夜の到来
「ふむ」
予想外の増援。
フィーちゃんの話していたサフィアさんとソフィーちゃんの訪れに戦局は一変した。
「っち。ようやく『再生』が終わったってのに、後始末の段階かよ?」
それだけじゃない、ソフィーちゃんとサフィアさんが戦闘に加わると同時期に、ノクス君も傷を治し終えたらしく、ぼりぼりと頭を掻きながらも戦線に加わっている。
「っふ!!」
ボクの顔面を狙った正拳突きを、余裕を持って躱す老剣士。
しかし、そこに狙いすましたように後方から風の刃が飛来する。
刀を閃かせ、それを切り上げた老人に向け、疾く剣尖が走る。
超反応染みた動きで、これにも対応してのける老剣士。
サフィアさんと互いに距離を取るも、手首と首を浅く切り裂かれたのか血が滴っている。
ノクス君が諦観を続けてしまうほどに戦闘は優勢の様相を呈していた。
誰が見ても戦況がどう転ぶかは自明の理。
そんな状態で、不気味な事に老剣士は逃げることもせずその場に留まり、ボク達と真面目に相対している。
それには確かに疑念を抱くもの、今はそれよりも由々しき事態がある。
「クソッ。邪魔、だぁ!!」
フィーちゃんの下に駆け寄ろうとしたボクを、老剣士が身を滑り込ませて割り込んでくる。
執拗に、老剣士がフィーちゃんの元に近づかせてくれないのだ。
これがボク達が攻め切れていない理由。
フィーちゃんを助けようとすれば老剣士が割り込んできて、ならばと老剣士を屠ろうとすればのらりくらりと躱される。
愚直なまでに防御の型。
もはやこちらに勝つことなど考えておらず明らかに時間稼ぎをされている。
周囲に伏兵がいるようにも見えない。
だとしたら、一体何を待っているというのか。
出来るなら、ノクス君にも本格的に戦線に加わって欲しいのだが会って間もないボクらで大人数で連携を汲むのは相当に骨が折れる。
出来ることと言えば、行きつく間もない連携を維持するために、時折ノクス君がボクやサフィアさんと交代して白兵戦に持ち込むことくらいのもの。
ボクの体術で、羽交い絞めにでもして抑え込めれば多を活かせるのだが、老剣士もそれを承知しているのか一向に隙を見せてくれない。
そうして平行線の戦況のまま、数分が経過した後。
唐突に、それは訪れた。
「なんだ?」
「これは……」
最初に異変に気付いたのは、感覚に優れた種族であるノクス君とサフィアさんの二人。続いて、ボクとソフィーちゃん、それと平然と戦線に飛び入りしてきた桃色髪の少女がそれに気付く。
「夜?」
先程まで茜色の夕焼けが差していたコロシアムが。
否、空全体が夜の帳に落ちていた。
闘技場内には明かりが設置されていないから、一瞬にして光源は星の光と月の光のみになった。
さらに、その闇に紛れて、空色の水晶のようなものが幾つも空から落ちてくる。
やがてその水晶は一瞬にして人の形を成し、ボクの驚きを置き去りにコロシアムに次々と影が降り立つ。
ボクがそれを認識できるのは、偏に獣人の血を引いているおかげだろう。
半吸血鬼で『夜目』を持っているノクス君とサフィアさんも警戒しつつも、老剣士への攻撃の手を緩めていない。
視界の端では、ソフィーちゃんと桃色髪の少女は目が慣れていないのか、おろおろと不安げにしている。
気にはなるけど、この隙を突かれて老剣士に逃げられるのも避けたい。
一瞬、虚を突かれたもののすぐに気を張り詰めさせサフィアさんとノクス君の援護にー。
「行かせねえよ」
突如、横合いから拳が迫る。
不意を突いたそれを首を反らして回避。
攻撃の飛んできた方向を目で確認すると、八重歯を剥き出しにした青年ファイティングポーズを取っていた。
だけならいい。
「!?」
背後にも気配を感じ、振り返りざまに蹴りを放つ。
周囲の仲間を巻き込んで呆気なく吹き飛んでいく人影。
「やられた……」
獣の目で周囲を注視すると、牙を剥き出しにした吸血鬼達が闇の中で蠢いていた。
※重要
私事で恐縮ですが、4月から社会人になりました。
正直てんやわんやしてて時間がありません。
察しの良い方は気づいているかもしれませんが、この作品は月一は投稿するというスローペースで続いてきました。
しかし、これからは完全に不定期になります。時間は掛かってしまうかもしれませんが、なんとか完結まで駆け抜けていく所存ですので今後とも宜しくお願いします。ちなみに、カクヨムで更新している同小説は、先月完結致しました。
⚠︎4章以降、カクヨム版とかなり展開が異なる部分が多々あるため、続きを追うのは作者的には非推奨です。ルビもかなり乱雑な上、誤字も多いです。正直なろう版の下書きに近いです。それでもよろしければ、どうぞ。
PS
空から吸血鬼…… 大量の棺桶。
わかる人にはわかるオマージュです。