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俺の彼女の様子がおかしいんだが…



        



うれしくもあるのだが、その日、三島はすぐに帰っていった。お互い初めて恋人ができたわけだが、しかし、いざ付き合うとなると、何をどうすればいいのかわからず、気まずい雰囲気が流れ、それをなんとなく二人で笑いあったり、何故か今更になってお互いの顔を見るのが恥ずかしくなってしどろもどろとしたりしているうちに時間が過ぎていった。

僕は三島を家の近くまで送った。相変えあらず三島は「悪いからいいよ」と言っていたが、そこは無理を通した。

 もう他人ではなくなってしまった三島の隣を歩きながら、いつもとは違う沈黙の痛さに僕はそこはかとなくむずがゆさを感じながらも、しかし三島の隣を離れたいとは思えなかった。

 これが人を好きになるということなのだろうか。

 そんなことを考えながら、いつもと同じはずなのにいつもと違う町、二人で歩いた。




 テストが近くなっていたものの、だからといって僕が勉強に精を出すはずもなく、適当な日々を過ごしていた。三島は多少勉強しているようで、「ちょっとは勉強しないと」と僕を心配しているようだった。

 テスト期間の合間を縫って、僕は何度か三島と遊びに行った。と言ってもお互い誰かと付き合うのは初めてで何をすればいいのかわからないというのが現状だったので、寄り道をしてご飯を食べたり、買い物をしたりした。

そんなある日の放課後、僕は三島を買い物に誘った。僕がよくいく古本屋に連れて行ったのだ。

 中に入ると、その古びた店内の様子に三島は少し驚いたように軽く声を漏らした。

 「こういうとこに来るのは初めて?」

 「うん。私、そもそも外出しないから」

 「ふーん」まあ、確かに三島は休日、一人でぼーっとしていそうな印象がある。

 「あんまり本も読む方じゃなかったし」

 なかったということは、今は本をよく読むということなのだろうか。それがもし仮に僕の影響だとするのであれば、僕としては嬉しいことだ。

 「今でもこういう店ってあるんだね」  

 「東京に出ると、もっとすごいらしいよ」

 「へえー、私、東京行ったことない」

 「まあ、僕もだけど」

 「進学したら、やっぱり東京に出たい?」

 「さあね。今はあんまりそういうこと考えてないな」というよりも、考えたくないという方が正しいかもしれない。今はこうして三島と二人でいたいのだ。

 「……」

 自分でもこんな気恥ずかしいことを思ってしまう自分に少し驚いてしまった。僕はこういう人間だっただろうか。

 ふと三島の方を見た。三島は大きな瞳でぼんやりと背表紙を眺めていた。いまだに三島の表情から感情を読み取ることは難しい。

 僕はあまりにも、三島について知らないことが多すぎる。

 例えば、僕と付き合う前、三島が僕の家に頻繁に来ていたが、あの時に感じた違和感の正体は、僕の中でいまだに解決しないままでいる。

 「……」

 まあ、今はそんなことどうでもいいか。

 結局僕は、三島が興味を示した本をいくつか買ってやって、その日は夕食を一緒に食べて別れた。




 三島について知らないこと。そんなことがたくさんあるのはある意味で仕方のないことなのだろう。たとえ恋人同士だからといってお互いのことを何でも知っておかなければならないとは僕だって思わない。

 けれど、それを知りたいと思ってしまうことは仕方のないことだし、できることなら教えてほしいと思う。

 けれどそれが三島にとって僕に言いたくないことだった時、僕がそれを詮索してしまうことによってこの関係にしこりができてしまうかもしれない。それは避けたかった。

 「どうするべきなのかねえ」

 僕はベッドに横になりながら、スマホを片手に独り言をつぶやいた。こうして人間関係のことで悩むのは久しぶりだ。僕はそういうのが煩わしくて人間関係を避けるようになっていった。けれど、何故か今は、それを煩わしいとは感じなかった。

 もしかしたら、僕は初めて彼女ができて浮かれているのかもしれない。例えば昔信じていた空虚な理想を手にしているかのような錯覚に陥っているのかもしれない。

 しかしそんな感覚に、そんな錯覚に、違和感を覚えないくらいには、僕はこの関係を楽しんでいた。




 テスト期間で忙しかったものの、しかし僕らの関係は良好だった。相も変わらず屋上に続く階段の踊り場でご飯を食べ、放課後は二人で下校した。

 ただ、学校が終わって夜中に僕が三島に連絡をしても、三島からの返信は来ないことが多かった。勉強しているのだろうと言い聞かせてはいたものの、しかし心のどこかに不信感のようなものが募っていくのも確かだった。

 どこか悶々とする日々を過ごしつつも、時間はいつも通り過ぎていき、テストが終わり、冬休みになった。クリスマスが近づいてくると、相変わらず放課後に連絡をしても返信が来ないことが多かったが、そんな悩みのことなんてすっかり忘れてしまい、初めてクリスマスを両親以外の人と過ごせるかもしれないと浮かれ切っていた僕は、終業式前日の帰り道、三島をデートに誘った。

 「ごめん、行けないかも。休みの日は家にいろって、親に言われてるから」

 しかし、僕のそんな淡い期待は無残にも打ち砕かれてしまった。

 「ああ、そうなんだ。ならしゃーない」

 「ごめんね……。せっかく誘ってくれたのに」

 「いやいいんだよ。まあ、仕方ないでしょ」

 口ではそう言いながらも、僕の心中は穏やかではなかった。忘れかけていた不信感がふつふつと湧き出てくる。思えば、確かに僕らは休日に遊びに行ったことがなかった。テスト期間だからと言い聞かせていたが、もうテスト期間は終わっているのだ。

 「一つ聞きたいんだけどさ」

 「何?」

 「三島って、浮気とかしてないよな?」

 「してないよ!遊びに行けないのは、本当に親が言ってくるからで……」三島はバツが悪そうに俯いた。

 「でも、放課後連絡しても返信ないじゃんか。それも親が言ってくるから?」

 「それは……」三島の視線があちらこちらに泳ぐ。何かを隠そうとしていることは火を見るよりも明らかだった。

 「三島に限ってそんなことはないと思ってたし、めんどくさい奴だとも思われたくないから何も言わなかったけどさ、やっぱりさ、どうしても疑っちゃうだろ」

 「そうだよね……」三島が下唇をかむ。珍しく、三島の表情に感情が表れていた。

 そして三島は何かを決心したかのように僕をまっすぐにとらえた。

 「今日、家によっていい?話したいことがあるから」


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