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43 「へ?そうですか?」



「朝日、結果が返ってきたのは昨日だったんだろう?」


 完全なる直球を投げてきた倉井さんだが、朝日さんは特に怯む様子もなく「そう」と返し、テーブルの上に置いてあった青いファイルから試験結果を出して倉井さんに渡す。倉井さんはそれをゆっくりと開き、じっと見つめる。なにも悪いことはしていないはずなのに、なぜか緊張してしまう。というか、そんなに時間がかかることじゃないでしょう。


「はぁ――」


 倉井さんは上を見てそう息を吐くと、試験結果を閉じて朝日さんに返す。


「よくやったな。私の負けだ。転校は無しだな。だが、次のテストがあまりに悪かったらやはり転校させるぞ。少なくとも半分以上には入れ。」


 なにかを諦めたように倉井さんはそう言うと、はぁと溜息を吐く。朝日さんは強く頷くと、こちらを向いて小さく笑いかけてきたので僕も笑顔を返す。ほんと、最近よく笑うようになったよな。


「まさか、あの成績からここまで上がるとは。あの後日向が話していたが、逢音君は本当に優秀なようだな。」

「いえ。朝日さんの努力があったからです。」

「おまけに謙虚か。将来うちの会社に来ないか?うちは芸能事務所をやっているのだが、君なら大物のマネージャーも任せられそうだ。」

「いざというときにはお願いしますね。」


 倉井さんの言葉に僕は苦笑しながらそう返す。こういうのってどういう返答をしたらいいのかわかんないからすごく困る。慣れてないんだよ、こういうの。いや、慣れてる高校生のほうが少ないだろう。


「まぁ、数年後を楽しみにしているよ。それより朝日、ここから五分ほどのところにコンビニがあっただろう?そこで飴を買ってきてくれないか?鞄に入れてたはずが切らしてしまってな。」

「いえ、それなら僕が――」

「頼めるか?朝日(・・)。」


 倉井さんはそう言って朝日さんをジーと見つめる。やがて朝日さんのほうが折れ、「わかった」と言って立ち上がる。倉井さんは朝日さんに千円札を渡し、「急がなくていいぞ」と言って送り出す。朝日さんは不満そうな顔をしながらも渋々と言った様子で家を出た。

 さて、これでここには倉井さんと二人っきり。正直、かなり気まずい。なんでクラスメートの父と一対一になんなきゃいけないんだよ!本当に帰りたい。というか、この人わざと二人っきりにしたよね!なんの話されるんだろう。なんか怖い。


「さて、逢音君。高校生の君にする話じゃないとは思うが、少し話を聞いてもらえるかな?」

「あ、はい。」

「ありがとう。」


 倉井さんはそう言うと、はぁと息を吐いて窓のほうを見る。


「私は、正直に言って朝日をここで一人暮らしさせたくない。まぁ、だからこそ二十位以内に入れなかったら転校させるなど『できなそうな条件』を出したんだけどな。

 ただ君は勘違いしているかもしれないが、私は朝日を束縛しようなどという気持ちはない。無理に転校させようとしておいて変な話かもしれないが、それは本当だ。私はただ、朝日が危険な目に合うリスクを少しでも下げたいだけだ。」

「確かに女の子に、それも高校生に一人暮らしさせるのは不安でしょう。僕も同じ立場ならそう思います。」


 それは、父親という立場の人ならほとんどの人が思うことだろう。大事な娘を一人暮らしさせるのは不安だろうし、それを許可するのは勇気がいるはずだ。


「――ああ、そうだ。私は朝日が一人暮らしをすることが不安だ。家事に関しては心配していないが、色々心配することがある。私からすると、その心配することの中にあのとき娘の家にいた『君』も含まれていた。」

「知らない男が一人暮らしの娘の家に上がり込んでたわけですもんね。」

「ああ。だから私は焦ったのだろうな。本当はあの日、次はないと警告しに来るだけのつもりだった。」


 あー、僕のいたタイミングが悪かったのか。そう考えると、あの賭けをすることになった原因は僕にもあるんだなぁ。


「だが、今日――いや、さっきの朝日を見てわかった。逢音君、君は朝日にとても――私以上に信頼されているんだな。」

「へ?そうですか?」

「ああ。私は、朝日が笑ったところなんて三年前からほぼ見ていない。でも、さっき朝日は確かに君に向けて笑った。だから私は今君に話をしようと思ったんだ。」


 真面目そうに話をする倉井さん。確かに最初のほうは笑いなんかしなかったのに、段々笑うことが増えた気がする。とはいってもあんまり笑わないけど。


「そして、君のことを日向に聞いたのだが、『逢音君は信用できると思うよ~』と言っていた。日向は普段はあんなだが、その人を見る目は確かだ。」


 それは、なんとなくわかる気がする。日向さんは人のことをよく見ていそうというか、相手の心をしれっと読んでそうなのだ。まぁ、普段はやかましいだけなんだけど。ただ、信用できると言ってくれたのは素直に嬉しい。誰かに信用されるのって難しいからね。


「だから、とりあえず君のことを信じてみることにした。」

「はぁ。」

「だから、一つお願いがあるんだ。どうか、朝日と仲良くしてやってくれ。いや、朝日のことを頼む。」



「――へ?」



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