてくるから出来た母の僕はそんな子供のわがままを快く受け入れてあげたのだ。ノクス、ありがたく思え。
僕を助けるためとはいえ、無理をした変態には出来ることなら説教を、と思ったんだけど……
今回はサフィアが『吸血鬼化』を使っていなければ本当にどうなっていたかわからなかったらしいから、お咎めなしということにした。
なにより、僕がもっと強ければこうはならなかったわけだし。
やっぱり修行は今後の課題だ。
悪魔アディルを倒すためにも、なんとしてでも強くならないと。
……問題は強くなる最も手っ取り早い方法であるはずのステータスの底上げがあまり期待出来ないこと。
『禁忌の森』を出てから、魔物や人を倒しても経験値らしき己を昇華させるものが取り込まれていない感じがするのだ。
例えるなら、100万ある次へのランクアップを魔物を倒して1〜10くらい貯めてる感じ。
もしかしたら、今のステータスが臨界点なのかもしれない。
今の強さでも十分だからと、あまり気に留めていなかったけれど僕より数段強さが上をいくと思われる悪魔アディルと戦う以上強さは必須だ。
ステータス底上げの恩賜が期待出来ないなら他に強くなる方法をどうにかして見いださなといけない。
で、さらに問題がもう一つ。
「誰、それ?」
僕が『血液創造』で用意した円卓に一人。
見慣れない顔触れが鎮座している。
いや、正確には知っている顔なのだが家族と言っていい程の仲の僕らの間では酷く浮いた存在である事は間違いない。
可愛らしいピンク髪に、ポニーテールの少女。
その姿は少し前に、僕が闘技大会で目撃したハーレムこうー。げふんげふん。
少女と酷似しているのだ。
「ああ。強い魔物を探してたらなんか気が付いたら一緒にいてな」
なるほど。つまりかなり前からの仲で気が付いたら一緒にいた。と
いやめちゃくちゃ曖昧なうえに、そもそもそういう事を訊きたかったんじゃなくて!ね?!
「ノクスのなに!」
「師弟的な」
表情一つ変えずに素っ気なく返事をするノクス。
なんでこんなところだけ僕に似てるんだ!
「彼女さんなの?!」
ソフィーが興奮した様子でノクスにキラキラとした瞳を送る。
「なんだその彼女って」
「質問を質問で返すなぁ!」
怒涛の質問攻めにノクスが質問を質問で返してきた。
彼女という概念を知らない人がいていいんですか?
「ノクスさん。フィーちゃんは恋人かどうか聞きたいんじゃないかな?」
ヨナのフォローに首を縦に振って肯定する。
「いや、別に違うが」
「シェイラは兄貴の弟子一号っす」
そういってノクスの肩越しに顔を覗かせるシェイラちゃん。
かぁいい。
「そしていずれ弟子二号、三号と増やしていくのですか。ノクス」
「こいつが勝手についてきただけだ。目覚めて早々また殺されてえのか変態? 喧嘩なら買うぞ」
そういって不敵な笑みを浮かべるノクス。
いや今喧嘩を始めたら僕が全力で止めるけどな?!
取り敢えずシェイラちゃんはノクスの何なんだ?!
「ところでフィーちゃん、闘技場でこの子が出た時、様子おかしくなかった?」
そういって目からハイライトを消すヨナ。
やっばいバレた。
でもあれだ。闘技大会を得て、僕とヨナは恋人(仮)になったわけだし、話せばわかるはずだ!
「ヨナさん。世の中には一夫多妻制とかもあるので一妻多妻ならぬ女の子がいっぱいいてもいいと思います」
「ねえねえ。何言ってるのフィーちゃん。監禁するよ?」
「お姉ちゃん。ソフィーだけじゃ満足出来ないの?」
こっわい。ヤバい。恐ろしい。
ヨナとソフィーの後ろにまたスタ〇ド染みたもの見えるんだけど。守護霊にしても威圧感が半端ないんですけど、敵意が半端ないんですけど?!
『我も竜となら恋愛できるのか?』
「うるさい」
ドラゴンが話をよく分からない方向に広げようとしたので一蹴する。
心なしかしょんぼりしているドラゴンを無視してノクスを問い詰めることに専念する。
「お母さん認めませんよ。戦闘狂の恋愛なんて!」
「ソフィーにも詳しく教えてノクスちゃん!」
「あと何人いるんですかノクス。姉にいってごらんなさい」
「お前ら女一人でギャーギャー詰め寄ってくんな。ウザイ」
ぐいぐい押し掛ける僕らにノクスがあっち行けとでも言わんばかりに手をひらひらと振る。
「わかった表に出ろノクス。本気で相手する。そしてシェイラちゃんは僕がもらう」
「主様。私もお供します」
「サフィアちゃんは病み上がりなんだから無理しちゃ、っめ!」
僕に賛同の意を示し謎の戦いに参戦しようとするサフィアをソフィーが頬を膨らませて制止する。
こっちもかぁいい。
『ふっ。阿呆め、貴様ら。よく考えてみろ。ここでドンパチしたら山が燃えるぞ』
「バーンさん。山が燃える程度と俺たちの決闘。どっちが大事だと思ってるんですか!」
『え、山が燃えるのって些事なの? なにその常識。我知りたくなかった』
ドラゴンと気が合うのは癪だけどそれは一理あるな。
ノクスと僕が本気でドンぱちしたら、たぶん頂上だけじゃ済まないしね。
山だから木の実とか、資源もあるし。
魔物だけじゃなく動物もいるし。
下手をしたら国際問題になるかも。
「そういう安易な考えが地球温暖化を促進するんだよね。SGDSを大切にしてかなくちゃ」
「そう。ヨナの言う通り」
「お前ら何の話ししてんだ?」
話がよくわからない方向に向かっていきみんながワチャワチャしはじめる。そのよくわからない流れのままそれぞれが己の獲物を取り、剣を構え、一触即発? の雰囲気が漂う。
「可愛いっすねぇー。お前どこから来たんすかー」
「山奥では珍しいの」
「そうなんすか。ソフィーさんは博識っすねー」
「えへへー」
幼女と美少女とリスが戯れている。
「これやるっす」
シェイラちゃんが生肉みたいな何かをリスに渡す。
「なにそれ?」
「この間刈ったガ―ウルフの肉っす」
「捌けるの?」
「おうっす」
「すごーい」
「ふへへー」
和気あいあいとした少女たちの雰囲気が一触即発の雰囲気を呑みこんだ。
「この子たちは家で預かるから」
「いや、あれは家事ができて案外便利だ」
「なるほど。私と似ていますね」
シェイラちゃんがお前と似てる分けねえだろうが。変態!
「黙れ変態。ノクス、それなら尚更うちに必要」
「だから無理だって。さっきからいってんだろババア! 物覚え悪いな!」
「ババアじゃないですけどー。大体それは今関係なくて――」
「長い! いつまでくだらないことで言い争ってるのさ。一緒に聖王国に向かえばいいじゃん!」
僕とノクスの口論を遮るようにヨナが正論を述べる。
けどこのバカ息子は……
「俺はまだ修行の旅が終わってねえ」
「それで強くなれるの? なれたの?」
あー。それは確信を突いてるかも。
たぶん僕と同レベルの強さのノクスじゃ相手になる人とかいないかもだわ。
「……」
痛いところを突かれたって感じに歯噛みするノクス。
気性の荒いノクスが押し黙るあたり、これは間違いなく図星だな。
「僕らが向かう聖王国には破壊神とかいう如何にもヤバそうな噂があるの。どうする?」
「……わかった」
納得いかなそうだけど返す言葉もないのか了承するノクス。
「ノクスちゃんも来るの? やったー」
「兄貴は天下無双っすからね。普通の国じゃ強くなれないっす」
「男が混ざるのは少々不愉快ですがまあいいでしょう」
『ところで我はどうすればいいのだ?』
そんなわけでとんでもない大所帯で聖王国に向かうことが決まった。
長かった4章もこれにて閉幕となります。
次話から毎度お馴染みの閑話。
そこからさらにサリエラの生前を描いた閑章へと移ります。
某蜘蛛のような壮大な話を考えた……
つもりなのですが、至らない点や矛盾点が多く点在していると作者自身感じます。
それでも全身全霊で描いたので、最後までお付き合い頂けると幸いです。