14 「どこに売ってるのかわかんないけど。」
結局、あの後は石橋母が朝日さんと僕で好き勝手遊びまくったせいで、無駄な体力を消耗させられた。
「なんか――疲れた。」
店を出た後、僕と手を繋いで歩く朝日さんはげんなりした顔でそう言う。その意見には僕も激しく同意する。あの人、完全に楽しんでたもんな。でも、石橋父の作ってくれたパスタはすごく美味しかったので、そこだけはよかったなぁと思う。
「ほんと、疲れたね。というか、『俺と違って両親はまともだよ!!』って石橋君言ってたけど――」
「あの石橋のお母さんがまともだとは思わない。」
「かなり――個性的だったもんね。」
『個性的』と自分で言ったものの、それはだいぶオブラートに包んだ表現だと思う。素直に言っていいなら、あの人はかなりクレイジーな人だ。そもそも、初対面の女子高校生を、有無を言わさず店の奥に連れ込んで好き勝手化粧するとか、正気の沙汰じゃない。
「あれが一般的な母親なら、わたしは自分の記憶を疑う。」
「さすがに、あんな母親だったらびっくりするよ。」
「うん。でも――ちょっと、羨ましい。」
朝日さんは、よく見ないとわからないほど淡い色で塗られた自分の爪を見ながら、そう呟く。寂し気というのも違う気がするし、かといって本当に羨んでいるというのとも違う。
「わたし、自分でお化粧できないし、お姉ちゃんは『まだ早い』って教えてくれないから。」
――だから、ああいう母親がいたらって考えちゃう。
そう、言葉が続くような気がした。そうか、そりゃそうだよな。朝日さんは、そういうことを教えてくれる母親がもういないんだ。
「――高校に入ったら、教えてくれるって言ってたのにな。」
なにを、誰が教えると言っていたのか。この流れでわからないわけもない。いつの間にか、朝日さんがさっきよりも僕の手を強く握っていて、僕のその手を強く握り返す。
「やっぱり、朝日さんもそういうの興味ある?」
あえて、朝日さんにそう明るい調子で尋ねてみる。すると、朝日さんは少し考え込んだ後、「ちょっとだけ」と小さく答えた。
「普段からするのは大変そう。だけど、たまになら。ちょっと、魔法みたいで憧れる。」
「たしかに、化粧って魔法みたいだよね。部分で見ると少しの変化だったりしても、印象変わったりさ。」
ほんと、化粧が上手くできるのってすごいなぁと思う。化粧のセットとかあるけど、どれをどこに使うのかすらわかんないし、覚えるのも大変そう。時間もかかるだろうしね。お母さんとか、ちゃんと化粧するの面倒ってよく嘆いてるし。
「そうそう。でも、いつもはいいや。だって、逢音が――」
「ん?僕がどうかした?」
「な、なんでもない!」
そう言って歩く速度を上げる朝日さん。とはいっても、身長差があるので僕からすれば『ゆっくり目』に歩いていたのが『いつも通り』になっただけなんだけどね。
「そういえば、僕たちは今どこに向かってるの?」
「え?逢音が知ってるんじゃないの?」
「いや、知らないけど――」
「え――」
どうもどうやら、お互いによくわからないまま歩いていたらしい。まぁ、目的地の相談をしたというわけではないので、当然と言えば当然なんだけどね。とはいえ、石橋君のとこでかなり時間を潰したから、もう時間は三時。日向さんからは五時以降に朝日さんを家に連れて行くように言われいるので、あと二時間どうにかして時間を潰さないといけない。さて、どうしたものか。
「んー、朝日さん、行きたいところある?」
「いや、特にはない。逢音は?」
「僕も特にないかなぁ。」
まぁ、お互いに行きたいところがなかなか見つからないのは、なんとなく仕方ないと思う。基本的に外に出ることが少ない僕と、絵を描くことにばかり興味がある朝日さん。この二人が外で行きたくなる場所なんて少ないと思う。この暑い中なら特にそうだろう。
「んー、とにかく暑いからどこか建物の中にはいりたいよね。」
「うん。あ、プールは涼しい――けど、時間的に厳しい。」
「あー、たしかに。それに、朝日さんも僕も今水着ないしね。」
「ちゃんと、水着を持ってきてるとき――あ。行きたいとこあったかも。でも――」
うーんと、なにかを考える朝日さん。別に、僕はどこだって付き合うからいいのだけれど、なにか問題がある場所なのだろうか。
「どこか、行きたいところあった?」
「行きたいところっていうか――水着、買いたいなって思ったんだけど――そういうの、抵抗ある?」
「んー、どうだろ――引っ越す前に妹が水着買うのに付き合わされたこともあるし、売り場に入ること自体は問題ないよ。」
ただまぁ、試着したのを僕が見るとかは少し抵抗がないわけでもない――というか、水着って試着できるのかな?ラブコメとかだと試着してるシーンあったりするけど、直に肌に触れるし、衛生的にどうなんだろう。あ、下着の上から着るとかかな。んー、よくわからない。
僕の場合、落ち着いた色の派手じゃない水着を適当に買っちゃうし、男なら細かいサイズがわかんなくても問題ないけど、女子だとそうもいかない気がするんだよね。まぁ、どうなのかはわかんないけどさ。
「んー、じゃあ、水着買いに行っていい?」
「いいよ。とはいっても、どこに売ってるのかわかんないけど。」
「んー、駅の反対側にショッピングセンターがあったはず。」
朝日さんはそう言うと、僕の手を引いて歩き出す。歩き始めてから会話がないのは今に始まったことではないから、特に問題はない。
新年最初の更新です!
今年もよろしくお願いします!




