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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
四章 ライガ獣王国 王都編
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命に代えても

私は弱い。

『禁忌の森』を出るまではそう信じて疑いませんでした。


ですが、いざ外に出てみると周りの人間どもは脆弱で主様の前に立つことすらおこがましい有象無象ばかり。


サリエラにいた頃はローグという有望な少年も見つけてなんだかご機嫌です。

ドラゴン様と主様が喧嘩をしている際にはぐれてしまったときは、胸が張り裂けそうで一刻も早く主様にお会いしたかったです。


私と母様(ソフィー)には主様に繋がる眷属の血があります。

そのため、主様の飛ばされた大まかな方角と場所は把握できました。


主様と共に生活していた時は1年と少しなど刹那の間に過ぎていったはずなのに、お傍にいられなくなるだけで100年の日々よりも長く、辛く感じました。


主様の血の残滓を頼りに『サリエラ』から幾つかの小国や国を跨ぎ進むこと約1年。ギルドで聞いた話では、馬車で5年は掛かってもおかしくないそうです。


なんにせよ、どうにか獣王国最南端の『ソル』という町に辿り着きました。

血の残滓を頼りにここまでやってきましたが、空振りだったようで主様はおられませんでした。


ギルドや酒場で母様と聞き込みを行うと、どうやら主様とヨナという少女? は以前に『サリエラ』のギルドマスターが仰っていたランクの昇格。


その試験を兼ねているという闘技大会。

それに出場するために、王都へ向かったようです。

主様が母様以外の女性とイチャついているのは由々しき事態。

私自身も早いところ主様にお会いしたい。


居場所もはっきりしたわけですし、すぐにでも出発。

そう考えていたのですが。

そうはとんやがおろしませんでした。


ここまでの疲れか、ソルに滞在している際に、糸が切れたように母様が倒れてしまい、留まらざるを得なくなりました。


無理もありません。

母様は『ソル』に着くまで、エルフというだけで冷たい視線を受けてきたのですから。


無論、そういった輩は私が半殺しにしましたが、それでも母様の心の疲弊は相当なものだったでしょう。


本当に、この世界の全ての人間が忌々しい限りです。

それを黙らせることのできないこの身が不甲斐ない。

それから、母様が疲弊が癒えるまで『ソル』に滞在しました。


その際、屋台にて主様と似た人形や冒険譚を発見したので、冒険者稼業で稼いだお金を散財して買い占めました。


さらに主様の浮気相手(仮)であるヨナという少女の人形も顔と名前を一致させるために購入。


さらにさらに、主様と浮気相手(ヨナ)(仮)の二人が表紙絵になった絵本(薄い本)を幾つか購入し、それを母様に子守歌として披露しました。


そうして、約半年の間。

母様に満足いくまで休養を取って頂いた後。

さらに半年の時間をかけて、遂に獣王国の王都に辿り着きました。

不運にも、既に闘技大会は佳境に差し掛かっていたようですが私も母様も一刻も早く主様に再開したい一心で、闘技大会が行われているコロシアムへと赴きました。


♦♦♦♦♦♦

「お姉ちゃんを、傷つけた罪は重いの!」

「主様は私が必ず救い出します」

そうして、今の状況というわけです。

呆然とこちらに視線を向けている、主様の浮気相手(仮)のヨナさん。


カッコつけて登場したのはいいのですが、私の心は荒れまくっていました。

従者として、不在の隙を突かれ自らの主を傷つけられた愚行。

娘として、浮気を止められなかった情けなさ。

主様を傷つけたと思しき老剣士への憤り。


激情に任せて、振り回す稚拙な剣ではこの老剣士へは至らない。

滂沱の如く押し寄せる、感情の渦を沈める。

水面のように、静かで確かな激情を押し込め、剣を尖らせる糧とする。

「はぁ――」

息を吐く。少しでも戦いに意識を集中するために。

心を無にして感覚を研ぎ澄ます。


これは、単なる願掛けのようなもの。

主様のように、地力(ステータス)のない私が。

母様のように、魔法の才がない私が。

愚弟(ノクス)のように戦闘センスのない私が。


少しでも、剣を冴えさせるための。

修羅に至るための。

格上殺し(ジャイアントキリング)を成すための。

「ーふぅ」

久しぶりです、この感覚は。

己を一本の剣と為し、体を動かすことにだけ神経を集中させていく。


一足飛びに踏み込み、抜剣する。

闘技場に入る前。

ヨナさんと老剣士での交戦にて見えた抜刀術。

私の地力の低さ故か、正確には見えませんでしたが、それでも予想は出来ます。


しかし、主様から話に聞いていただけで、実際に使い手を見るのは初めてです。


先程戦闘の様子を見ていて考えましたがあれを防ぐための最適解は、避けることでも打ち合う事でもない。

「ほう」

老剣士の間合いに入り、刀が閃くと思われる瞬間、剣を縦に構え老剣士の剣筋に割り込ませた。打ち合った刀を切り上げ、上方に弾きます。


老剣士が態勢を崩したところに、返す刀で袈裟切り。

防ぎ、弾き、攻撃に転ずること。

これが最適解です。


避けても、鞘で突かれる可能性が否定できない。

そういった荒業は、ここに辿り着くまでの実戦で盗賊や業の深いものの戦い方で学びました。


決まった。

そう内心で喝采をあげましたが、なんと老剣士は崩れた態勢のままに、鞘でこれを受け止めてみせました。


「驚いた。ステータスはさほどでもなかろうに。まさかここまでの使い手がいようとは。斬撃すら見えておらんだろうに」

無理な態勢を嫌い、身を滑らせるようにして後退する老剣士。

その顔と声音には心からの驚きと称賛の色が見えます。


「あなたに褒めて頂いても嬉しくないです」

それから、暫くの間。

私とヨナさんと母様、それに愚弟と桃髪の少女による連携が続きます。

明らかに、時間稼ぎにシフトした老剣士の姿を前に、苛烈に責め立てますがそれでもあと一歩届きませんでした。


♦♦♦♦♦♦

「……来たか」

夜の帳が落ちた闘技場内で、老剣士が平坦な声で呟きました。

闇の訪れと同時に、空から幾つもの同族(きゅうけつき)が降り立ちます。


脇目も降らず、愚弟と共に老剣士への攻撃を続けますが時を置かずして幾多もの箇所に鈍い、鋭い痛みが走っていく。

「う、っぐ」

傷の『再生』を試みますが、よろめいた隙を突かれ、地に抑え込まれてしまいました。


顔を動かして上方を見上げれば、軍服に身を包み八重歯を光らせる同族達が冷淡な瞳でこちらを睥睨しています。


隣では、暫く戦闘音が続いていましたが、それもすぐに止んでしまいました。

「クッソッッ!! 離せ! 離せよ! 屑どもがああぁぁぁ!!!」

愚弟の金切り声が、闘技場内に木霊します。

吸血鬼達は私を『再生』させないためか、片膝を突かせた後、槍で脛を貫いたようです。ようと、表現するのは愚弟がそうされているので予測に従ったものです。


脛に異物感がある事を鑑みるに、おそらくは私も似たような状況でしょう。

明らかに時間稼ぎをされていると分かっていながら、攻めきれなかったこちらの敗北。


幾多もの同族の合間、血に染まる視界の端で、老剣士が主様を小脇に抱えるのが見えました。

「……」

私は、なにをやっているのでしょう。

従者として、肝心な時に主様をお守りできず。

娘として、必要な時に母親を救い出せず。


従者としても、娘としても失格。

どころか、このまま果てて主様を連れ去られそうになっている。

母様を、愚弟を、浮気相手(仮)を危険に晒している。


かつて、主様(クローフィー)母様(ソフィー)は互いに身を挺して守りあったと聞きました。

ならば、それを守れずして何が従者なのでしょう。

仕えるべき、尊き人達を見殺しにして、なにも出来ないなんて、私は自分自身が認められない。


だから、どうか全てが終わったとき母様は主様は自分を責めないで下さい。

これは、従者が望んでやったことです。

私の事は気に病む必要などございません。

主様。出来ることなら、生きてまたお会いしたくございました。

「『吸血鬼化』」

母様、主様。

私はあの日、この命に代えてもお二人を守ると誓ったんです。


クローフィー母さん。それにソフィーママ。

親不孝な娘でごめんなさい。

先に逝くことを許して下さい。

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