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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
四章 ライガ獣王国 王都編
100/137

獣化

100部分&40万PV突破!

鬨の声が支配する闘技場の中、渡橋を進む道すがら。

「……でやぁ、コラあァァァァァァァ!!!」

金切り音のような、鋭い大音声が闘技場の熱を凍てつかせた。

呆れながらも振り返ると、ゴライアス・ハガンが肩を怒らせて咆哮を上げていた。


「だれが、誰がもう終わったって言った!!? ぁあん?!」

粗暴で威圧的な雰囲気を隠そうともせず、敗者が絶叫する。

「え、えーと。ゴライアスさん。一度判決が出てしまった以上。大会のルールとして再戦は……」

「知るかそんなもん!! このクソガキに屈辱を与えるまで、俺は此処を離れねぇぞ!!」

暫くの間、そうして実況と『理不尽の権化』が押し問答を繰り広げる。

どうにかして終わらせようとする実況のお姉さんは中々肝が据わっていると思う。


駄々を捏ねるおっさんが、見るに堪えない。

居たたまれない気持ちになりながら、闘技場のリングに舞い戻り、お姉さんに再戦の意を伝える。


改まって、カウントダウンが始まり、終わる。

先ほどとは打って変わって、静謐が満たす場内で、一人高笑いする屑。

癇に障るため、『縮地』からのラッシュ。

さっきと同じ要領で速攻でケリを付けようと動き始めたところで。


肉薄した屑が円筒状のビンを取り出し、紫色の液体を口に含んだ。

疑念を抱きながらも、回し蹴りを打ち込む。

防御も回避も行わなかった屑の体が、幽鬼のように揺らめく。

次の瞬間、全身が粟立った。

「ッ!?」

本能が導くままに、身体がバックステップを行う。

先ほどまで感じていた威圧感。

それとは比較にならない、濃密な死の気配が闘技場を満たした。


4M(メルド)はあろうかという、隆起した肉体。

しなやかに伸びた尾。

剣山を彷彿とさせる牙。

百獣の王の如き毛並み。

充血した双眸。


変化、否、もはや豹変と言って過言ではない。

「ぅヴぉあアァアアァァ!!!」

獣の咆哮が、地を鳴動させる。

本能に訴えかけるプレッシャーが恐怖を振りまく。


油断なく、両手を構えながら眼前で起きた事象へと思考を巡らせ、至る。

『獣化』

フィーちゃんの持つ『吸血鬼化』と同じく、全ステータスを飛躍的に向上させる一握りの『亜人』にのみ許された凶暴化。


初代獣王のみ扱う事が出来たと、獣人たちの間では神話や伝説でのみ聞き及んではいた。

けど、さすがに自らの身で体感する事になるとは思わなかったかな。


耳朶を劈く大音響を撒き散らした獣の姿が、ブレる。

咄嗟に首を下げたボクの頭上を轟音が劈いた。


遅れて、風切り音。

逃げ遅れた前髪の先端がはらりと地に横たわる。


偶然だった。

期せずして、『縮地』を扱っていたからこそ、その脅威的な速度に辛うじて対応できた。

仮に、ボクと同じステータス代の誰何が対峙していたなら、先の一撃で決着が付いていた。


先ほどと同じ。

否、先ほどよりも、なお単調な横なぎの、読みやすい大振りで振るわれた拳。

しかし似て非なる凶暴さと、尋常ではない破壊力。


まともにもらえば、全身の骨が砕け、最悪の場合即死。

これは、まずいかなあ。

即死じゃなくても、一発でも喰らえば致命傷だ。

幾ら獣王国が大国で、優秀な回復術士を抱えていると言っても、致命傷程の傷を一瞬で治癒できる規格外の人はいない。


冒険者の勘に従うなら、逃走一択だ。

生き残って帰る事こそが冒険なのだから。

物語の英雄のように、選ばれし者でもない限り無謀と勇気を履き違えるような事はしない。

賢明でない。

逃げ、こそが最良の一手。

建設的な考えだ。


ただ、

「はなからボクを狙ってる、って事ね」

目が慣れれば、どうにか躱せる速度。

一撃貰えば即死。

逃げの一手を打とうにも、先ほどのボクの『縮地』の再現が如く、瞬間移動じみた速度で追いすがって攻撃を仕掛けてくる。


隙を見て、反撃を放っているけれど、全く怯む様子もなく、特攻を行ってくる。

それを紙一重で躱しながら、壁際に追い詰められないように横っ飛びとバックステップを繰り返す。

傍から見れば、同じ場所を円状に旋回して、猫と遊んでいるような図に見えるかもしれない。


ま、一発でも貰えば即死という冗談じゃ済まないじゃれ合いだけど。

次第に増えるかすり傷と、ズタズタに引き裂かれた手甲(ガントレット)脚甲(ソルトレット)が硬質な音を立てて地に伏せる。


四肢を唸らせ、猛追してくる凶暴な獣。

それに対してこちらは無手で、地力でも劣っている。

焦燥、不安、闘争心。


迎え撃ち、返り討ちにする気概を奮い立たせても、一向に勝つビジョンは見えてこない。

だから、いずれその時が来るのは必然だったと言える。

「っっぐ」

くぐもった声が、口を吐いて出る。

打ち据えられた五体が、鈍い痛みを訴え、本能が激しく警鐘を鳴らす。


咄嗟に、腕を交差させる事で、防御の姿勢は取ったものの、とても直ぐに動き出せる状態ではない。

視界の端で、獣の姿が再びブレる。

濃厚に漂う死の気配。

逃走を訴える心。


死が目前に迫る。

走馬灯すら幻視しそうな様相。

傍目から見れば、諦観と切なさが支配しそうな状況で。


ボクの心は、不甲斐なさと、同時に安堵の心に満ち満ちていた。

一度は、『理不尽の権化』に。

トラウマに打ち勝った。


結果的に、最後に負けたのは悔しいけど、精神面では過去を断ったと言える。

だから。

「ここからは、二人で、かな。フィーちゃん」

ボクが死ぬのを看過しない。

闘技場内に降り立った恋人(クローフィー)にそう声を掛ける。

蝙蝠の如き翼を生やし、僕も数度しか目にした事がない本気モードのフィーちゃん。

爆砕もかくやの轟音と共に、奴の顎を蹴り上げたのを目前に、自然と頬が緩むのを感じた。


「もちろん」

有無を言わせぬ恋人の応え。

普段のフィーちゃんの声からは想像もできない冷淡で、底冷えするような声。

ボクのために怒ってくれている。

なんとはない。そんな事が、どうしようもなく嬉しい。


かつてないほど、凛々しく、雄々しいその背中を前に、痛みに震える体を根性で突き動かした。

本編はガチガチに戦闘中ですが、100部分達成です。

ここまで書いてこれたのも、読者の皆様の応援のおかげです。


評価に始まり、作者から見てもめんどくさい誤字・脱字報告やいいねまでして頂いて。至れり尽くせりです。

読者様は神様ですね。本っっっ当にありがとう!


報告

本編下書きを最終章最終話まで書き終わったってばよ。実質的な完結保証です。(いつ終わるかは不明)

現在は新作(文庫ラノベみたいなTSラブコメが書きたい)と始祖吸の番外編を執筆中。


告知

100部分到達記念。

この回含めて、あと5回週一投稿。

端的にいうと今月〜来月にかけて若干多めに投稿予定。


余談

前話から、数話に掛けて別サイト掲載の同作品と展開がかなり異なってます。

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