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刹那の風景 : 書籍関連  作者: 緑青・薄浅黄
刹那の風景2:68番目の元勇者と竜の乙女

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『 風が去ったあとで 』

感謝を込めて。

『刹那の風景2巻』の書籍に関する内容を含んでおります。

そのため、できましたら『刹那の風景2巻』を読まれてから、

この物語を読んでいただければ幸いです。

【トゥーリ】


私にはくまのぬいぐるみを、アルトにはウサギのぬいぐるみを、

そして……クッカには馬のぬいぐるみをセツナは渡してくれた。


最初、ウサギのぬいぐるみは……、

私に贈られるものだったようだけど、

アルトが目を輝かせて凝視していたことから、

無事アルトの宝物になっていた。


アルトの欲しいものを私が貰うことにならなくて、

よかったと思っている。


でも、正直なところ……、

アルトがどうしてあのぬいぐるみを気に入っているのか、

私にはわからない。


くまのぬいぐるみも馬のぬいぐるみもアルトは、

可愛いとはいっていたけれど、

ウサギのぬいぐるみと同じような反応は示していなかった。


白目をむいているウサギの何が、

アルトの琴線に触れたのだろう……。


そんなことを考えながら、

私は結界の向こう側にいるセツナ達を眺めていた。


結界の向こう側にいるアルトとクッカは、

セツナから馬のぬいぐるみの説明を聞いていた。

どうして……ぬいぐるみに説明が必要なのだろうと思うけど、

先ほどの光景を目にしてしまえば、

説明が必要だということは理解できた。


馬のぬいぐるみが……クッカが冗談で差し出した、

林檎をパクリと食べてしまった瞬間を、

私も見てしまったのだから。


「この馬のぬいぐるみは、鞄になっているんだよ」


セツナのこの説明に、

クッカとアルトが首をかしげている。


二人のその様子はとても可愛らしいのだけど、

首をかしげたくなったのは私も同じだった。


「ぬいぐるみが、鞄なのですか?」


「ぬいぐるみが、かばん、なの!?」


二人は同時に声を出し、

クッカが抱っこしている馬を見ていた。


「そう。鞄の中にしまいたいものを、

 馬のぬいぐるみの口元に持っていくと、

 パクリと食べてお腹の中に収納してくれる」


「……」


「おぉ、すげぇ!」


セツナの説明に、

アルトは楽しげに馬のぬいぐるみを見つめ、

クッカはアルトとは反対になんともいえない表情で、

抱っこしている馬を見ていた。


「クッカ気に入らなかった?

 普通のぬいぐるみにすることもできるよ?」


クッカのその表情に、

セツナが困ったように笑いながら声をかけた。


「可愛いと思うのですよ?

 だけど、取り出すときが可哀想に思ってしまうのですよ」


「あー。そうかも」


クッカの訴えに、アルトが首を縦に振って頷いている。

確かに食べて収納する姿は可愛いけれど、

取り出すのに口を開けてその中に手を入れるのは、

ぬいぐるみとはいえ……少し躊躇してしまうかもしれない。


そんなクッカとアルトを優しく見つめながら、

セツナは「大丈夫」といった。


「取り出したいものを想像して、

 手綱を引いてみてくれる?」


クッカが彼のいうとおりに、

「林檎をだして欲しいのですよ」と口にしながら手綱を引くと、

馬の口が開いて林檎が現われた……。


セツナが苦笑しながら「声に出さなくてもいいよ」と教えている。

それにしても……あの馬のぬいぐるみには、

どんな魔法が刻まれているのだろう……。


彼の発想は色々とおかしいと思うのだ。


……もしかしたら、私が貰ったくまのぬいぐるみにも、

何か魔法がかかっているのかしら? 


そう考えた瞬間、

ふと、視線を感じてその方向へと顔を向けると、

セツナと目があった……。


なんとなくその目が笑っているように見えるのは、

気のせいだと思いたい。


「林檎が落ちないのですよ」


クッカの声で、彼が私から視線を外した。


「馬の口の前に手を持っていくと、落としてくれるよ」


「本当なのですよ~」


「地面に落ちると汚れてしまうからね」


「なるほどなのですよ」


「これで大丈夫そう?」


セツナの優しく問いかける声に、

クッカが嬉しそうに笑って、

馬のぬいぐるみを抱きしめながら頷いた。


彼は、アルトにもクッカと同じようにするかと、

聞いていたけれど、アルトは鞄があるからいいと答えていた。


このとき、私も多分セツナもさほど気にせず、

アルトの返事を聞いていたのだけど、

食後のぬいぐるみを相手にしたアルトの暴れように、

セツナが小さな声で「鞄にしなくてよかった」と、

呟いているのを聞いて、心の中で同意したのだった。




「トゥーリ様……」


クッカの呼ぶ声で、ぼんやりしていた意識を引き戻された。

結界を挟んで向かい合っているクッカを認識する。


その瞬間、私とクッカの目の前を、

何かが通り過ぎていった。


カッポ、カッポという音を洞窟内に響かせて。


(え?)


今のは……なんだろうと戸惑いながら、

過ぎ去っていく音を追いかけるために視線を向けると、

その先には……セツナがクッカに渡した馬のぬいぐるみが……、

のんびりと歩いていたのだった。


お茶をいれるの邪魔になるからと、

クッカはベッドの上に置いていたはずなのに……。


そう思ったところで、今の状況を私は完全に思い出した。

そうだ、私は、結界を挟んでクッカと向かいあい、

お茶を飲みながら座っていたのだった。


セツナとアルトが旅だって数時間経ち、

静かになった洞窟で、二人とも言葉少なになっため、

どちらからともなくお茶の時間にしようと切り出し、

お互いを慰めあっていた。


私も寂しいけれど、クッカはきっともっと寂しいと思う。

どこかしんみりとした空気が、洞窟内に満ちていた……。


それがどうして……、

こんなおかしな空気になってしまったのだろう。


……なぜ、ぬいぐるみが歩いているの?


「……あのぬいぐるみは、

 いったいどうなっているのかしら?」


「ご主人様の考えることは、

 よくわからないのですよ……」


のんびりと散歩するように歩く、

馬のぬいぐるみを見ているうちに、

なぜかしんみりした気配が遠くなっていた。


たぶん……。

あまりにも突拍子もないことを目の当たりにしたために、

寂しさが吹き飛んでしまったのかもしれない。


パカラン、パカランと、今度は駆け出したその音の連なりに、

なぜか笑いがこみ上げてきた。


それはクッカも同じだったようで……。

間の抜けた音を聞きながら、

しばらく、クッカと一緒に笑っていたのだった。



書籍及び電子書籍をご購入いただきありがとうございました。

ささやかなお礼ではありますが、楽しんでいただけましたなら、

嬉しいです。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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