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絵が好きな君と絵を描かない僕  作者: 海ノ10
二章 〇〇〇〇〇
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15 「僕もよくわかんないよ。」



 そのまま歩くこと十数分ほど、来るときに使った駅を挟んで反対側に、大きなショッピングモールがあった。駅のこっち側に来ることがなかったから、今まで全然存在に気が付かなかったけど、割と大きい気がする。


「こっち。」


 そう手を引く朝日さんの後についてショッピングモールの中を歩き、エスカレーターで二階に上がると、すぐに目的の水着売り場に着いた。よく名前がわからないいろんな水着が置いてあるけど、あんまり物珍しそうにキョロキョロするのも不審なので、大人しく朝日さんの後についていく。なんでだろう、家族とこういうとこくる時とは違って、なぜか微妙に恥ずかしい気がする。


「うーん、露出多いのも――でもな――」


 朝日さんは僕の手を握りながら水着を見て回り、そんなことを呟きながら水着を手にとっては戻すといったことを繰り返す。ほんとに、水着っていろんな種類があるな。こだわりだしたらキリがなさそう。


「うーん、迷う。」


 ゆっくりと時間をかけて売り場を一周した朝日さんは、その間にキープした二着の水着を見比べてそう声を漏らす。片方は、いわゆるワンピース型って言われるであろうもので、なんて表現すればいいかわかんないけど、水色っぽい色合いのもの。もう片方の水着は、ビキニっぽい感じの上に、タンクトップのようなものが合わせられているものだ。名称が全然わかんないけど。


「逢音は、どっちがいいと思う?サイズは合ってるはずなんだけど。」

「えっと――どっちも似合うんじゃないかな?あんまり、センス無いからわかんないや。」


 実際、僕に服を考えるセンスは無いと思う。どうも、そういうの得意じゃないんだよね。まぁ、二次元ならまだ好きなものを着せればいいから楽と言えば楽なんだけど、現実ではそうもいかない。この辺は、仕方ないのではないかと思う。


「んー、そう言われると困る――逢音は、どっちが好み?」

「いや――どっちでも、朝日さんが着るなら似合うんじゃないかな。」

「っ!と、とりあえず、鏡見て考えてくる!」


 そう言って、僕を置いて鏡のほうまで走って行ってしまう朝日さん。というか、女性ものの水着コーナーで僕だけ置いていくのやめてほしい。周りから視線を感じるような気がするし。気のせいであってほしいけれど。

 とりあえず、僕はできるだけ自然にその場から動くと、鏡の前で自分に合わせている朝日さんの隣まで移動する。


「んー、やっぱりよくわかんない。やっぱり、逢音が決めてくれる?」

「いやいや、そんなこと言われたって、僕もよくわかんないよ。」

「いいから、好きなほうを――」

「いや、でも――」


 そんな感じのやり取りをしばらく繰り返していると、だんだんお互いに疲れてきて、最終的にはアイコンタクトで押し付け合うようになる。というか、朝日さんの水着なんだから、朝日さんが選ぶのがいいと思うんだけどな。


「――強情。」

「いやいやいや、それはそっちもでは――?」

「そんなことない。逢音が決めてくれればいいんだもん。」

「だって、朝日さんのものなわけだから、朝日さんが決めないと。」

「いや、だって、逢音が決めてくれないと意味がない。」


 朝日さんは拗ねたようにそう言うと、頬を膨らませる。そして、「早く決めろ」とばかりに僕の目を見ながら両方の水着を見せつけてきた。正直、かなり困る。だって、ほんとに朝日さんならどっちも似合いそうだし。


「あれ?倉井さんと逢音君?」


 僕がどう答えようか悩んでいると、どこかで聞き覚えのある声が横から飛んでくる。声のするのほうを見てみると、そこにいたのは僕らのクラスメートで画力が死んでる柏谷さんと、その幼馴染の千葉君だった。

 数着の水着を両手で持っているだけの柏谷さんと、いくつもの紙袋を両手に持っている千葉君。その状況だけ見れば、今どういう状況なのか想像がつく。おおかた、柏谷さんの買い物の荷物持ちを千葉君がしているのだろう。その顔の疲労具合が、それを物語っている。


「あ、やっぱり二人だ~!こんなところでどうしたの?」

「朝日さんの水着を見てたんだよ。」

「ふーん、そうなん――だ――」


 僕の顔、朝日さんの顔を見た後、朝日さんの持つ水着を見た柏谷さんは、キッと目つきを鋭いものに変える。なぜか、親の仇を見るような目でその水着を見ている柏谷さんは、正直ちょっと怖い。


「えっと、あずき、どうしたの?」

「いや――ちょっと、滅ぼしたい敵がいるからさ――」


 柏谷さんはそう言うと、びしっと朝日さんのことを指さす。いや、正確には、そこは朝日さんの体の、服を持ち上げている膨らみだった。


「ねぇ?倉井さん?ちょーっと狡いんじゃないかな?」

「ひっ!」


 冷たい温度のその言葉を聞いて、朝日さんは短い悲鳴を漏らした後僕の後ろに隠れる。ここで、大体の人は察するのではなかろうか。服の上からでも、その膨らみがわかる朝日さんとは違い、柏谷さんのそれは――


「ちょ、あずき!?いくら貧乳がコンプレックスだからって――って、あぶなっ!」


 鋭い音を立てて放たれた手刀を、千葉君は間一髪のところで躱す。柏谷さんの目はなんというか――本気だ。


「あ、あずき?べ、べつにそこは気にしなくてもいいんじゃないかな?ほら、あずきは背が高くてスラっとしてるから、ね?」


 さすがに生命に関わると思ったのか、必死にそう言って宥めようとする千葉君。だがしかし、柏谷さんの負のオーラは収まる気配がない。


「空人にはわからないよ――この気持ちが!あんなに大きいってわかるような水着を、さも当然かのように手に持ってる同級生を見た時の気持ちは、空人にはわからないよ!」

「わ、わたしは、普通!」

「嘘だよ!!」


 びしっと朝日さんに向けて指を突き立てた柏谷さんは、負のオーラを全開にして朝日さんのそれを睨みつける。


「私にはわかるんだよ。その、その二つの山が、どれほどなのかを――!自分にとっての敵を知り尽くすため、研究を続けた私にはわかるんだよ!倉井さん、あなたのそれは、平均より大きい!それが、わかってしまうんだ!」


 悲痛そうにそう叫ぶ柏谷さん。冷静な状況で見たら笑ってしまいそうなその状況だが、僕の後ろに隠れる朝日さんを睨む柏谷さんの本気の負のオーラを受けている今は、とても笑える状況ではなかった。僕には理解できないほど、深い深い恨みがあるらしい。


「わ、わたしになにを――?」


 僕の服をぎゅっと掴みながらそう尋ねる朝日さん。すると、柏谷さんは「決まってるでしょ?」と笑みを――それも、かなり凶悪な笑みを浮かべた。いや、かなり怖いんだけど。


「もちろん、その豊かな山を奪って、私のものに――」

「目を覚まして!!あずき!!」


 明らかに冷静さを欠いている柏谷さんに、先程までビビっていた千葉君が、勇気を出して立ち向かう。柏谷さんを後ろから羽交い絞めにし、今にも朝日さんに飛び掛かりそうな柏谷さんを抑え込んだ。その際、「やめて!私にはしなきゃいけないことが!」などと言っていたので、とりあえず僕が一発チョップを入れておいた。





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