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絵が好きな君と絵を描かない僕  作者: 海ノ10
二章 〇〇〇〇〇
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13 「今回と同じに考えちゃだめだよ。」



 その美少女――もとい、ほんのりと化粧をし髪もいい感じにセットされた朝日さんは、なぜか僕のことをおそるおそるといった様子で見てきたので、僕は首を傾げつつ朝日さんをじぃっと見返す。すると、朝日さんはすっと僕から目線を逸らして下を向いてしまう。


「朝日さん?」


 どうしたのかと思ってそう名前を呼ぶと、朝日さんは「あ――」と声を漏らしたあと、緊張した様子で口を開き――なにも言わずにまた閉じた。なにかを言おうとしているのか、口を開けたり閉じたりする朝日さんを石橋家のみなさんと一緒に見守っていると、「た――」と朝日さんが声を発した。


「た、ただいま?」


 なぜか疑問形でそう言った朝日さんに、「お、おかえり?」と僕も疑問形で返す。そのまま無言の沈黙と見つめ合いが数秒間続く。特に意味があるわけでもないのだが、なんとなく目線を逸らさないでいると、石橋君から「なにしてるんだ?」と聞かれた。


「なんでもないよ。」


 そう返しながら僕は立ち上がり、奥の席に朝日さんが座ったあとで僕も座りなおす。石橋君の両親がいることを除けば、朝日さんが連れていかれる前と同じような感じになった。そして、またも訪れる謎の沈黙。朝日さんがちらちら僕のことを見てくるけど、なにをしたらいいかもわからない僕はどうすることもできないので、無言のまま首を傾げておいた。微妙に気まずい。


「あ、朝日ちゃんかわいくなったでしょ!?」


 沈黙に耐えかねたのか、石橋母はそう話題を振る。せっかくこの沈黙から抜け出すチャンスなので、逃す手はない。僕はその話題に乗っかることにした。


「かわいくなったというか――かわいさと綺麗さの割合が変わった気がします。」

「――ん?」


 なぜか僕以外の全員が首を傾げるのを見て、僕も首を傾げる。なにか変なこと言ったかな?


「えっと、それはどういう――?」

「だって、そもそも朝日さんってかなりかわいい(・・・・)じゃないですか。で、化粧した今は――かわいいと綺麗が半々って感じな気がするんですよ。

 例えると、普段の朝日さんは可愛い9の綺麗1って割合だと思うんですけど、今は可愛い7の綺麗3みたいな感じですかね?どちらにもそれぞれの良さがありますよね。」


 石橋父に聞かれたので僕がそう返すと、石橋家のみんなは顔を見合わせて、朝日さんは「ふぇ!?」と声を漏らしてどういうわけか顔を赤くした。薄い化粧のためか、顔が赤くなったのがよくわかる。


「――秋斗、この子、いっつもこんな感じなの?」

「ああ――おそらく、自覚はない。」

「なるほど――朝日ちゃん、色々大変そうだけど、頑張ってね?」


 石橋母が朝日さんに対してそう言うと、朝日さんはさらに真っ赤になって「え、えっと、その――」と小さく呟き、その後誰も聞き取れないような声の大きさでごにょごにょとなにかを言う。ほんとに、朝日さんどうしたんだろう。体調悪いのかな?朝日さん、体調悪くてもあんまり言ったりしなそうだもんな。


「朝日さん、顔赤いしなんか様子がおかしいけど、具合でも悪いの?」

「ふぇ!?い、いや、大丈夫!元気、元気!」

「ほんとに?無理してない?ちょっと額触るね。」

「し、してない!だ、大丈夫だから!」


 そう言い、僕が額に触るのを拒否する朝日さん。大丈夫そうじゃないからそう言ってるんだけど、わかってるのかな?


「念のためだよ、念のため。」

「ちょ、あ、逢音!い、今の体勢のほうがわたしは、む、無理してる!」

「ん?耐性?」


 耐性?体制?胎生?ああ、体勢か。

 一瞬脳内で正解がわからなかった僕は、その正しい意味を理解し、今の朝日さんの体勢を理解すると――思わず思考を停止する。僕に額を触らせまいと朝日さんが(なぜか)抵抗したせいで、当初と二人の体勢がだいぶ変わってしまっていた。

 具体的には、ソファーの一番壁際まで退避した朝日さんを僕が追いつめて無理やり額を触っているうえ、僕の右手は体を安定させるための壁に手をついているため――必然的に、ソファーに座ったまま僕が朝日さんを『壁ドン』してる形になる。


「あ、ご、ごめん。」


 自分の状態を理解した僕はパッと朝日さんから離れつつ、両手を顔の高さまで上げて無罪を主張する。いやまぁ、無罪ではないかもしれないけどさ。


「う、うん――び、びっくりした。」

「ほんとごめん。悪気はなかったんだよ。」

「それはわかる。わかるけど――」


 なにか納得いかなそうに、少し頬を膨らませる朝日さん。僕はそれにどう反応しようかと悩み、脳をフル回転させて答えを導こうとする。うん、許してくれるかわかんないけど、とりあえずもう一回謝っておこう。

 そう結論付けて口を開いたタイミングで、石橋母が爆弾をぶん投げてきた。


「ねぇねぇ二人とも。壁ドン、実際してみるとどんな感じだった?」

「ふぇっ!!?」

「げほっ、ごほっ!!ちょ、は!?」


 急に想定外のことを言ってきて、素っ頓狂な声をあげる朝日さんと、口になにもないのにむせてしまう僕。そして、驚きのあまり再び停止する思考。


「ちょ、急になに言ってるんですか!?」

「だって、気になるじゃない。」

「ならなくていいです!というか、そんなの答えるわけ――」

「――お、思ったより、ち、近かった。」

「朝日さん!?」


 なぜか石橋母の(ふざけた)質問にそう律義に答える朝日さん。朝日さんも言ってから『やってしまった』と気が付いたようだが、時すでに遅し。石橋母は面白い玩具を見つけた子どものような顔をする。


「朝日ちゃん、で、近くてどう思った?」

「そ、それは――」

「あれ?でも、お前ら前に教室で熱烈なハグしてなかったか?壁ドンぐらいでなにを今更。」


 首を傾げながらそういう石橋君。きっと、石橋君は朝日さんの試験結果が返されたときのことを言っているのだろう。


「いや、あれはテンションが上がったからそうなったもので、今回と同じに考えちゃだめだよ。」

「いやいや、結果的にハグしたのは変わりないんだから、今更それではしゃぐ必要も――」

「っ!!ストップ!!」


 朝日さんはなにかに耐えきれなくなったようにそう叫ぶと、手元にあったおしぼりを思いっきり石橋君に投げつける。それは、見事な軌道で石橋君の顔を直撃し、バチンといい音を立てた。「ぶふっ!」と声を漏らす石橋君と対照的に、朝日さんは顔を両手で覆い「うぅ――」とうめき声をあげている。


「あんなにきれいに、おしぼりって飛ぶのか。」


 石橋父のそんな気の抜けた呟きに、石橋母と僕は思わず吹き出してしまう。ただ、一人がうめき、一人はおしぼりの攻撃を受け、一人はおしぼりの軌道に感心し、二人が笑うという今の状態がかなりカオスなのは間違いがなかった。



更新遅れてすいません……

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