研究成果は……
「……まいりました」
ドクは部下であるサイゾウを見上げながら負けを認めた。
訓練場でのありきたりな光景。虎の子の「刀」を出さなければ、ドクの実力はこんなもの。こんなもんなのだが……。
「……真面目にやってます?」
「うん……すごく真剣にやった……ぞ?」
首を傾げるドク。
思っていたのとは、全く違う結果に戸惑いを隠せない。
「シルバの動きも悪かったですし、どっか、怪我しているとか……」
「じぇんじぇん」
「じゃあ、やっぱり、真面目にやってないんじゃないですか」
いや、ドクは大真面目だった。
圧倒的な力で叩き伏せて、ちょっと生意気なサイゾウに先輩を敬う気持ちを抱かせようという下心もあった。
しかし、この結果――。
「いや……そうじゃない。ヤル気の問題じゃなくて、原因は別なんだ……」
「なんなんですか?」
「いや、竜同士のパワーが拮抗していれば、乗り手に流す力なんてないって事なんだよ」
「はい?」
「うん、そうなんだよ。そんでもって、無理にまわそうとするから、動きがチグハグになっちゃう」
「はい?」
「まあ、そうだわな。だが、気にしないでくれや。次は、もうちょっと良い結果になると思う」
ドクは、シルバに手助けをしてもらいながら、やっとこさ体を起こした。おもっクソ落とされたから、体中が痛い。
「大丈夫ですか?」
「ダメだな。もう長くないと思う」
「僕もそう思います」
「おい!?」
「とにかく、医務室へ行ってくださいよ?俺が怒られちゃうじゃないですか」
「お前は怒られねえよ。怒られるとしたら、部下にいとも容易く叩き伏せられたおっさんの方だ」
「いや、容易くじゃあないですよ」
「気を遣うんじゃあねえ。泣きたくなる」
ドクは、(一応)カツリキへ訓練を離れる旨を伝え、訓練場を後にする。
しかし、医務室へは向かわなかった。向かったのは、近くの林。(ドクを含めて)やる気のない騎士が訓練をさぼる時によく使う場所だ。
ドクは騎乗のまま、木々の間をくぐる。
「……シルバ」
「クルルルル?」
シルバが振り向き、ドクの顔を覗き込む。
「力を融通しようとしてくれて、ありがとな」
「クウ」
目をつぶり、撫でるドクの手に頬を摺り寄せてくる。
かわいい。
「だけど、あれじゃあダメだな」
「グウウゥゥ」
「せっかく力を分けてもらっても、攻撃できなければシルバが疲弊するだけだ。俺が攻撃するタイミングに合わせてなくちゃ意味がない」
「ガアァ!!」
シルバが空中を噛むような動作をする。「簡単に言うな」と言っているのが、態度だけで分かる。
「うん、今のままじゃあ無理だろうな。後ろに目があるわけじゃないし、シルバも戦闘の真っただ中だからな。俺の方でシルバの力がどんだけ余っているか分からないのも痛い」
「ゥゥゥゥゥ」
ドクは撫でる動作から、次第に力強く肩を叩くような動作へ移行する。二人にとっては、言葉よりも重要なコミュニケーション手段。
「でも、何とかなる。これまでゲロみたいな戦場で培った絆は伊達じゃない。もっと、感覚を研ぎ澄まそう。力を共有するだけが目的じゃなくて、二人でもっと深くまで潜る事を目的にしよう。絶対できるぞ、たぶん!」
締まらない掛け声はいつもどおり。
でも、シルバはそんな乗り手が嫌いじゃないらしい。ふっと表情を緩めると、勢いよく走り出した。
そう、ここは二人にとってキツイ訓練をさぼる場所だけじゃない。槍の下手糞なドクが「刀」を訓練した場所でもある。
なつかしい焦燥感に捉われつつも、二人は意外と楽しそうだったりするから不思議だ。




