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何故俺を魔王にしたっ!?  作者: 右利き
6/7

勇者とか魔王とか

 


 さて、俺と悪神たちの戦いも終わり、今回の本題と言える話に入る。



「では、第一回。なんか凄いことになっちゃったけどこれからどうしよう会議を始めます」


「……」


「……」


「……」



 全員、押し黙って俯く。


 先ほどまでの会議はふざけ合うような会議だったのだが、実はそれほど楽観できる状況ではないのである。


 魔物によってあちこち破壊された城内。


 ガイアの魔法によって消し飛んだ区画。


 人的被害は皆無だが、魔王城はもはや城と呼べる状態ではなかった。

 事実、最も損傷が少ないのがこの会議室だったりする。


「……ふむ」


 と、そこで口を開いたのはボスだった。


「ただの住処として使うのであれば、半壊した部分から資材を削り取って寮棟の修復に当てればいい。ただし、その場合は城の再建は叶わないだろう」


「……とりあえず住める状態にして、そこから少しずつ再建していくことは不可能なのですか?」


 ガイアが対案を示すが、ボスは首を振る。


「不可能とは言わん。だが時間が必要だな」


「じゃあさ、誰かの特殊能力でぱぱっと再建することはできないの? 時間を巻き戻すとか」


 ユニも案を出すが、やはり芳しくないのだろう。

 ボスはまた首を振った。


「俺の記憶では、そこまで都合のいい神はいないはずだ。時間の逆行をさせる神はいるが、それは世界全てを巻き戻してしまう上に記憶があるのは術者のみだ。発動コストとリスクも極めて高い」


「……」


「……」


 また押し黙る6人。

 つまるところ、魔王城に住むことはもうできないのである。


 うん、まあそうなんだけどさ。

 俺はずっと疑問に思っていたことを口にだす。



「魔王城って必要なの?」


「必要です!」


「必要だね」


「必要だよ!」


 お、おお。

 そんなに即答するほどか。


「俺が魔王なのって建前みたいなものだし、普通にみんなで暮らせればいいんじゃないの?」


 ガイアとユニが顔を見合わせる。


「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、そういうわけにはいきません」


「そういえば、誰も魔王様に説明をしていなかったんだね……」


「何の説明か知らないが、されてないことは確かだな。この世界に連れてこられてから色々な疑問を保留させてきたし」



 そう、俺は魔王なんてものをやっているが、この世界のことを何もかも説明されたわけではない。


 説明されたことだけは記憶しているのだが、当時は現状の把握よりも立場と生活に慣れるほうを優先していたため、知識は少ないのだ。


 とりあえず現時点で知っていることは……



「この世界は地球とは別の星と考えてよいこと、この世界は神の世界であること、魔物と人間がいること、魔法や特殊な能力が存在すること、勇者と魔王がいること、魔王は地球などから呼ばれ、形式的に神々を率いる役割を持つこと。……俺が説明されたのはこのくらいだな」



「正確には別の星というよりも別の宇宙なんだけどまあそれは重要じゃないかな」


「ですね。いま重要なのは、魔王、そして勇者についてです」


 ガイアはそのまま説明を続ける。



「この世界の勇者と魔王は、どちらも形式のみで、勇者や魔王ならではの能力を与えられているわけではありません」


 え、そうなのか。

 俺に大した能力が無いことは分かっていたが、勇者……例えばアイラは、聖剣なんていかにもな特殊武器を呼び出して戦っていた。



「聖剣を持っている人が勇者というわけではないのか?」


「はい、勇者というのは、人間の各国が祭り上げた力の強い人間にすぎません。圧倒的な力があれば誰でも選ばれる可能性があり、さらに剣に関する能力や神に似た容姿を持っていればなおよし、と言われています」



 圧倒的な力がある時点でかなりの人が除外されるのに、その上で特定の能力や容姿?

 剣の能力はともかく、容姿が神に似るなんて滅多にあるわけない……、ん?


「あれ、もしかして……」


「はい。勇者アイラルトリアは、圧倒的な力と特殊な剣を呼び出す能力、私に似た容姿、そして魔王に恨みを持っているという、奇跡的なまでに理想的な勇者だったのでしょう」


「そんなことってあるんだな……。本当にガイアと関係ないのか?」


「私も、あそこまで容姿が似ていると思うところがありますが……、少なくとも私の記憶にあの勇者はおりません」


 信じられないことだが、アイラのあらゆる異常性は全て偶然の産物らしい。

 もしくは、ガイアすら知らない部分で動いている何かが干渉しているのだろう。



「まあ今は、勇者アイラルトリア個人の話は関係ないよね」


 ユニはバッサリ切り捨てた。



「そうだな……」


「いま大事なのは、勇者と魔王のシステムの事ですね……」


 アイラ個人の話も気になるが、今はそっちに集中しないとな。

 勇者と魔王のシステムなんていう胡散臭い言葉も無視できないし。



「システムってことはあれか。デスマーチみたいにまたお前らが作ったシステムに俺は踊らされているということか」


「……」


「……」


 おいこら。

 目をそらすな。



「いえ、あの、私たちが介入したことに違いはありませんが、事の発端は人間たちでした」


「どういうことだ?」


「魔王とは、元々は人間の国の王たちが作った嘘の存在です」



 嘘の存在?

 もともと居なかったものを、居るように見せかけたということか?


「王様が嘘をついて魔王をでっち上げたということか? なんのために?」


「簡単に言うと、戦争を回避するためでしょうか。当時、各国民の意識が戦争をする事に傾いていたため、戦争をしたくない国王たちが仮説した世界共通の恐ろしい敵が魔王です」


「んー……?」


 どういうことだ??

 戦争回避の政策ってことか?



「つまり、魔王が現れたからみんなで手を組んで倒そう! 人間同士で戦争している場合じゃない!って風潮を作って、国民の意識を戦争から遠ざけたわけだね」


 ああ、なるほど。


 どこかで聞いたような話ではある。

 強大で共通な敵を作り上げ、敵の敵は仲間という理論で友好国を増やすのだ。


 しかし、そんなんで回避できる戦争ってなんだ。

 魔王なんて理由で戦争回避ができるなんて、国民は相当くだらない理由で戦争したがっていたんだろうな。

 もしも飢饉とかによる戦争だったら、これでは回避できなかっただろう。



 というか、そもそも魔王をでっち上げるなんて可能なのか……?

 聞いてみるか。


「魔王の存在を国民に信じさせることは難しくないか? ある程度は〝魔王の脅威〟みたいなものを示さなければ駄目だろうし」


「一応、当時に実在したやっかいな魔物を魔王としていましたので、存在はしていました」


 ああ、一応いたんだ。


 ……いやいや。

 それはマズいだろう。


「それだと、そのやっかいな魔物が倒されたら全てが頓挫してしまうんじゃないか? 各国で協力して討伐するわけだから、その魔物がやっかいとはいえすぐに倒されてしまうだろ」



「そこです」



 え。何?

 そこですって、何が?



「魔王様の言ったことはもっともです。人間の王にとって、これはあくまでもその場しのぎ的な対策でした。しかしそこで、私たちが介入したのです」


「お前たち……って神様たちが、か?」


「ええ。私たちは、人間の作り上げた魔王のシステムを基にして、さらに盤石な戦争回避システムを作ることにしました」



 なるほど、少し読めてきた。


 そこで俺が……というか、俺に類する立場の者を魔王に祭り上げたんだな。


 あれ?

 やっぱりお前らが原因じゃないか?


 まあ今更だけどさ。

 うん。


「……」


「ええと、何故か魔王様の顔が怖いですが、話を続けますね。私たちは、私たちの指導者である人間を魔王に祭り上げました。もちろん、人間の国王たちとも口裏を合わせました」


 やっぱりか。

 うーん、なんだかんだで魔王の立場に甘んじているだけの俺だけど、そんな背景のある役職だったんだな。



「それで、俺みたいなのが魔王をやると何が得になるんだ?」


「それは単純に、死なないことですね」


「え? 俺だって死ぬぞ?」


「いえ、そうではなくてですね……。勇者アイラルトリアのようなイレギュラーを除けば、私たち神々が守護する魔王様が人間に殺されることはまずありません。そして魔王様が存命であれば、魔王というシステムが終わることもないのです」



 なるほど。

 つまり俺は、魔王を存続させるために死なずに生きること自体が仕事であるわけだ。


 でもそれだと問題があるな。


「俺みたいなのが魔王やっちゃったら、魔王の脅威を示すことが出来なくないか?」


「そこで登場するのが勇者システムですね」


 おお。

 ここで出てくるのか。



「各地で力の強い者を勇者として祭り上げ、人間たちの支持を得ます。その勇者が魔王城に来たら、私たちが圧倒的な力で追い払います。その勇者が各地に帰り、人間たちに魔王の恐ろしさを伝える。これが勇者システムですね」


 エグいな。


 勇者は完全に被害者じゃん。


 

『でも勇者だって確立した地位を手に入れることができるし、利益は大きいよ? そもそも、多くの勇者にとって魔王討伐は単一の任務みたいな感じで、アイラルトリアみたいに執着する人の方が珍しいからね』


 当たり前のように心を読むユニ。

 プライバシーの侵害だ。やめてほしい。


 俺がジトッとユニに視線をやると、ユニはぺろっと舌を出した。

 むかつく。


 しかしまあ、言ってること自体は参考になるな。

 魔王は戦争の相手のような存在であるのに、勇者にとっては執着がない、と。


「……そんなことってあるのか? 魔王討伐だぞ?国と民の願いだぞ? 勇者も壮絶な覚悟を持っているんじゃないのか?」


「魔王様の言うことも分かります……が、おそらく魔王様が想像する勇者譚とこの世界の勇者譚には大きな隔たりがあります」


「へだたり?」


「はい。この世界の勇者は……、道中で魔王軍と戦うことがありません」


 ああ、確かに。

 だって人間を襲ったりとかしてないし。


「勇者の魔王討伐は、魔王軍に占領された街を取り戻したりすることはなく、捕まっている人々を解放したりすることもなく、仲間が死んだりすることもありません。端的に言えば、ドラマがないのです。物語がないのです」


 なんてこった。

 そんなの何も面白みがないじゃないか。


「ですから、勇者は魔王城に到着するまでは諸国漫遊のような気分でいようが問題ありません。そして大体の勇者は、魔王に挑む覚悟はあっても己の命を投げ捨てるほどではない、くらいの気持ちに落ち着くわけですね」


「上手くできているんだなあ……」


「ええ。本当に、私たちが作り上げた傑作だと自負しております。さて、勇者と魔王の話はこれで全てですね」


 俺やアイラにこんな背景があったなんてなあ。


 じゃあアイラは、これから人間の街に戻って魔王の脅威を伝え……るわけなかったな。

 アイラはもう魔王サイドで悪堕ちしてるし。

 悪堕ちは違うか。


 あれ、でもこんな複雑なシステムで、魔王が勇者を仲間に加えたりして大丈夫なのか?



「このシステム的に、今の俺たちの状況ってどうなんだ? アイラが魔王の仲間になって、人間は魔王と魔物を同勢力だと勘違いして、ついでに魔王城が半壊してるけども」


 俺が疑問を呈すると、ユニが嬉しそうに頷いた。


「そう、そこなんだよね。正に、今回の会議の核心がそれだね」


「そうですね。ここで話が戻ってくるのです。魔王様の疑問にまで」


 俺の疑問?

 というと、魔王城って必要なのか? ってことだな。


「まず勇者アイラルトリアを引き入れたことと、魔物についてはさほどシステムに影響しないと考えております。むしろ魔王の脅威がよりリアルなものになり、システムが強化されているかもしれません」


「でも、魔王城が半壊していること。これはダメ。絶対ダメ」


 ユニは両腕でバッテンを作り首を横にふる。


「それの理由が、魔王と勇者システムに関係があるということか?」


「そのとおりです。システムにおいて重要なのは、魔王様が死なないこと。ですがこれは語弊があります」


「そう。正確には魔王様が死なないことというよりは、魔王様の存在が人間にとって疑いようのないということが重要だね」


「つまり、あれか。ぶっちゃけ魔王が死んでようが生きていようが、魔王の存在を人間に信じさせればいいわけか」


「乱暴な言い方をすれば、そうなります……。というのも、魔王様が勇者に討ち取られた場合はアウトですが、病死などをした場合は人間にバレることはありません」


「やろうと思えば、魔王様がいなくてもシステムは構築できるんだよ。まあボクたちの場合は、マヒル様みたいな指導者がいるから、その人が自動的に魔王になっちゃうわけだけどね」


 ややこしくなってきた……。


 そもそも魔王勇者システムは、人間が魔王の存在をでっち上げたのを見かねて、本当の魔王を作ってやったのが始まりなんだよな?

 それなのに魔王がいなくても大丈夫ってどういうことだ?


『ここでユニちゃんの補足タイムだよ』


 おい……


 心を……いや、正直いまはありがたいから説明してくれ……


『人間が嘘の魔王を作り上げた。その存在を私たちが真実にした。……魔王様はそうやって考えていないかな?』


 うん。

 違うのか?


『違うんだよね。そうじゃなくて、私たちは魔王の存在を、簡単に倒せる存在から絶対に倒せない存在にしたんだ。魔王が嘘か真実かというと、システムを作る前も後も嘘の存在だよ。本当の魔王だったら人間を滅ぼしたりするはずだからね』


 ああそっか。

 さっきも言ってたな。


 魔王がいるかどうかは重要じゃない。

 それは、システムを構築したときから変わっていなかったんだ。


「なるほどわかった。話を続けてくれ」


 というか、ユニがテレパシー飛ばしているときは皆ちゃんと黙ってくれるよな。

 何となくわかるんだろうなあ……


「では話を続けますね。魔王の有無に関わらず魔王勇者システムは構築可能という話でした。しかしこれは、逆に言うと魔王様が存命であろうとシステムが崩れることもあるということです」


 あー、それは何となく想像できるな。


「つまり、俺が生きていても、人間が魔王の死を信じてしまったらアウトってことか」


「はい。その時点でシステムが崩壊します。再び魔王の存在を信じさせるには魔王の脅威を示す必要がありますが……」


 ……そうか、分かった。


 魔王の脅威を示すためには、勇者が魔王城に来訪することが必要なんだ。

 でも魔王が死んだとされてしまえば勇者が来ることもない。

 つまり、人間が魔王の死を信じてしまったらもう詰みということになる。


「なるほど、人間が魔王の死を信じるような事態は絶対に避けなければならないということだな」


「理解が早くて助かります。さて、では今の魔王城が半壊している状況。これについてどう思われますか?」



 ふむふむ。


 人間に魔王の死を信じさせてはいけない。


 半壊した魔王城。


 ……


 …………あっ



「めっちゃやばくない?」


「やばいです」


「やばいよね」


「やばいよ!」



 めっちゃやばい。

 やばいなんて曖昧な表現でも全員が真意を理解して同意する程度にはやばいのである。


「だって、もしも今このタイミングで勇者が来たらさ。なんか魔王城が崩れててさ。あれ、いつの間に魔王滅んだの? ってなるよね」


「なりますね」


「それでその勇者が人間の国に帰ってさ。「魔王は滅びた!」とか言いだしたら魔王勇者システムが終わるよね」


「終わりますね」


「うわあ参ったなあ……」


 実質的に、魔王城を仮住処にする案は却下だ。

 なにせそれは、半壊した城を放置することに他ならないのだから。


 それこそ一瞬で魔王城を再建するか、あるいは、見てくれだけ補修するとか?



「幻覚か何かで誤魔化すことは出来ないのか?」


「規模が小さければそれでもいい。しかし、城の外観全てというのは大きすぎる」


 この程度の案をボスが考え付いてないわけなかったか。

 となると、ボスが思いつかないような突飛で有効な案は……



「魔王城を破壊するしかないんじゃないか?」



 俺がそう言った途端、会議室にいるメンバーの首がぎゃるんと動いて一斉にこっちを見た。


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