急がば回れ
「っ!」
「フィーちゃん?!」
ベッドから飛び起きて、そのままの勢いで駆ける。
常にサフィアが膨大な魔力波を纏っているからか魔力を感知する事で場所は簡単に特定できた。
もたもたしていれば生物と認識したものは見境なく襲いだすはず。
最悪の事態を避けるためにもそれだけは止めないと!
「ちょっと、フィーちゃん落ち着いて!」
扉を開いて部屋を後にする直前、手首をヨナに掴まれた。
「ごめんヨナ。今は構っている場合じゃ―」
「大丈夫。サフィアさんは無事だよ」
「無事じゃない。僕には分かる」
「待ってフィーちゃん。焦るのはわかるけど一度落ち着いて話を聞いて」
「サフィアが、僕の娘が酷い状態なんだ! 落ち着いてなんていられない!!」
「……」
「ごめん」
僕はなにをやってるんだ。
サフィアがピンチだからって、ヨナに当たり散らして。
こんなの、親失格じゃないか。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
深呼吸して、焦りを追い出した後。
僕とヨナはベッドに座り直してお互い向き直っていた。
「落ち着いた?」
「……うん」
なんて嘯いてみたけど、実際は微塵も落ち着けていない。
焦りは募るばかりである。
そもそも、娘が危機に晒されていると分かっていて平静でいられる親なんている筈がない。
ただ、だからと言ってヨナを蔑ろにするのも違う。
形だけでも平静に戻って、まずはヨナの話をきちんと聞いてからどう動くか判断する。
「フィーちゃん…… 話を始める前に一ついい?」
「?」
「いや、どうしてその子。……ソフィーちゃんはそんなにも羨ましい事になってるのかな?」
なにやら、僕とソフィーを交互に見て、抗議の視線と言葉を送ってくるヨナ。
単に、僕がソフィーに膝を貸しているだけたのだけど、どうかしたのだろうか?
ソフィーとは『禁忌の森』にいた頃からの付き合いだし、サフィアやノクスが生まれる? までは二人で生活していた。
あそこでの暮らしは修羅に満ちていた。
白い目で見られようと、後ろ指を指されようと、蔑まれて奇異の視線で見られようと。
お互い、依存し合う事で精神を保っていた所もある。
まあそもそも、ある意味では二人だけの世界だったから、人の視線なんてソフィー以外に無かったのだけど。
未だに過剰なスキンシップは恥ずかしいけど、このくらいのスキンシップなら少しは耐性がついている。
僕も何回かソフィーにしてもらった事あるしね。
「ソフィーの特等席は譲らないの。ヨナお姉ちゃん!!」
僕の膝の上に頭を乗せているソフィーが、ヨナに渾身のドヤ顔を披露している。
「違う! ボクはお兄ちゃんだよ!!! ねえフィーちゃん。本当にこの子とはなにもなかったんだよね! 子供を育んだのだってスキルでなんだよね!!」
「う、うん」
ヨナの気迫に気圧されて若干声が上擦ってしまった。
ソフィーとあった事なんて、同性同士の軽いスキンシップ程度だし特にやましいことなんてなにもない。
せいぜい、毎晩添い寝たり、一緒にお風呂に入ったり、膝枕したりされたり、不安な時に手を繋いだりしたくらいだ。キ、キスまではしてないからセー。
……あれ、僕ソフィーを助ける時に無我夢中でキスした気がする。何気に、フャーストキスだったな。
で、でもあれは不可抗力、だし。
………………
…………
……
んんんんん!?
ねえソフィー!!
改めて考え直すと、思ったよりもスキンシップが過剰な希ガス
「ごめんソフィーちゃん。ボク、フィーちゃんに話を聞いて、君の事は純真無垢で天真爛漫な太陽見たいな子だと思っていた。けど違った、君はボクの敵で小悪魔という表現がよく似合う女性みたいだね。やっぱり、エルフくらい長命な種族になると知恵が回るものなんだね。いつまでも幼いフリなんてしてさ?」
「? ソフィー、なんの事だかわからないの?」
な、なにやら脳が警鐘を鳴らしている気がする。
女の子同士の修羅場、怖ぁ。
こらこらソフィー。
これ見よがしに僕の膝にうつ伏せで顔を埋めるのは止めようね。息がこそばゆくて僕も恥ずかしいから。
「!?」
突然の殺気に思わず手で構えを取ってしまった。
オかシいな。なんだかヨナの後ろにスタ○ド染みた魔神が見える気がするぅ。きっと目の錯覚だね。うん。そうに違いない。あははっ。
「ヨ、ヨナ。ソフィーも、いいい、今は喧嘩してる場合じゃないでしょ。その、ホラ。て、顛末を。事の顛末を」
「「フィー(お姉)ちゃんは黙ってて!!」
「ハイ」
サフィア、早くサフィアを助けないと。
場を和ませ。いや、場を凍り付かせる変態がいないと僕の心が保たない。
この二人怖い。
侍女さんでも誰でも良いから入って来て。
頼むから誰かこの般若二人を止めてよぉ。