余波
機動性重視の第一部隊は、モリア団長の命を受けて、歩調を上げていた。
第一部隊を率いる第一穿撃竜騎士隊長は、参謀本部から「ゆっくりと進め」と指示されていただけに、首をかしげたが、それでもモリアの命令には従った。
いかに、軍隊の規律が絶対的であったとしても、変化する状況への対応能力を確保するために、現場判断の許容は広くとられている。特に、相手の情報が少ない戦場では、当初の作戦どおりにいかないことも多い。
――しかし、モリア殿はその権利を行使しすぎる。
第一穿撃竜騎士隊長は、奥歯でその言葉を噛みしめた。
ここで、意見具申をしたら状況が悪化することは、容易に想像できる。中隊を率いる者としては、モリア団長の意志を汲んで、全部隊が上手く回るようにする以外に選択肢はないのだ。
ただ、今度の指示ばっかりは、よく分からない。
――なぜ、このタイミングで第一部隊の速度を上げさせたのか……。
早々に街道を抜けたいという気持ちは分かる。
しかし、そこにこだわる必要はない。
竜騎士団の強さは突破力である。正面はもちろん、側面から多少の攻撃を受けても、持ち前の機動力を発揮している状況であれば、恐れるに足らない。問題なのは、足を止められてしまう事なのだ。
だから、こういった狭い一本道では、前方に空間を作っておくことが肝要になる。敵に襲われた際には、「突っ切って、ぶっ飛ばす」しかないのだがら、走るスペースがなければうまくない。
参謀本部も、それを恐れて、先行する部隊に露払いを厳命したのだ。通せんぼをされていても、汎用性の高い穿撃竜騎士隊だったら、状況に合わせて柔軟に対応できるだろうという腹づもりがある。
――もしかして、距離が近すぎるのか?
しかし、それなら第二部隊がペースを落とせばいい。わざわざ、参謀本部からの指示に逆らってまで、行軍速度を上げる必要はない……。
「従うしかありませんよ。何か理由がおありなんでしょう」
穿撃竜騎士隊長の表情を見て、副隊長が声をかけた。言葉尻から、この男も納得いっていない事が透けて見える。
「うむ……。まあ、それしかないんだが……」
本音を上手く隠す事が出来なければ、ここで生きていく事はできない。隊長もモリアの指示に逆らうつもりはなかった。ただ、先ほどから一抹の不安がぬぐえない。
「何か不安がおありですか、隊長?」
「………うむ……あえて言うならば、この路面だよ…」
「話に伺っていたよりは、進みやすいですね」
「そうだ。だからこそ、作為を感じないか?」
副隊長は怪訝な顔をする。
「盗賊どもがやったとしたら、何の為にですかね………」
「分からない。しかし、社会貢献というわけではなさそうだろう?」
そんな話をしている最中、前方に放っていた偵察班(ドク達とは違う、穿撃竜騎士隊に付属する部隊)の一名が戻って来た。渋い顔をしている。
「隊長――前方の街道に障害物が山積しています」
まあ、街道が通りやすくなっていた時点で予測はできていた。大方、街道に散らばっていた障害物を、一か所に集めたのだろう。そうすれば、わざわざ木などを切り倒す準備はいらなくなる。
「規模はどうだ?」
「量としては、さほどでも。強引に突破も可能でしょう。しかし、後続を考えると無視はできません」
「そうか――すぐに人員を向かわせよう。距離は、ここからどれくらいだ」
「並足で15分といったところでしょうか」
「……近いな……」
本体の速度を上げていた所為で、知らない内に偵察班との距離が縮まっていたのだ。思わぬ弊害だった。
「申し訳ございません」
「いや、お前の所為ではない。よし……では普請班以外からも人工を出す。早急に障害物を取り除かなければ、糞づまりになるからな」
そこへ副隊長がアドバイスを送る。
「隊長、後方の第2部隊へ、状況の伝達をした方がよいでしょう。お叱りを受けたとしても、行軍速度をさげなければ危険です」
「うむ、よく言ってくれた。後方へ、伝令を飛ばせ!障害除去にあたる者達は、二班編成とし、片方は周囲の警戒にあたらせろ」
飛び出していく中型種の竜たち。
中型種の竜は、機動性だけでなく力も強い。伝令の報告どおりの規模であれば、(第一部隊の)本隊到着までに、通行可能な状態にならすことができるだろう。もし、間に合わなくても、第一部隊全隊で協力すれば、悪くとも第二部隊到着までには何とかなるという計算が成立する………。
しかし、その計算は致命的に狂う。
第二部隊への伝令が出てからすぐ、後方へ放っていた他の偵察班が息を切らして、飛び込んで来たのだ。
「隊長!第二部隊が、戦闘速度でこちらに向かっています!!」
沈黙――。
数々の戦場を渡り歩いた穿撃竜騎士隊長も、一瞬、何を報告されたのか、理解できなかった。
「……今、なんと言った?」
「信じられませんが、第二部隊が、戦闘速度でこちらに向かっています!!」
「盗賊と交戦しているのか!?」
「少なくとも、私の目に敵の姿は見受けられませんでした!」
考えられない。
部隊の後方、若しくは側面から攻撃を受けてたとしても、セオリーでは前方の空間を確保しなくては走り出してはならないのだ。つまり、伝令を飛ばしてから――最悪、返事を聞かなくとも、一報を入れてから(多少の我慢をしておいてから)スタートさせなくては、それこそ袋のネズミになってしまう。
「間違いないのか!?」
「騎士の名に懸けて!!」
隊長はすぐさま、第一部隊全体へ指示を飛ばした。
「戦闘速度で前進せよ!前方の障害物を全隊で除去し、後続隊のルート確保を最優先任務とする!!」
――嫌な予感がする。
いや、正確には予感じゃない。
これは、より現実的な予測だった。盗賊団の本体が、じわりと迫って来ている。




