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5 知らなかったこと

あー、なんかめっちゃシリアスなのになっちゃった…。

まぁ、気にしない気にしない!大丈夫大丈夫!

なんか、もうどうやって続ければいいのかわからないけれど、とにかく今回は最後まで書くって言ったんだから書くぞぉ!

そして、その日は部屋にある本を読んで日中を過ごした。

夜の八時になって、母さんが「父さんが帰ってきたわよ」と伝えに来たので、急いでリビングに降りた。


「父さん、お帰り。」

「ああ、ただいま。話があるんだろ?母さんからLINEで聞いた。夕飯を食べてからでもいいか?」

「うん、俺もまだ食べてないから、一緒に食べよう。」

「随分遅いな。まさか、待っていたのか?」

「うん。母さんと食べることはよくあるけど、父さんと一緒に食卓につくってことがなかなかないから。…母さんにも待ってほしいって頼んだんだ。久しぶりに三人で食べよう。」

「…そうか。わかった。」


俺はこの頃から父さんとほとんど話さなかった。

父さんは仕事が忙しくて、日曜日も夜遅くまでいないから一緒に夕飯を食べることも稀だった。

家族全員で食べるなんてことも、この体で考えてみても、何ヵ月…、いや、何年ぶりかわからない。

昔は別にそこまで気にしていなかったけれど、今はいかにこういった時間が大切なのかということが分かっている。

…それに、こうやって三人で食べるのも最後かもしれない。

俺達は食卓について、食事を始めた。

…、会話がない。

と、思ったら父さんが突然話しかけてきた。


「どうだ?学校は。」 

「…えっ?あっ、うん。かなりいい…よ。勉強なんて余裕過ぎてさ、はは…。」

「…そうか。友達はいるのか?あまり同年代の友達と遊んでいるところを見かけないが。」

「あ、えっ…と、うん。だい、じょうぶだよ?その、さ…同年代のやつらとは、学校で結構遊んでるし…。」


なんて、嘯いてみる。

ごめん、本当は。何も、覚えてなんかいないんだ。

この頃の俺は、いったい何をしていたのだろう?どういった生活をしていたのだろう?

わからない。だって、もう15年も前のことだ。


「そうか。」

「うん。」


嘘をつくことに心が少しだけ痛んで。でも、気づかない振りをした。


「…」

「…」


それにしても、本当に会話が続かない。

…あれ?そういえば、母さんは全然会話に入っていない。

…そういえば、俺、母さんと父さんが話しているところって、見たことないかも。


「か、母さん?」

「…なに?」

「母さんと父さんってさ、その…あんまり話さないよね。なんで?」

「…さぁ?なんでだと思うの?」

「えっ?いや、その、俺が見ていないだけ、…とか?」

「…はぁ。もういいわ。この機会だから、全部教えてあげるわ。」

「おい!千代子!」


千代子とは、母さんの名前である。

俺は驚いた。父さんが声を荒げているところなど、見たことがなかったから。

それにしても、「全部教えてあげる」?

…どういうことだ?


「お前はいつもそうだ。勝手に色々決めていって。そんなんだからこいつも…彼方もこういう風になったんだろ!」


…え?

…俺?

彼方とは、おれの名前である。波並彼方。それが俺の名前だ。

それにしても、「こういうふうになった」とは?

…俺の知らないところで、一体何が起こっているんだ?


「何でいつも私のせいにばかりするの!?大体、貴方だってほとんど帰ってこないじゃない!それで私だけに彼方の面倒をみろって…!!なんなのよ!!」

「俺はお前らの生活費を稼いでいるんだぞ、家のことくらいお前がしろ!」

「そうやっていつもいつも面倒事ばかり私に押し付けて!!貴方がそんなんだから、私がしっかりしなきゃいけなくなるんでしょ!?彼方が立派な大人になるように、ちゃんとしてあげないと!!私は頑張っているわ!!彼方にはちゃんとした家庭教師だってつけているし、学校の時間以外はすべて勉強にあてさせているわ!!それなのに、あなたはいつもいつも仕事仕事って、彼方の面倒なんて見やしない!!本当になんなのよ!!」


そこで俺はようやく理解した。母さんと父さんは、どうしようもなく仲が悪かったのだと。そして、母さんが何故あそこまで教育熱心だったのかを。

…知らなかった。

いや、もしかしたら心の何処かでは気づいていたのかもしれない。でも、それでもなお、気付きたくないと、分かりたくないと、目を背けて来た。

その結果が、「あれ」だった。

でも、きっともうすでにどうしようもないところまで来ているのだろう。


「ふざけるな!お前はそうやっていつも「父さん、母さん!!」」


俺は父さんの話を遮ってそう叫んだ。二人は俺が介入すると思っていなかったのか、驚いたような顔をした。


「父さん、母さん…。俺、知らなかった。…こんな、こんな風になっていたなんて。知らなかった。いや、気づいていて目を背け続けてきた。

…俺、怖かったんだ。母さんに、父さんに、捨てられるのが。怖かったんだよ。だって、今の俺には何もない。金も、人脈も、能力も、年齢も、なにもない。

一人じゃなにも、できない。どこかに行くことすら叶わない。

…だから、怖かった。父さんに捨てられて金が貰えなくなって、母さんに捨てられて愛が貰えなくなるのが。

怖かったんだよ。

…でも、もういいよ。

…いずれは、こうなる運命だったんだよ。まさしく、これは「fate」なんだ。

…だからさ、もうやめよう。

俺、イギリスに行くから。金さえくれれば、もうそれでいいから。

200万円、今、ここで俺にくれ。

俺はもう、出ていくから。

母さんも父さんも、きっと、離婚したかったんだろ?でも、俺がいたから、俺の存在のせいで、出来なかったんだろ?邪魔だったんだろ?

もう、わかったから。十分すぎるほどに、わかったから。

もう、いいから。

なぁ、…終わりにしよう。この、壊れた家族ごっこを。

籍を外してくれても、構わないから…。

もう、もう、やめよう…?

もう、俺、耐えきれないよ…。

大丈夫だよ、俺は作家として生きていくから。

イギリスでとりあえず一儲けしてさ、いきていくよ。

…ああ、だから、イギリスに行って作家になるまでは名前だけは貸してほしいかな…。

でも、それ以外いらないから。

…愛なんて、もう求めないから。金と、名前。それだけ、「貸して」くれよ。

…なぁ、頼むよ…。」


俺は涙を流していた。

だって、どこかで思っていた。これは夢なんだと。自分にとって都合のいい夢で、だから、前は縁を切ってしまった父さんや母さんとも円満なままイギリスに行けて、みぃちゃんも全部覚えていて、また、一緒に、幸せに生きていけるのだと。

だけど、違った。

これは、現実だった。

自分にとって都合のいい夢なんかじゃなかった。父さんも母さんも本当は俺のことなんか愛していなくって、本当はずっとずっと邪魔で、

…わかっていた。わかっていたんだよ、本当は最初から。

…だって、だって母さんは前にイギリスにいきたいと行ったとき、「親として心配する素振り」すら見せないで、すぐに諦めた。きっと、いい機会だとでも思ったのだろう。

縁を切る、いい機会だと。

わかっていたんだ、最初から、きっと、全部。それでも、現実なんか見たくなくて。

でも、もういいよ。

もう、戻れないところまで来てしまったのだ。

最後まで、「良い子」でいるから。

きっと、前は「いらない子」で、「悪い子」だった。

だから、今回は「いらない子」で、「良い子」として終わらせてくれよ。

頼むから。

…頼むから。

…ああ、今すぐにでも君に会いたいよ。 

…みぃちゃん。



ここまで読んでくださってありがとうございました。

ちなみに、「fate」っていうのは「悲しい運命」っていう意味だそうですよ~。

…え?知ってる?…すみません。

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