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何故俺を魔王にしたっ!?  作者: 右利き
1/7

勇者とか神様とか

 


「魔王様!!」


「うん」


「もう抑えきれません! 勇者が、すぐそこに!!」


「うん……」



 俺の名前は田中真昼。

 なぜかよく分かんないけど、地球ではない場所で魔王をやっている青年だ。


 魔王を初めてまだ数ヶ月。

 最近やっと部下たちとの交流にも慣れたなーと思い始めたのだが……


 そう。


 俺、今から討伐されます。



「ちょっと遺書書いてくる」


「魔王様!?」


「あ、いや、前にも書いたな確か。俺の自室の机の引き出しに入ってるから。頼んだ」


「魔王様!!?」



 先ほどから魔王様魔王様と叫んでいるのは、魔王の……つまり俺の部下の1人だ。

 名前はガイアと言い、分かる人には分かると思うのだが女神様である。


 女神様が魔王の配下ということに大きな違和感を感じると思うが、実は魔王の配下には神様しかいない。

 何を言っているか解らないかもしれないが、多分気にしたら負けだ。


「遺書なんていいですから! 生き残ることを考えましょう!」


「ガイア……、お前は知らないかもしれないが、魔王とは勇者に殺されるものだ。それはもう、運命的に」


「そんなことありません! 今までは何も問題なく追い払ってきたのですから!」



 俺はよく知らないのだが、今まで何人もの勇者が魔王城にやって来ていたらしい。


 そして確かに、部下である神様連中は勇者達を危なげなく追っ払ったという。



「でも、今回の勇者は特殊なんだろ?」


「そうですが……」



 ガイアのような神様達でも、今回の勇者は手に余る存在であった。


 その特異性を挙げるならば、まずは奇襲を成功させて来たということが大きい。

 部下の神様達の探知をくぐり抜け、いきなり魔王城の中枢に出現したのだ。


 他の神様の相手はせず、一気に魔王を討ち取ってしまおうという策だろう。


 その策は非常に有効だ。


 魔王城で最も弱いのは、もちろん俺、魔王自身なのだから。



「もう俺が勇者と戦うしかないのか……」


「正面から打ち倒しますか。大丈夫、私もお供しますので、きっと勝てるでしょう」



 いやいや。


 いやだって、無理じゃん。

 勇者じゃん。無理じゃん。


 包丁の刃を見ただけでも怖いのに、斬り合えと?

 火傷でも泣くほど痛いのに、火球を撃ち合えと?


「無理無理。めっちゃ痛そうだし怖いし」


「しかし、何もしなかったらそれこそ痛い思いをするのでは……?」



 う……、一理ある。

 俺が何もしなくても、死ぬときは痛そうだ。


 まずい、そう考えると凄く怖くなってきた。

 やっぱ聖剣とか何かで、ズバッとやられるのだろか。

 一瞬で死ねるかな。痛みを感じずに逝きたいな。

 あー、もう、泣けてきた。

 涙が止まらない。



「うう、ううう……」


「魔王様ぁ!!」


「俺が、何をしたっていうんだよぉぉ……」


 情けない。

 我ながらとても情けないが、これから死ぬような状況なのだ。許してほしい。


「魔王様……、ご安心ください」


「うう……ん?」


 ガイアが、何かを決心した顔で言う。



「わたくし、ガイアが、命をかけて勇者を足止め致します。魔王様はその隙に、城からお離れください」


「お前……」


 ガイアに任せて逃げる。

 確かに、それはアリだ。


 ガイアだって並みの勇者を遥かに超えるポテンシルを持った女神様なのだ。

 一対一で勇者の相手をさせても問題はないように思える。


 今回の勇者が普通の勇者なら、だが。



「今回の勇者をガイアが倒せるのか?」


「それは……確かに、私1人では返り討ちになる可能性もあるでしょう」


「ガイア……」


 この女神は、文字通り命を賭けるつもりらしい。



「大丈夫、です。他の神々が駆けつけるまで時間を稼ぐことができれば勝てる戦いです」


「そりゃあそうだが……」


 ガイアは、大規模な破壊と小規模な小細工を得意とする神様だ。

 対個人戦闘では後者を使うことになるだろうが、それが勇者にどこまで通用するか。


 それに加えて、ガイアは俺と同様、戦闘慣れしているというわけではない。

 技術的な面もそうだが、精神的にも勇者の相手が務まるとは思えない。


 きわめつけはガイアの様子である。

 明らかに震えた声。

 伏せている目。

 とても戦えそうな様子ではない。


「ガイア、俺はとても、お前が大丈夫であるようには見えない」


「魔王様……」


 そんなガイアを置いてゆき、勇者と戦わせておきながら自分は逃げる。

 それは組織の長として正しいのかもしれないが、気持ちの悪い罪悪感を一生涯背負い続けることになるだろう。


 そんな気持ち悪い思いはしたくない。


 ならば……



「ガイア。お前を一人で戦闘させるのは悪手だ。せっかく2人いるのだから、2人で出来る事をやってみよう」


 そう。

 2人いるからこそできることもあるはずだ。



「魔王様も戦う、というのですか!?」


「戦うのは正直無理だが、やりようはあると思う。なにより、このままだと俺らは勇者の剣のサビになる未来しか見えないからなあ……」


 そう、ズバッと……。


 うわあ、ぜったい痛いよな……。


 やばい、また泣けてきた。


「ううう……今から作戦を……伝える……」


「魔王様!?」





 ーーーーーーーーーー





 そんなこんなで、何とか方針を定めた俺たちは、勇者を待つ。


 待つと言っても、勇者は目前に迫っているわけなので、実際に待った時間は1分もなかった。



 パリィィィン!!



 ……勇者を抑えようと張られた結界が破られた。


 なんの意味も無かったな結界。

 1秒すら稼げなかったな。


 まあ、仕方ない。

 それより注目すべきは、結界を破壊してこの部屋へと入ってくる勇者だ。



 それは、破壊された結界の残滓を身にまとうかのように歩を進める小さな影。


 それは、幼くも数々の試煉を踏み越え生まれた尊厳を漂わせている。


 目線はしっかりとこちらを射止め、その凛とした態度は神聖で、不可侵さを感じられる。



 勇者、アイラルトリア。

 

 それは現在の勇者の中で最強と謳われる少女だ。



(しかし……聞いていた通りだな)



 大地を示すと言われる深く暖かいブラウンの髪。

 清流を示すと言われる碧色の大きな瞳。


 勇者アイラルトリアはまるで、ガイアをそのまま子供にしたかのような容姿なのだ。

 瓜二つと言っていい。


 その容姿から、女神ガイアの加護を一身に受ける勇者としても有名なのだが……、もちろんガイア本人は否定している。

 尚、神様が魔王の下についていることを知る人間は少ない。人間は普通に神様を信仰し、神様は人間の敵の手下をやっているのである。ひどい。


「……」


「……」


 互いを観察し合う。


 ガイアも少女と言えなくもない容姿だが、勇者はさらに若い12才……、いや、大人びた雰囲気であることを考えると実際は10才前後だろうか。



「……」


「……」


 神妙な雰囲気が互いを包む。


 が、ここでいつまでも黙っているわけにはいかないだろう。


 まずは、ほら、挨拶。

 初めて会ったのだから、挨拶だな。



「こんにちは」


「……」



 …………



「こんにちは」


「…………」



 無視しおった。


 この娘、無視しおった。



 もしかして、勇者と魔王だし、挨拶とかいらなかったか?

 そうか、よく考えたら、第一声がこんにちはの魔王って珍しいか。


 なるほど、OK、今のは俺が悪かった。ちゃんと立場と空気を考え……

「あなたが魔王?」


 うわびっくりした。


 びっくりした。

 いきなり喋んなおい。


 ああ、いかん、落ち着け、予定どうりにやらなければ。

 よし、大丈夫、まだ攻撃されるような気配はないな。

 ここは魔王らしくいこう。



「ハハハハハ!! よくここまで辿り着いたな、勇者アイラルトリアよ!!」


 おお、我ながらいけてるじゃないか?


「……あなたが魔王かと聞いている」


「ハハ、申し訳……」


 間違えた。


「わざわざ聞かねばわからぬか!! よかろう、教えてやる! 我こそがこの城の主! お前たちが魔王と呼び恐れる存在である!!」


 自分で自分のことを恐れる存在とか言っちゃったけどアリかな?

 魔王だし、アリだよな?


 と、1人で考え込んでいると、勇者が一言囁く声が聞こえた。



「そうか、お前が……」



 ぞわりと。


 まるで空気が凍ったようだった。


 ちょっと待ってそんなに一瞬で雰囲気変えないでほしいんだけど。

 待って、マジになられるとまた恐怖が蘇ってくるから止めてほんと。


「私の、村を……」


 え? 何? 村?

 あれ、なんか勇者の雰囲気おかしくない?


「私の、お母さんと、お父さんを……」


 待って待って。

 知らないですそれ。

 まったく存じ上げておりません。


「全部、お前が……!」


 ちょ、え、いやほんと、本当に知らないって。

 記憶にございませんですはい。


「お前がああああああああ!!」



 まるで爆発が起こったかのような衝撃とともに、勇者から力が溢れ、光となり放出される。


 その光源は、勇者の手の中。

 先ほどまで見られなかったそれは、ひどくシンプルな形状の刃。


 鞘すらない光の塊が、空中に固定されたかのように顕現していた。


 聖剣ラルトリアである。



 はい。


 こわい。


 あ、でもあれなら、苦しまずに逝けそうじゃないか……?


 違う、そうじゃない。

 ええと、話を続けないと。



「そ、それが、聖剣か。美しいものだな」


 ああ、声が震えてしまった……。


「ふむ、そのような神聖な武器を見せてもらえるとは、光栄なことだな。感謝のお返しをしたいところだが、勇者殿はそれどころではないらしい」


「何をふざけて……!!」


 ふざけてはないです。

 出来るならば本当に、お茶でも出すので、それを飲んだら帰ってください。

 死にたくないですので。


「どうやら我に大きな憤りを感じているように見えるが、残念ながら身に覚えがないのだ。是非、説明してほしいところだ」


 これは本心だ。


 勇者が魔王を倒すという職業であるのは理解できるが、アイラルトリアはそれとは別に個人的な恨みでもってここに来ているようだ。村だとかなんとか言ってるし。


 願わくば、このまま話し合いの席にでも持っていって事情を聞きたいところなんだけど……



「ふざ、けるなああああああ!!!」


「ひいぃぃぃ!!?」



 ドカーンという音と衝撃。

 俺が感じられたのはそれだけだった。


 気づいた時には、俺と勇者がいた部屋から、壁を2枚ぬいた先の部屋にまで吹っ飛ばされていた。


 常人ならばこれで死んでいただろう。

 ご存知の通り俺も常人なので死んでいたはずだ。


 しかし、今の俺には女神ガイアがついている。


 隠れていたガイアが、勇者の攻撃の衝撃を上手く利用して俺をここまで飛ばしたのだ。

 流石、女神ガイアの小細工魔法。


 さて、ここからは勇者を引き連れながらスタコラと遁走する予定なのだが……。


 いかん。


 腰がぬけた。立てん。


 そりゃそうだよな。

 ガイアが防いでるとはいえ、あんな攻撃を受けた後で平然と走れるほど俺は図太くない。


 普通にひいぃとか叫んじゃったし。

 下手したら漏らしてたなこれ。



 と、呆然としていたら、精神状態がいくらかマシになっていくのを感じる。

 おそらくガイアの精神保護魔法だろう。ありがてえ。


 まだ足はガクガクといっているが、あとは気合である。

 動かないと死んじゃいますし。



 でもって、当の勇者はというと、あまりにも簡単に吹き飛んだ俺に違和感を感じたのか、強い警戒をあらわにしてこちらを観察している。


 罠か何かだと思っているようだ。

 うむ。

 模範的な勇者だな。


 しかし残念。

 俺がこれからするのは、トンズラである。



「フハハハ!! さらばだ!!」


「あっ!? ちょっと、待て!!」


「フハハハハハハ!!」



 生まれて初めてだよ、この笑い方したの。

 恥ずかしいなこれ。


 それはともかく、勇者を引きつける事に成功したようだ。


「待て、この!! お前だけは、逃がす、ものかあああああ!!」


 そもそも随分とご立腹な様子なので、引きつけること自体は簡単であった。

 そのまま、ガイアのサポートをこっそりがっつりと受け続けながら魔王城内を進む、進む。



 さてこの作戦。

 いったいどういった作戦かと言うと、勇者を引き付けて援軍の元へ誘い込む作戦である。

 超シンプル。


 ガイアが言っていたように、普通に勇者の相手をしながら援軍を待ってもいいのだが、俺らの方から援軍の元へ向かった方が手っ取り早いだろう。


 さらに、勇者に対抗するためにガイアには隠れて来てもらっている。

 なぜかと言うと、勇者の攻撃の精神的ダメージを俺が担当し、物理的ダメージをガイアに担当して貰うためだ。

 俺は気持ちを強く持つ事に集中し、ガイアは魔法による防御に徹する。

 これならば、戦闘経験が無い俺たちでもなんとかなるのではないか……という発想だ。


 はたして、この素人の作戦が本当に有効であったのかは定かではないが、未だに死んでないという事で良しとする。



「死ぃぃねぇえええ!!」


 しかし、苛烈な剣幕である。

 死ねって言葉、勇者様が使っちゃまずいのではないだろうか?

 非常におっかない。

 さっきからビームみたいなものが飛んでくるし、城の石壁を操って道をふさいだりしてくるし、ついさっきは濁流のような水魔法に押しつぶされるかと思った。


 ガイアサポートで凌いではいるものの、そろそろガイアも力尽きてしまうのではないか。

 対する勇者は、未だに猛烈である。

 やはり、ガイアに正面対決させなくて正解だったな。



「フハハは……そろそろ勘弁……」


「待てええああああああ!!」


 何この娘。

 こんだけ暴れまわって、何でこんなに元気なの?


 そろそろ、本当に殺されちゃうから止めてほしいんだけど。

 ガイアの精神保護が無かったら多分、卒倒するレベルの恐怖だよこれ。



 などと、いい加減にウンザリしていたとき。

 通路の向こう端に、見知った連中を見つけた。



『魔王様!! 聞こえる!?』


  (やっと来たか!)



 どうやら援軍が間に合ったらしい。

 

 援軍の人数は3人だったが、十分だ。

 むしろ過剰戦力と言えるだろう。


 なぜなら、その3人は神様の中でもトップに君臨する3人なのだ。



『こちらはユニ、スタル、ボスの3名だよ』



 いわゆるガチメンバーである。


 先程からテレパシーにて連絡をしてくれているのが女神ユニ。

 ほか2人は男神で、幼い女の子みたいな容姿なのがスタル、ガタイのいい渋いイケメンがボスだ。


 勇者に対抗するために急遽組織したのだろうか。

 正直、スタルだけで充分だと思う。



『勇者は興奮状態にあり、ボクたちには気づいていないようだね』


 後ろを振り返ることができない(というかしたくない)ので分からないが、勇者は前方向から迫るユ二達に気がついていないらしい。

 とても勇者とは思えない注意力の無さだ。

 やはり、今の勇者は平常ではないのだろう。


『これなら簡単に不意をつけると思う。ボクたちが隙をみて勇者を拘束するから、魔王様には転倒するフリをしてほしい』


 なるほど。

 追い詰められた演技をするわけだな。


 人は、敵を倒したと思った時が一番無防備だと、前世の漫画か何かで読んだ気がする。


 それを利用するのか。

 緊張するな。


 幸い、俺の足は既にガクガクであるので、迫真の転倒演技をお見せできるのではなかろうか。


 ではいきます。

 せーのっ



 ずっしゃああああああああ!!!



 あああああああああああああああ!!!


 痛ったあああああああ!!


 しまった、頭からいった!!顔面があああ!!


 いや、それどころじゃない、勇者、勇者は……



 ズバァアアアアアアアアン!!!!



 あああああああああああああああ!!!


 凄い音した!

 めっちゃ凄い音した!


 待って、俺の体ちゃんとある!?

 手とか足とかついてる!?

 斬られてない!?


 待て、落ち着け、大丈夫、生きてる。

 よし、とりあえず視界を確保だ。

 すさまじく顔がいたいけど、顔を上げて前を見なければなにもわからん。


 そう思い、前を向いてみると。

 すぐ近くの床が、定規で線を引いたかの如く綺麗に断裂していた。


 なるほど。

 つまり、俺がもう少し前に居たら首が飛んでいたということか。


 ひぇっ



「魔王様、大丈夫!?」


「魔王様!! ご無事ですか!?」


「ああ、女神様が2人も……。そうか、ここが天国か……」


「魔王様! ボクだよ、ボク! 大丈夫、今すぐに回復魔法をかけるから!」


「ああ、いや、自分でやるから大丈夫だ」



 純粋な回復魔法だけなら俺が一番上手い。

 俺は自分を回復させ、一息ついてから勇者の姿を探す。


 真後ろにいた。



「ひっ!?」


「魔王様、ご安心下さい。既にユニの闇によって意識を奪っております」


「そ、そうか。良くやったなユニ」


「ふふふ、ボクにかかれば勇者なんて一捻りさ」


 

 勇者は、意識を失って倒れ伏していた。

 

 ユニの2つ目の能力である"闇"は、触れた相手の意識を奪う……と言うと凶悪だが、要は眠らせる能力だ。


 蓋を開けてみればユニ1人で十分だったわけか。

 残りの彼ら2人は骨折り損だったな。



「スタルも、ボスもお疲れ様」


「うん! おつかれ! 勇者は調子が悪かったみたいだね」


「マヒルが無事ならばそれでいい」



 幼いスタルと、大人のボス。


 一見、少年にも少女にも見える容姿のスタルは、見かけによらず魔王城でトップの実力者だ。

 そして、ガタイの良いイケメンのボスは、肉弾戦ならスタルでも勝てないと言われている。


 魔王城でトップというのは、つまりは世界最強と言っても過言ではない。

 このメンバーが如何に過剰戦力であるかわかるだろう。



「トドメをさすか?」


 ボスがさらっと言う。

 おっかないな


「ん? いやいや、ストップ。待て待て」


「しかしここまで進入を許したのは初めてだ。普通であれば勇者は生かして帰すものだが、この勇者を生かしておくのはリスクが大きい」


「憂いを絶つのはわかるけど、でも流石に10才くらいの子供を殺してしまうのはなあ……」


「えー、僕と同じくらいじゃない?」


「スタルと同じくらいっていうのが子供なんです」


「ぶー!」


 スタルの不満を横目に、俺はユニに話を向ける。


「とりあえず勇者は拘束して、もろもろは後で決めよう。ユニが見張っていれば、脱走されることはないでしょ。頼む」


「いいよー」



 ……これで何とかなったかな?


 あー、よし、生き残った……

 もう本当、怖かった。

 ガイアがいなかったらどうなっていたことか……


 あ、そうそう、ガイアは労ってやらねば。


「魔王様」


 噂をすれば……とは少し違うか。

 背後から唐突に話しかけてきたのは件の女神ガイアだった。


「なんだ?」


「あの作戦は何なんですか」


 あー、そこ。

 そこ聞いちゃうか。


「精神面を魔王様、物理面を私でカバーする作戦と聞きましたが、私には精神が休まる時間などありませんでした……」


 やっぱり?


「だってぶっちゃけ適当な作戦……」


「魔王様」


「ごめんなさい」


「あんなに怖い思いはもうしたくありません……。とにかく、二度と心配をかけるようなことはなさらないで下さい」


「つっても、アレやらなかったら俺かガイアのどちらか死んでたんじゃないか?」


『そうだね、事情は分からないけど、ガイアはガタガタでモジモジしてたんだろうね』


 テシパシーで介入してくるユニ。


 ちらっとユニの方を見ると、勇者を運ぶスタルとボスには手を貸さず、薄く笑ってこちらを観察していた。

 あいつ、面白がってるな。


「魔王様はそうやっていつも……!!!」


『ガイアは完全に説教モードだね。これはストレスが相当溜まっているのかな? 切り上げたいなら、適当に褒賞でも出して話をそっちに逸らすのがいいよ』


 ほう。

 ユニの態度はよろしくないが、アドバイスはありがたい。


 褒賞か。

 労ってやるところだったし、調度いい。



「ガイア。今回は本当にすまなかった」


「ええ、ですから、今後は……!」


「迷惑を掛けてしまったお詫びとして、何かお願いを聞いてあげよう」


『ん?』



 あ、そういう反応?

 だめか。

 俺の世界じゃよくある……かは分からないけど、お約束みたいな褒賞なんだけど。

 


「な、なんでもですか」



 なんでもとは言ってねえよ。


 ああ、でも、ガイアだし大丈夫か。

 死んでくれとかお願いされたら困るけど、ガイアがそんなこと言わないだろうし。

 基本は生真面目でおっとりふわふわしてるガイアだし、大丈夫でしょ。



「なんでもだ」


「なんでもですか……」


 ガイアはこの提案が相当に予想外だったようで、しばらく呆けていた。

 意識を取り戻したのは、ユニが頬を引っ張った時にやっとである。


「はっ!? あ、はい、では、そういうことでお願いします」


 おお、マジで話をそらすことができた。

 ユニ様様である。



 こうしてやっと、勇者の奇襲騒動に一息ついたのであった。


『魔王様、なんでもは言いすぎじゃないかな?』


 ……どこか不安そうなユニを残して。



とりあえず5話くらいで短く完結させます(その分は書き終わっています)。

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