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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
四章 ライガ獣王国 王都編
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クローフィー&ヨナVS『理不尽』の権化

ヨナと父親の世紀の決戦。

恋人の勇士を、片時も離れずに目を凝らして見守っていた。

ヨナが勝利を収めた時は、コミュ障の僕にあるまじく、手を突き挙げて歓喜した。


軽く泣きそうになりながら、颯爽と会場を後にするヨナを見送っていると、突然ムクリと屑が立ち上がった。


「……でやぁ、コラあァァァァァァァ!!!」

「だれが、誰がもう終わったって言った!!? ぁあん?!」

「知るかそんなもん!! このクソガキに屈辱を与えるまで、俺は此処を離れねぇぞ!!」

などと、チンビラじみたテンションで、実況に抗議。

呆れた気配を隠そうともせず、ヨナが再び対峙し、試合続行の歓声が上がった所で、異変は起きた。


屑ことゴリラゴリラ的な名前のヨナの父が、底が湾曲した円筒上の、怪しげな瓶を取り出したのである。


理科の実験とかで使うものよりか、少し小ぶりな、見るからに魔女とかが持ってそうな瓶。

RPGのポーションがわかりやすいかな。


まあ、なんにせよ明らかに強化アイテム、劇薬くさい。

う~む。出来るなら摂取される前に、瓶をぶっ壊したいところだけども。

先日のヨナとの身の上話で、極力僕はヨナに手を貸さないと約束している。

心は痛むけど、本当にヤバイ所に至るまでは我関せずでいよう。


まあ、此処で舞い降りて、目立つのも嫌だしね。

静観して成り行きを見守る。

ヨナが瞬間移動じみた速度で、肉薄。

屑が首を強かに蹴られる直前、ゴリラゴリラが徐に瓶の中身を飲み干す。

僅かに、口端を吊り上げて、薄笑いを浮かべたのが吸血鬼の視力を通して見えた。


そこから訪れた変化はもはや豹変と言っていいものだった。

ゴリラゴリラが、険しい形相の百獣の王へと進化を果たし、先ほどとは打って変わって獣がヨナを圧倒した。


猫科に類する獣人だったのか、その動きは俊敏。

モン刈りのニャルガクルガの如き機敏さでヨナを翻弄、暴虐の化身と化す。

4M近い巨体の猫と、2Mもないヨナの狂気のじゃれ合いが始まる。


なんて、呑気に解説している場合でもない。

うん。余りの非現実に軽く現実逃避してた。

なんあれ!!


マンティコアよりも素早く、音が遅れて聞こえてくる。

風切り音が観客席まで届くほどの破壊力。


冗談じゃない。

あれを避けてるヨナも人外染みてるけど、正直素のステータスの僕が出たら、袋叩きにされる。

それほどまでに、速く、重い。


獣の猛攻だから、技術もへったくれもあったものじゃないけど、単純故に凶暴。


ヨナの攻撃を意に介していないのから察するに、熊の如き強靭な皮膚と、頑強なステータスを併せ持っていそう。


正直に言えば、本気を出した僕でも尚しんどいだろう。

勝てない、とまで断言はしないし。

負けるつもりもないけど。

案の定、ジリ貧になったヨナは精細さを掻いて、一発貰ってしまった。

幸い、腕をクロスして防御は取ってたみたいだけど、次を躱すのは一流の武人でも不可能だ。


目立ちたくない。

周囲を見渡せば、茫然と成り行きを見守っている大勢の観客。

これの前に出て、戦うなど、羞恥プレイも甚だしい。

けど、だからといって、大切な人が殺されるのを黙って見ていられるほど、僕は情けなくいたくない。


「ここからは、二人で、かな。フィーちゃん」

『吸血鬼化』を敢行し、怪物の顎を蹴り上げた所に、ヨナがしたり顔で僕に声を投げてくる。

それに対する返答は。


「もちろん」

短く、確かな意思を込めて言い放つ。

大会のルールは、破ることになって、エルフの差別に、ソフィーの自由のため、やっと手に入れたBランクという称号もなくなってしまうかもしれない。


けど、だけどそれがどうしたっていうのか。

称号なんかとヨナの命じゃ比べくもない。

なにより、過去にヨナを弄んだこいつを、僕が許せるはずもない。


話を聞いたうえで、全面的にこの件はヨナに譲っていたけれど、出来るなら一発殴ってやりたいと思っていたのだ。趣味ではないけど、やるんなら徹底的に痛めつけてやる!

「うわっと」

などと、思っていた時期が僕にもありました。

断言する。一片も、そんな余裕はない!!

偏に、僕が舐めプしてるせいなんだけど。


一応、こんなんでも団長という役職に付いてるらしいし、殺したら罰則とか貰ったりするかもしれない。

そんなわけで、危険な刃物は使わず、腰に提げていた漆黒木刀×2で応戦。


ちなみに、相手の動きがキチガイ染みに速いため、逆手に持った速度重視である。


取り敢えず、ステータスとか関係なく大半の生物の急所である頭を幾度も幾度も打ち据えている。これが人間相手だったら、頭を警戒してフェイントを入れて、別の場所に攻撃を叩き込んだりといった技術が必要になるんだけど、理性の欠片もない獣相手なら、最初から急所に一点集中のほうが合理的だ。


闘技場で、人間とばっかり戦ってたから、勝手が違って戸惑うも、剣を振るうたびに少しずつ感覚が研ぎ澄まされていく。


元々、『禁忌の森(こきょう)』では化け物とばかり戦っていたんだ。

一年やそこらで感覚を喪失するほど、あの時の経験はやわではない。

あくまで、多少腕が鈍っているというだけだ。


超速で振るわれる巨手に、更なる速度を以て手の甲に着地。

そのまま怪物の腕を駆け上がり、横なぎに頭の側面を穿つ。

「っふ!!」

変に高く飛ぶと、はたき落されそうだから最小限の動きで以て木刀を叩き込んでいく。


一発で、首を落せれば楽なんだけど、気絶させるとなると厄介なうえ、面倒な事この上ない。

時折、ヨナが僕の横なぎの剣激に合わせて、逆方面から回し蹴りを叩きんでいる。


脳を揺さぶられ、怯んだところをヨナと一緒に、全身を滅多打ちにしていく。

五体で、鈍器で。

これが、恋人(仮)との初めての共同作業です……(笑えない)

もし、これが僕かヨナ。

単身での戦闘だったら、苦戦、ないしは敗北していたかもしれない。


でも、

「はあぁぁ!!」

「っふ!!」

二人なら、負けはない。

「グルぎゃあぁァァァ」

ヨナが瞬間移動じみた体術で、獣を翻弄する。

一時的に後方にとびすさったヨナに、怪物が咢を剝き出しに肉薄。それを、横から強襲しがら空きの脳天に木刀を叩き込む。

事前にそれを予期していたヨナが、拳で顎を穿つ。

僕は邪魔にならないよう距離を取る。


脳を激しく揺さぶられ、白目を剥く怪物に、その場に留まったヨナが、顔面に正拳突きを放つ。

呻き声を発する怪物に向け、間断なく襲撃。


吸血鬼の身体能力を以て、瞬時に彼我の距離を詰め、その眦を木刀の先端で潰す。喚いて暴れだす前に、ヨナにもう片方の木刀をパス。

矢継ぎ早に左目も目潰し。

「グるぎァゃあ!!」

混乱した怪物が四肢をめちゃくちゃに動かして抵抗する。

僕とヨナは、バックステップで飛びのいて回避。

油断なく、剣を、拳を構える。


阿吽の呼吸、以心伝心。

互いがなにを行うかを機微と表情だけで瞬時に判断し、攻撃、ないしは回避。


背中を預けられる相棒(ヨナ)の存在に、頬がだらしなく緩みそうになりながらも、平静を装って攻撃攻撃攻撃攻撃。


防御のための構えなどはなから念頭に置かず、互いの存在を認知したうえで合理的に補完し合う。

足りない部分は、一人でなく、二人で。

短い年月とはいえ、互いを意識して過ごしてきた僕とヨナにはそれが出来る。


一心同体、一蓮托生。

息をするように互いの考えを把握し、木刀を振るい、拳を放つ。

感覚を研ぎ澄まし、油断なく連携を取る。


そうして、幾星霜の攻撃を繰り返したところで。

「ズドオォォォン」

と破砕音を立て、獣の全身が地に伏した。


それを互いに息を整えながら見やり、完全に伸びているのを察知して、『吸血鬼化』を解除した。


薬の効果が切れたのか、人型に戻っていくゴリラゴリラを尻目に、僕とヨナは互いに手の甲を合わせる。

「お疲れ、フィーちゃん」

「……ぅん」

澄み切った勝利の味を、一人でなく二人で噛みしめた。

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