『 カバーイラスト & 短編「 いまのままで 」 』
5巻の軽いネタバレがありますのでご注意下さい。
もしよろしければ、5巻を読まれてから、
お時間のあるときに、覗いていただけると嬉しいです。
【 書籍 : カバーイラスト & 短編「 いまのままで 」】
sime様に描いていただいた、書籍のカバーイラストです。
転記・転載は禁止です。
よろしくお願いします。
黄色に彩られたマナキス(秋)の風景は、
すごく鮮やかで、セツナ達のそばにいるキャラクター達は、
穏やかな時間を過ごしているのだということが、
手に取るように伝わってきました。
しかし、そんな華やかな風景なのに、
どこか切なさを覚えます。
本当に美しく、優しい風景がそこにありました。
sime様、いつも心に残るイラストをありがとうございます。
薄浅黄共々、心から感謝しております。
《※ Webとは書籍では色々と違っています。
ノリスとエリーは、パーティーの段階で、
もう、ソフィアやサイラスと面識があります》
【 ノリス 】
マナキスの薄い青色が広がる空の下で、
楽しそうに笑う声が、耳に届いた。
思わず振り返ると、
話す声が微かに聞こえ思わず笑う。
どうやら、アルト君とサイラス様が、
何かを取り合っているらしい。
(お肉でも取り合っているのかな?)
僕はそんな賑やかな輪の中から離れているため、
彼らが一体何を取り合っているのかはわからなかった。
僕が皆から離れている理由は……。
ラギさんの家の中庭を、ゆっくりと散歩しているからだ。
招待された食事会で、
席を離れるのは褒められたことではない。
だけど、セツナさんが今日のために狩ってきたという、
魔物のお肉をエリーと一緒に食べ比べ、
さらに、僕達が好きだと話していたチーズや野菜も、
用意してくれていたとなると、食べ過ぎてしまうのは、
仕方がないと思うんだ……。
なので、普段よりかなり食べ過ぎてしまい、
アルト君やサイラス様が、
張り合って食べているのを見ているのが、
辛くなり、料理の香りも胃を刺激するほどだった。
多分、顔色が悪かったのかもしれない。
セツナさんが胃腸薬を渡してくれ、
ラギさんが、「散歩でもしてくるといい」と、
いってくれたので、その場から離れることにした。
エリーはどうしているのかと思い探すと、
ソフィア様と楽しそうに話していたので、
何もいわずそっと離れた。
もしかすると、エリーもソフィア様も、
アルト君達に背を向けて話していたのは、、
僕と同じように、料理を見ないようにしていたのかもしれない。
食べ物の香りが届かないところまでゆっくり歩く。
ラギさんが自由にしていいといってくれたので、
さらに奥にいこうとしたところで、
僕を呼ぶエリーの声に振り返った。
「ノリス?」
エリーが心配そうに僕を見ている。
「どうしたの?」
「お腹が苦しいから、
少し歩いていたんだよ」
「あー。わかる。私も苦しい……」
そういってエリーが胃の辺りをさする。
「ソフィア様と話していたんじゃないの?」
「今は、ジョルジュ様とフレッド様とお話しになっているよ」
「そうなんだ」
このあとのお茶とお菓子を食べるために、
「私も歩く」といって、エリーが僕のとなりに並ぶ。
所々に咲いている、野草を目に入れながら、
エリーと会話しながらゆっくりと歩いた。
「昨日、緊張してあんまり眠れなかったけど、
大丈夫だったね」
「そうだね。ユージン様もキース様も、
とても優しいお方だ」
今日の食事会を、
ラギさんとアルト君とサイラス様と計画したときから、
第一王子のユージン様と宰相のキース様が、
参加されることは知っていた。
だから、昨日の夜はとても緊張して、
あまり眠れなかった。
普通ならば、一国民でしかない僕達が、
簡単に会える方達ではない……。
ジョルジュ様やサイラス様でさえ、
遠目でしか見たことがなかったのだから。
王侯の方々に対する礼儀作法なんて知らない。
だから、怒らせてしまったらどうしようと、
思っていたのだけど、そんなことは杞憂だった。
ユージン様もキース様も、
本当に優しく、話しかけてくださったから。
「それでも、お話しするのは緊張するけど……」
ぼっそと呟くエリーに苦笑して頷く。
どうしても、ユージン様達の洗練された美しい所作に、
気後れしてしまうから。
「どうして、セツナ君もアルト君も普通に話せるのかな?」
「アルト君は、あまり深く考えていないだけだと思うけど、
セツナさんは、なんていうか馴染んでいたよね」
「うん。馴染んでた。一番おかしいと思ったのは、
ユージン様とキース様と並んでいても、違和感がないの」
「確かに……」
「最初にノリスから紹介されたときも、
冒険者に見えなかったけど、
ユージン様達と並んでいたら、
もっと、冒険者に見えなかった」
「……」
「セツナ君って、
もしかしたらどこかの国の王子様だったりしてね」
他の人ならきっと、「それはないと思うよ」といって、
冗談として笑えていたかもしれない。
だけど、セツナさんの立ち振る舞いなどから、
あながち間違いではないような気がして否定できない。
僕とエリーは、顔を見合わせると、
それ以上この話題を広げることはしなかった。
知らない方がいいこともあると思うんだ。
そろそろ、皆の元に帰ろうかと話、
元来た道を戻る。あと少しというところで、
エリーが足を止めた。
「ねぇ。ノリス」
「うん?」
「シルキスがくる前に、
ここに花を植えてもいいか、ラギさんに聞いてみようか」
エリーが周りを見渡してそんなことをいった。
食事会の場所は、花が植えられて咲いていたけれど、
今僕達がいる場所には、野草しかなく殺風景だ。
「そうだね。僕も同じことを考えていたよ」
僕とエリーは同時に、ラギさん達が居る場所を見る。
暖かい日差しの中で、穏やかに笑っているラギさんの周りには、
皆が集まっていた。
その風景がとても優しく感じて、
キラキラと光っているように見えて、
とても、居心地のいい場所のように思えた。
「また、皆で集まれたらいいのにな……」
エリーが囁くように呟いた言葉に、微かに頷く。
だけどそれが難しいことは、僕もエリーもわかっていた。
ユージン様達やサイラス様達は、僕達とは住む世界が違いすぎる。
きっと、もう二度とこんな近くでお目にかかることはないだろうから。
「ラギさんやセツナさんやアルト君なら、
僕達に付き合ってくれると思うよ」
「うん。そうね。シルキスになったら、
アルト君を誘って、お花を植えよう。
綺麗に咲いたら、一緒にお花を見ながらお茶を飲みたいな」
そういって笑うエリーに、僕はしっかりと頷いたのだった。
-Endー
ありがとうございました!





