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35 「まぁ、不安だよね。」



 時は流れテスト前日。

 休日に勉強をしていても特に何かがあったわけではなく、今日は試験前日の日曜日。まぁ、ただ勉強を教えてるだけなのになにかあるわけもないんだけどね。むしろ、なにかあるなんてどこのラノベだって話。少なくとも、一般人の僕にはありえない。


 で、今は朝日さんに作ってもらった昼食を食べ終わった後の勉強タイム。前日だから、最後の追い込み中。まぁ、いつも通りやってるだけなんだけどね。いまさら勉強法を変えようとしたところでいい結果は期待できないし。


「朝日さん?手が止まってるけど大丈夫?」

「うん。」


 なぜか動かなくなっていた朝日さんにそう話しかけると、朝日さんはゆっくりと頷いてからペンを動かす。しかし、問題はそんなに難しくないのに一問も進んでおらず、ただ紙の上でペンが行ったり来たりするだけだ。


「朝日さん――もしかして、明日テストだからって緊張してる?」


 僕がそう尋ねると、朝日さんはペンを置いてゆっくりと頷く。

 まぁ、テスト前日だし、朝日さんからすればほぼ最下位から一気に二十位以内に入らなきゃいけないんだから、そのプレッシャーは半端ないだろう。でも、緊張しているからといって今日勉強しないのはちょっと不安だし、なにより今日緊張してるんだから明日なんかはもっと緊張するはずだ。

 ただ、緊張をほぐすのってどうしたらいいのかなぁ?うーん、なにをしたらいいのかもわかんないし、想像もつかない。僕は緊張したら全く別のことを考えるんだけど、朝日さんはそういうのが苦手そう。

 とはいえ、このまま放置するのも拙い。緊張でコンディションガタガタの状態で試験を受けてもいい成績は望めないからね。せっかく二十位以内に入れそうなのに、それはもったいない。頑張ったんだから報われてほしいしね。

 だから、効果はあるかわからないけどいろいろなことを言ってみよう。


「朝日さん、緊張するのはわかるけど、そんなに緊張することもないんじゃない?こんなに頑張ってるんだから大丈夫だよ。」

「でも――」

「まぁ、不安だよね。この試験が駄目だったら転校しなきゃいけないんだもんね。」


 朝日さんはゆっくりと頷いて、不安そうに視線を下に向ける。あー、なんか妹っぽい。昔に食器割ったときに琴音がこんな態度とってたなぁ。


「でもね、朝日さん。もっと自分を信じなよ。大丈夫、僕が保証する。だって、今朝日さんが解いてる問題かなり難しい奴だよ?たぶん、その難易度の問題が期末試験だったら平均点が三十点いかないくらい。」

「え?」

「驚いた?徐々に難易度を上げたから、気が付かなかったでしょ。」


 まんまと引っかかったようだね、朝日さん。徐々に問題の難易度を上げていったのに気が付かないとはまだまだだね。おかしいとは思わなかったのかな?毎日質問してるのに、わからない問題が減らないなんてさ。普通、難易度が同じ問題を解いていたら回数をこなすごとにわからない問題って言うのが減ってきそうなものだよね?でも毎日わからない問題が減らないっておかしいでしょ?


「う、うん。」

「で、朝日さんは昨日問題を解いた時に七十五点取れてた。さて、難易度高い問題が解ける朝日さんは、果たして本番でいい点が取れないでしょうか。」

「なにがあるか、わからないし――」

「そんなこと考えても仕方ないよ、そんなこと言ったら外出するだけで事件に巻き込まれるかもしれないから一歩も出ませーんってことになっちゃうし。こんだけやって『もしも』があるとしたら、それってもうどうしようもないことじゃないかな?だったら、いろいろ考えなくていいんじゃない?」

「だけど――」


 それでもまだ俯いてもにょもにょ言う朝日さんに、僕はチョップをする。


「あうぅ――」


 漫画だったら頭の上に大量の疑問符が浮かんでいそうな朝日さんは、そう声を漏らして頭を抑える。そんな様子もかわいく見える美少女ってずるい。って、言ってる場合か。


「あのね、朝日さん。どっちみちやること変わんないんだから、気楽にいこうよ。」


 朝日さんは一瞬目を俯かせた後、上目遣いで僕を見てこくんと頷いた。その姿がどうしても妹と重なってしまう。別に二人が似てるわけじゃないんだけどなぁ、なんでなんだろ。そう思った僕は、なんとなく手を伸ばして朝日さんの頭を撫でる。サラサラの髪は触っていて心地が良く、なんとなく撫で続けたくなる魅力があった。


「な、な、なに!?」

「あ、ごめん。つい。」


 「あわわわわ」みたいな感じで慌てる朝日さんを見て正気に戻った僕は、朝日さんの髪から手を離す。そりゃあ急に頭撫でられたら慌てるよね。いくら妹みたいに見えたからって女子の頭を撫でるとか、自分の行動に自分でドン引きするよ。


「べ、べ、勉強!」


 朝日さんは顔を赤くしたままそう言うと、ペンをぎゅっと握ってプリントになにかを書き込み始める。は、速い!いつもの倍くらいの速度でペンが動いている!

 そんなに速く解けるなら最初からしてくれと思うが、高校生にもなって頭を撫でられた恥ずかしさを力に変えているのかもしれない。もしや、明日のテスト前にも頭を撫でればいいのでは?いや、それはさすがにダメか。なんとなく僕が恥ずかしいし。

 そんな朝日さんの隣で僕も同じように問題を解く。試験前に漫画を読む度胸はないからね。まぁ別に学年一位をキープしたいわけではないんだけど、油断大敵って言うし。なにより、朝日さんが本気で勉強してるのに漫画を読むのはちょっと。僕なら「なんだこいつ。試験前なのに余裕出しやがって。」ってなるからね。


「逢音、ここわからない。」

「んー?ああ、そこは――」



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