ノクスVS吸血鬼 再び
「しょ、勝者? 勝者!! 『紅と蒼の戦姫』ーーー!!」
僕とヨナが手の甲を合わせて、勝利を噛みしめていたところに茫然と成り行きを見守っていた実況のお姉さんが高らかに声を上げた。
いつの間にか、元の姿に戻っていた『理不尽の権化』が(めちゃくちゃ両頬腫れてる)担架に運ばれていくのを尻目に、嘆息する。
何故か大いに盛り上がる会場を背に、しれっと二人で退場しようとしたところで。
「おい。ババア。終わったんなら次は俺と殺んぞ!」
と、会場の熱気と衆目に全く臆することなく、なにを思ったのかノクスが飛び込んでくる。
常に毅然としているヨナも、困った顔をしている。
この戦闘狂。傍若無人すぎやしませんかねー。
というか、なんという顔合わせの仕方してるの!
もうやだ。
これと血が繋がった親だと、ヨナに思われたくないんだけど!
これが自分の子供と思うと我がスキルの愚鈍さに文句を言いたくなる。
「え、え~と初めまして? フィーちゃんの恋人(仮)のヨナ・ハガンと申します」
「おう」
「「「……」」」
ほら、どうしてくれるのこの居たたまれない雰囲気!
お前が作った状況だからな!
僕は悪くないからな!(責任回避)
「ふん。お前ともいつかやってみたいが…… 今は婆だ! さあ、俺と殺んぞ!!」
「やだ……」
「ふぃ、フィーちゃん。でもこの人。ノクスさん? ノクス君に背中を押してもらったんでしょ?」
「……むぅ。仕方ない」
「ってわけだ。急遽になるが、殺ってもいいよなあァァ!!」
ヨナと同じ琥珀色の眼をぎらつかせ、ノクスが熱狂に滾る会場に呼びかける。
それを肯定するかのように、観客席の喧騒は益々勢いを増す。
『え、えーっと…… え、あわかりました。では急遽『紅蓮の剣』ノクスさんと『紅と蒼の戦姫』クローフィーさんの試合を開始させていただきま—す』
半ばやけになった。
間延びした実況のお姉さんの声が闘技場に響き渡る。
待ってましたとばかりに、騒ぎ立てる観客たち。
ライブ会場かよ……
全く、リア充のテンションにはついていけないってばよ。
……たぶん。このノリノリの観客達は、どうなってもいいから僕とノクスの血沸き肉躍る戦いをリプレイしたいだけなんじゃないの。
どうしてここには戦闘狂しかいないのか。
全く理解に苦しむや。
本音を言えば運動して疲れて程よい眠気もやってきたし、ヨナと一緒に……
一人で! 惰眠を貪りたいところなんだけど。
「はぁ……」
深く嘆息しながらも剣は構える。
まだ『吸血鬼化』の反動で若干身体がダルいし、一時的に若干ステータスも落ちてると思うけど、ヨナとのわだかまりを解消して吹っ切れて、精神的には絶好調だ。
ヨナは観戦しに来ていたヨナのおじいちゃんに預けた。
あの人は薄々ヨナが無理することに気づいていて来ていたのではないかと疑わずにはいられないけど、ヨナの治療に専念するためにもこれが最善策だった。
気心の知れていない人にヨナを預けるのは癪ではあったけどヨナ本人が信頼している人物なのだ。
これで僕が信じなかったら後でヨナが起きた時文句を言われてしまう。
それにノクスには目を覚まさせてもらった借りがある。
僕のプライドに賭けてそれを蔑ろにすることは憚られる。
せっかくだしできる範囲で本気で相手をしてやろうじゃないか。
眠る方が好きなのは本音だけど、僕も案外戦闘狂なのかもしれない。
ふっふっふ。まあいいさ。
せっかくだ。僕の新たなる力に目を見開くといいさ!
実況の開始の声と同時に地を踏み砕く。
一瞬で景色が移り変わり同じく跳躍したノクスと真っ向から対峙する。
『紅蓮剣』と『裁きの血剣』が交差し会場内に轟音が響きわたる。
手から感じる痺れを振り払い剣にさらに力を籠める。
ノクスは喜色満面でこれに応じた。
鍔迫り合いがしばらく続いた後お互いに距離を取り機を窺う。
『血剣』は先ほどの打ち合いで溶けてしまったけど、そこは血液操作を使って瞬時に形を戻した。
互いに攻撃の糸口を探っている状況だというのにノクスは喜色満面だ。
僕との闘い以降ノクスは観戦するときも憂鬱そうにしていたし、本当に楽しみにしていたのだろう。
……なぜ今のタイミングなのかはわかんないけど。
「っふ!」
「おらあ!」
互いに間合いを読みあい触れた瞬間に剣を放つ。
致命の一撃の打ち合いはしかしどれも決定打にならない。
僕とノクスの技量は拮抗してるみたいで勝負が決まらないのだ。
ジリ貧だとでもいうように互いに間合いを潰し剣を振るっても会場が沸き立つだけで剣閃が折り重なるだけ、擦り傷や切り傷のような小さな怪我はしても決め手は訪れない。
「やっぱ、これしかないか」
「そだね」
『紅蓮大剣』
『深紅に木霊した死の体現。無垢な瞳から生まれるは虚無。願うは万物を無効化し、森羅万象すら断ち切る刃—』
「まじめにやれや!」
「至って真剣なんだが!」