『 船上にて 』
69番目の勇者の話です。
時系列は、リシアからガーディルへと戻る途中での、
掌編となります。(活動報告と同内容)
【69番目の勇者】
『知っての通り、僕はこの世界の国のことをあまり知らない。
知っている国名はほとんどなくて、
いったことのある国にいたっては、
その中のエラーナとトリアだけだったしね。
まぁ、そんなことは、皆が知っていることだったから、
「療養でどこかいきたい所があるか」と聞かれたときに
「リシアという国のハルという町にいきたい」と答えたときには、
とっても驚かれたよ。
だけど、ガーディルの偉い人達はリシアには無関心だったから、
特に反対されることはなかったんだ。
逆にその無関心ぶりに、今度は僕の方が驚かされちゃった。
むしろ問題になったのは期間の方で、
旅程を全て船旅にし縮めることで、
なんとか説得することができたんだ。
それでも滞在期間は4日間しかとれなくて、
今となっては残念だったなと思う。
ハルの町の印象は、君から話を聞いたときの印象はおいておいて、
実際に肌で感じたものだけど、町全体が魔力で覆われているせいで、
僕にとっては閉塞感がすごかったんだ。
それに、町の人達も明るく親切な人達ばかりだったけど、
自国への愛着が強くて、
ガーディルやエラーナで受けるのとは別の意味で、疎外感を感じたな。
それでも想像していたよりは友好的だったから、
ガーディルとリシアで良好な関係を築くことも、
できるんじゃないかと思ったよ。
町の雰囲気といえばそんな感じだったけど、
買い物に関しては不便はなかったな。
療養よりも買い物が本命だった僕にとっては、文句はなかったよ。
世界中から、色々な物が集まってきているっていう話は、
本当だったんだなって思った。
お土産に買った物を気に入ってもらえればいいんだけど。
そうそう、もっと大事な報告があるんだ。
僕に友達ができたんだ。名前はセツナっていうんだけど、
とても気になる話をしていて、どうしても続きが気になって、
声をかけたら、とんでもなく意地悪な人だったんだけどね。
でもなんていうか、一目見たときから、
昔から知っていたような、魂の深いところで繋がっているような、
そんな不思議な感覚を覚えたんだ。
だから、僕は一人じゃないって伝えるためにこの手紙を書いたんだ。
ハルで買ったお土産とともに墓前に添えるね。
きっと心配していると思うけど、安心して休んで欲しい』
僕は船室は暗くて嫌だなといって、
甲板の椅子に座って手紙を書いていた。
でも、ここまで書いてから、筆を止めた。
「勇者様、もう時間です。船室に戻り勇者装備に着替えてください」
不満そうな兵士にそう声をかけられたから。
まぁ、彼からしたら、そのことは昨日話していたので
「ぎりぎりの時間までこんなところで羽を伸ばしているな」と、
文句の一つもいいたいんだろうなと思う。
「もうそんな時間かぁ。気が付かなかったよっ。ごめん」
僕は立ち上がると、書きかけの手紙を丸めて屑籠に捨てた。
「いいのですか?」
不思議な顔で問いかけてくる。
「あっ、うん。いいんだ。
まだ続きを何か書きたかったんだけど、
忘れちゃったから。また、始めから書き直すよ」
兵士が「自分が急に話しかけたからでしょうか」と、
申し訳なさそうに頭を下げるので、僕は慌てて彼にいう。
「違うよ、本当にふって忘れちゃっただけだから、気にしないで」
そういって彼を慰めつつ、僕は急いで船室へと向かったのだった。





