2 知らない人
俺は未だ状況を把握しきれずにいた。
何故、俺は生きているのか?
そして、何故俺はからだが小さくなり、母は若くなり、実家にいるのか?
そう、これではまるで…
「昔に…戻った?」
それも記憶があるままで?
いや、そんな馬鹿な。SF映画の観すぎである。
落ち着け、俺。
仮定としては他にも沢山ある。
例えば、死んだ後脳だけ科学者に引き渡されて実験体に使われているだとか。
これは死ぬ前の走馬灯で自らの望んだ夢を見続けているだけだとか。
もしくは、今までいた世界が俺の妄想だったとか、さっきまでみていた夢だったとか。
でも…。
確かに、俺はあのとき感じた痛みも悲しみも虚しさも、今まで感じてきた喜びも、彼女を…、桜井三奈を愛しいと感じたその心も覚えている。
ならば…一番有力なのは科学者の説か?俺は実験の材料にされて夢を見させられているだけなのか?
ここは、俺の記憶になぞらえて、人の手によって作られた世界なのか?
でも、それを確かめることなどできはしない。なぜなら、目の神経…視神経は脳と繋がっている。
痛みや触られた感覚というのは皮膚にある感覚点というもので感じ、それが感覚神経を通って中枢神経に行き、脊髄を伝って脳にいき、そこからさらに運動神経にいくのだ。
つまり、例えて言うのなら、手を怪我して手が痛いと感じるのは、本当は脳が感じているのだ。
…だから、今目でみていると感じている世界も本当は脳を通して見ているのだ。
よって、脳に直接見させられているのだとすれば、俺は完璧に騙される。
そう、確認するすべなど有りはしないのだ。
そこまで考えて俺は、考えることを放棄した。
「…もう、考えるのも面倒くさい。実験材料にされているのならそれでいいや。これはチャンスだと思って自由に行動してやる…。」
俺は楽観的に考えることにした。
さっきまで小難しい(中学生レベルである)ことを考えていたのでそのリバウンドが来た。
「とりあえず…俺は今何歳なんだ?それと、状況把握と…、一番優先すべきは、誰があの世界を覚えているのか、だな。」
それによって、俺の今後の行動のすべてが変わってくる。
母は先程の行動からして、覚えていないだろう。
三奈は覚えているだろうか。覚えていてくれるだろうか。
もしも三奈が覚えていなければ、俺は最初から三奈との関係を作らなくてはいけなくなる。
そして、…あの日々を忘れられているのはとても辛い。
…泣き言を言っていても始まらない。
とにかく、行動するべきである。
ここまで読んでくださってありがとうございました。