11 屋根裏の侵入者
それは、ある小さな物音からはじまった。
夜、自室で寛いでいるとカサっという音が聞こえたのだ。最初はエアコンの音かと思った。
しかし、時間が経つにつれてことの重大さに気づいた。音が頭上の……天井から聞こえはじめたからだ。
言いかえれば、音が移動している。気になっておちおち眠れない!
眠りが浅く、午前四時過ぎについに天井から輪を描くような音が聞こえてきた。
トテトテトテ……。
歩いてる! 虫じゃないよね? この音絶対に虫じゃないよね?
なぜこの時間帯に動きだしたのか。あ、夜行性だから?
軽いパニックに陥った。屋根裏にねずみ……築◯◯年、古くなったとはいえ、野生動物など侵入したことがなかったわが家についに獣害が!
どうして二階のわたしの部屋なんだ!
日が昇り、謎の足音はぴたりと止んだ。
すぐ家族に報告。天井裏をチェックするにしてもどんな野生動物が潜んでいるのかわからない。天井へのふたを開けるのは危険じゃないか、と色々な意見が出たので家を建ててくれた大工さんに相談した。
「(おそらく)ねずみだろうからライト(=照明)持っていく」
七十代半ばの大工さんだが、身のこなしはやはりプロだ。脚立にのぼり天井のふたから屋根裏に這い上がって数分。
「ねずみだと思うが、小さすぎてわからない。罠を仕掛けておいたほうがいい」
罠……ゴキブリならぬねずみホイホイがあるのか? スマホで検索すると本当にあって驚いた。そういえば、TVの害獣ハンターの特集コーナーで見たことがある。飲食店の厨房にねずみが徘徊するため、プロのねずみハンターが床や調理機器の裏側にできたスペースに粘着シートを仕掛けていたのだが、それが「罠」と呼ばれているらしい。
「罠に油で炒めたソーセージとか仕掛けておけばすぐにかかる」と大工さんからのアドバイスも。油で炒めると香りが出るからか……ナイスアドバイス!
そこで、わたしはすぐさま近所のホームセンターに車を走らせた。
「ねずみ取りを探しているんですが……」
シャンプーの詰替え用を陳列棚に補充している女性店員に聞いてみた。生活消耗品のコーナーでは置き場所を把握していないかもしれない。けれど「ねずみ取りなら園芸館のほうにあります」とあっさり答えが返ってきた。
意外なことにねずみ取りの粘着シートは何種類もあった。色々ありすぎて迷ったくらいだ。結局取り扱いが簡単そうなものを選び帰宅後に餌と一緒に天井に仕掛けてみた。
それともう一点、大工さんは外の風窓のひとつが欠けていることを指摘していった。
「小さいネズミなら、これくらいの穴でも簡単に入り込める。金網でもいいから塞いでおいたほうがいい」
ねずみ取りを買って戻るころには、問題の風窓は両親によって塞がれていた。
風窓とねずみ取りシートの罠。
この二点で解消できるか様子を見るしかない。その日の夜は、天井から足音も小さな物音さえも聞こえなかった。風窓を塞いだことで出入りができなくなったのだろうか。
しかし油断は禁物だ。敵が息を潜めて陣地を広げている可能性だってある。それから二、三日過ぎても変化はなかった。
一週間は様子を見たほうがいいと言われたけれど、仕掛けた罠はいつ回収するべきだろう?
今回初めて自宅の、自室の天井裏をのぞいてみたけれど、部屋からの明かりがまったく漏れていなかった。当たり前と言われればそれまでだ。でも、それだけきちんとクロスも板も貼ってあるからこそ保温性が保たれているんだなぁと職人の仕事に感心してしまった(上から目線ですみません)。
天井裏への警戒態勢はいまだ解除されていない(笑)。もう少し様子を見ることになっているけれど、無事罠を回収できた暁には続編としてエッセイで報告させていただきたい。
なにごとも経験とはいうけれど、こういったトラブルは避けたい。
ねずみネタ苦手な人、すみません。
これを読んでくれている皆さまもご自宅の点検は慎重に。




