『 カバーイラスト & 短編「だんらん」 』
書籍のみ読まれている読者様へ。
二巻のネタバレがありますのでご注意下さい。
もしよろしければ、二巻を読まれてから、
お時間のあるときに、覗いていただけると嬉しいです。
【 書籍:カバーイラスト & 短編「だんらん」 】
sime様に描いていただいた、書籍のカバーイラストです。
転記・転載は禁止です。
よろしくお願いいたします。
カバーイラストをいただいた瞬間に、
あー……物語をつけたいと思ってしまいました。
想像力が凄く刺激されるんですよね。
情報量が多くなってしまう話は、
Webでも書籍でも、ほのぼのしたシーンが少なくなる傾向に、
書籍化に伴い、こういった機会が増えるのは、
楽しみの一つになりそうです。
原稿用紙三枚ほどの短い話になりますが、
読んでいただけると嬉しいです。
感謝を込めて
『だんらん』
【トゥーリ】
クッカがいれてくれた紅茶の香りが包む中で、
私は薄い透明の結界の向こうで話されている内容に耳を傾けていた。
「どんな薬草を育てることになるのですか?」
セツナが「薬草園をつくる」といい、
大がかりな魔法を使って整えた場所を、
クッカが真剣な顔で見つめながら彼に色々と質問を繰り返している。
二人は今、クッカが管理することになる、
薬草園の方向性を決めているさなかだった。
「薬草にも相性があるのですよ」
「そうなんだね」
「なので、配置に気を付けないといけないのですよ~」
セツナはクッカの説明に深く頷きながら、
ここにくるまでに採取したらしい薬草を鞄から取り出して、
クッカに見せている。
クッカはその薬草を受け取ると、小さく詠唱して魔法を発動させた。
セツナは黙って見守り、アルトは興味深げに様子を見ている。
しばらくして、クッカの手に握られていた薬草が淡く光ってから、
その形を変えていく。
アルトだけではなくセツナも軽く目を見張って、
クッカの魔法に意識が向いていた。
「完成なのですよ~」
「えー! やくそうに、ねっこがはえた!?」
目を丸くしながら驚いているアルトに、
クッカが楽しそうに笑いながら頷いた。
「すごい!」
「頑張ったのです」
「精霊はそんなこともできるんだ……」
セツナの感心した声に、
クッカが少し困ったように笑いながら口を開く。
「色々と条件があるのですよ」
「例えば?」
「形を失ったものとか……生命力を感じないものとかは駄目なのですよ」
「なるほど……」
その他にも細かい条件があるらしく、
できるだけ種か根がついたものを送って欲しいと、
クッカがセツナに願っている。
「そのやくそうは、どうするの?」
「今から植えるのですよ!」
「おー、おれも、てつだっていい?」
「一緒に植えるのですよ~」
「僕も手伝おうか?」
「アルト様と二人で大丈夫なのです」
自分の手の中にある薬草をアルトと分け合いながら、
クッカはセツナの申し出を断った。
「どうやって、うえる? おれが、あなほっていく?」
「……」
セツナから使うといいよと手渡されたスコップを握りしめ、
キラキラと目を輝かせながらそう尋ねるアルトに、
クッカは黙って頷いている。
セツナが苦笑を浮かべながら、
「余計なことをしてしまったかな」と呟いていた。
もしかすると、クッカは魔法で穴を開けていく予定だったのかもしれない。
「計画的に、植えていかないといけないのですよ」
「どうする?」
クッカは少し思案してから魔法の詠唱を始めた。
薬草畑として用意された場所に魔法陣が浮かび上がり、
クッカの魔法が発動し、土と岩しかない殺風景な洞窟に……、
様々な植物が映し出される……。
目に飛び込んできたその鮮やかな色彩に、
私は思わず息を飲んだ……。
魔法で創られた幻影だとわかっている。
わかっているけれど……それでもそこに緑が……。
遠い記憶がふと脳裏をかすめ、
花の香りが……草の香りが蘇る……。
もっと近くで鮮やかな色彩の緑を見たいと、
思わず身を乗り出しそうになるのをぐっとこらえ……、
その衝動を抑えるために一度目を閉じた……。
一度軽く息を吐き出し……、
自分の気持ちが落ち着くのを待って目を開けると……。
そこには……洞窟一面に色とりどりの花と緑が溢れていた。
そう……溢れていたのだ。
結界のすぐそばで咲く花を見て、周りを見渡し、
そして自分のそばに咲く花々を見る。
そして……のろのろと視線をあげた先では、
アルトとクッカが目を見開いて立ちつくしている姿があった。
クッカまで驚いているということは……彼女の魔法ではないのだろう。
だとすると……こんなことができるのは一人しかいない。
驚いている二人を優しい眼差しで見つめているセツナを見ていると、
私の視線に気付いたのか彼がこちらを見てふわりと笑う。
そして、その視線を私から外すと、
「ししょう、すごい!」と叫んでいるアルトに手を振っていた。
この光景が私のために創り出されたものなのだと、
私は知っている。
だけど、セツナが何もいわないことを選んだようだから、
私も何も聞かないことにした……。
今……言葉を紡いでしまったら、
止まらないような気がするから。
目の前に可憐に揺れる魔法で創られた花を愛でながら、
心の中で「ありがとう」と呟いた。
しばらくして、アルトがふらふらとした足取りで歩いてきたと思ったら、
ストンとセツナの隣に座り軽く頭を揺らした。
「すごく、ねむい」
もう半分寝かけているような声で、そう告げると同時ぐらいに、
アルトは甘えるように、コロンとセツナの膝の上に体を半分のせていた。
セツナが一瞬驚いたのか目を見張っていたけれど、
すぐにいつもの彼に戻って「疲れたの?」と、
優しくアルトの頭を撫でながらに聞いている。
「クッカが、もう、てつだうこと、ないって」
「お疲れ様。眠いなら、夕飯まで少し寝るといいよ」
「うーん……」
アルトは気持ちよさそうに目を細めると、
そのまま返事することなく寝息を立てていた。
「大丈夫?」
アルトの体調が悪くなったのかと思い、セツナに声をかける。
「ずっと気分が高揚していたのが落ち着いて、
肉体の疲れが強くでてきたのかもしれない」
「そう……」
「大丈夫だよ。少し寝れば回復すると思うから」
彼の言葉に安堵していると、
アルトが眠っているのにふにゃりと幸せそうに笑った。
その笑みに、私の心まで幸せな気持ちで満たされた。
セツナの言葉どおり、
お昼寝から目覚めたアルトは元気を取り戻したのだが……、
夕食後のアルトとクッカのぬいぐるみでの遊び方は……、
格闘の訓練かもしれないと思うほど激しかった。
二人のその遊び方を見て、
そういえば兄達もかなり暴れていたことを思い出す……。
種族が違っても、子供の遊び方は変わらないのだなと、
懐かしがっていたら、あらぬ方向へ首が曲がっている、
ウサギのぬいぐるみと目が合った。
「助けて欲しいと」いっているように思えたけれど……。
私には無理だと思い、心の中で謝りながら、
ぬいぐるみからそっと視線をそらしたのだった。





