白い頂き
頂から空を仰ぐ。
どこまでも青い空を仰ぐ。
空は青く、果てしなく深い。
周囲は澄みきった空気だった。
澄みきった透明な空気が冷たく、凍てついた白い世界の中を流れていく。
凍る空気。
傷つく空気。
それほどの高い頂から、夏の服のまま蒼い冬の空を見上げている。
寒くはない。
両腕は素肌を晒したまま氷点下の空気を堪能している。
夏の軽装で、真冬の最高峰の頂きに立つ。
周辺の白い連峰から視線を感じる。
白い連峰たちからの羨望を感じる。
この気分が知りたいのか?
山をバカにした夏の軽装で冬の最高峰にたった一人で立っている、この気分が?
……別に……、昔と変わらない。
昔も今もずっと、ここにいた……。
ただ周りが気付いていなかっただけなんだ。
周囲の低い連峰たちが……、
やっといまさら、この大昔からあった高い最高峰の存在に気付いただけなんだ。
そんな周囲を小バカにしている、いい気分が知りたいのか?
そうか……、
そうだな……?
じゃあ、言おうか?
……まだ……届かないんだ……。
まだ……届かないんだよ?
まだ届かないんだ……。
この手はまだ……届いていない。
どうすれば、あそこまで届くのだろう?
まだ足りないッ。
まだ低いッ。
どうすればいい?
まだ、他に何を手に入れれば、
やっとあの先に辿り着くことができるッ?
富では行けない。
財でも行けない。
大人になったら、もう行けない。
少年のままでないとダメなんだ……。
大人を知った子供では、もうムリだった……。
少年のままでないと……確実にあそこには辿り着けないッ!
……ふ、一人寝ている。
完結させてしまったからな……。
一人だけグースカ寝てやがる。
まあ、しばらく休んでるといい。
他の少年たちなら、まだ起きている。
この少年たちなら、誰か一人でもあそこに届くか?
だからまだ見上げている……。
ここは低い。
まだ低い。
低すぎて低すぎて、窒息してしまいそうだ。
だから少しでも、あの遥か高い場所に届くように手を伸ばす……。
この誰もが見ている最初の冬山の頂きから……場所を変えて……、
あの果てしない青に、
この子供の頃の手が少しでもあそこに届く為に……。




