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2 「うん、よろしく。」



「うわ、眩し。」


 マンションの通路に出ただけなのに、やけに日光が眩しく感じて思わずそう漏らす。とある大佐みたいに「目が、目が~!」ってなりそう。口には出さないけど。こんなところでそんなことを言い出したらやばい人だ。

 マンションから出て歩くこと十分、パンを咥えた美少女とぶつかるとか異能力バトルに巻き込まれるとか変なことは起こらず、特に問題なく学校に着いた。

 夜光(やこう)高等学校。そこそこ頭のいい公立学校で、制服の自由度の高さや校則の緩さ、駅から近いのでアクセスが良い、校舎がきれいなど、様々な理由から人気のある学校。僕がここを受験した理由は、新居から近かったから。通学に電車使うとか嫌だし、面倒。だって満員電車とか乗りたくないし。

 新品の上靴に履き替え、綺麗な校舎の中を歩く。学校内の地図はもう覚えたし、クラスはあらかじめ配られてた新入生名簿に書かれてた。一年一組一番というわかりやすく覚えられやすそうなのが僕の出席番号。

 一年一組と書かれたクラスに入ると、既に半分以上の生徒が教室にいて、周りの人と話そうとしていた。やはりみんなぼっちになるのは回避したいらしい。黒板には席順が書かれた紙が貼っており、自分の席を確認してみる。僕の席は一番窓側の最前列で、後ろが二番、右隣が八番のようだ。二番の生徒はもうすでに席にいて、右隣の九番の人と話している。八番の人はまだのようだ。

 僕が自分の席に着くと、後ろから背中をつつかれる。


「俺は石橋(いしばし)秋斗(あきと)。よろしく!」


 見るからにコミュ力が高そうな彼はそう言うと、軽く右手を挙げる。チャラい気がするけど、なんとなく悪い奴じゃなさそうな気はする。まぁ、なんとなくだけどね。


「うん、よろしく。僕は逢音(あいね)(ゆう)。」

「逢音?珍しい苗字だな。」

「よく言われるよ。」


 親戚以外に逢音さんを見かけたことがない。親が言うには『レアキャラ』らしいけど、別に苗字でレアキャラにならなくてもいいじゃんと思う。珍しい苗字って読み間違えも多いしね。


「夕は中学校どこだったんだ?」

「別の県から引っ越してきたから言ってもわかんないんじゃないかな。そっちは?」

「俺は凪中学校なんだが、引っ越してきたんじゃそう言ってもわからんよな。」

「うん。わかんない。近いの?」

「まあまあだな。このクラスにも数人同じ中学出身のやつがいるし。」

「じゃあ、ぼっち回避だね。」

「まあな。」


 出身の中学が同じってズルいよね。友達作りとか楽そうだし、すぐに交友関係広がりそうだし。僕もせめて知り合いがいればもう少し気が楽だったのに。ただ、初日から石橋君が話しかけてくれたのはいい誤算だった。これを機に仲良くなれるといいんだけど。


「おっ!」


 石橋君は教室のドアのほうを見てそんな声を漏らす。理由が気になって僕もその方向を向くと、そこには一人の女子生徒がいた。短めの髪に、星がついたヘアピンを付けた彼女は、可愛い系の美少女と言って差し支えない。というか、かわいい。

 その美少女は黒板に貼ってある紙を少し見ると、こっちのほうに近づいていき僕の隣の席に座った。ということは、この人が八番の人か。初めましてです。

 彼女はそのまま何も言わずに席に着き、鞄からノートを取り出して広げる。そこに描いてあったのは少年と少女の絵。


「へぇ。」


 その絵に、僕は思わずそんな声を漏らす。特段絵がうまいというわけではないが、努力の跡が見てとれるその絵からは、確かに才能が感じ取れる。あと一年くらいしっかり練習すれば結構有名な絵師になれそうだ。ただ、あの絵柄は見覚えがある。というか、中学の頃に僕が描いた絵にそっくりなのは気のせいだろうか。


「なるほど、イラストを描く美少女か。いいな。」

「石橋君?」

「だがしかし、俺の好みではないようだ!」

「うん、クラス中に聞こえる声量でそんなことを言うと馬鹿みたいだからやめたほうがいいよ。」


 先程の少女も「うわぁ、なんだこいつ」みたいな目で石橋君を見てるし。奇遇なことに、僕も今なんだこいつって思ってる。この人、本当に大丈夫かな?悪い奴じゃなさそうっていうのは撤回させてもらう。やばいやつかもしれない。


「石橋君、好みじゃないとか大声で言うのはよくないよ。モテない男になっちゃうよ。」

「ああ、それは困る。俺は高校ではモテまくって彼女を作るって決めたんだ。」


 なんかもう無理な予感しかしないけど、「まぁ、頑張って」と言っておく。こういうのを大人の対応って言うのかもしれない。モテたいという人はモテない法則を知らないのだろうか。知っていてもこの人はこういうことを言いそうだと、出会って間もないのに感じてしまうのは何故だろうか。まだそんなに話していないはずなのに。


「とりあえず、俺はサッカー部に入ろうと思う。」

「その心は?」

「モテそうだから。」


 石橋君よ、今すぐ世界中の真面目にサッカー選手を目指している人に謝れ。ついでに全国の同じ理由で運動部に入ってる人も謝っとけ。


「そして、俺は髪を金色に染めて筋トレでゴリマッチョになる。」

「なんで?」

「モテそうだからに決まってんだろ?」

「石橋君の場合金髪ゴリマッチョは似合わなそう。」


 なんとなく彼が金髪にすると、必要以上に遊び人みたいな印象を与えそうだ。というか、女性は思ってるよりゴリマッチョが好きじゃないと思うんだよね。だってさ、女性向けの漫画に出てくるイケメンって細マッチョのイメージあるじゃん。男子からのイメージだから実際どうかわかんないけど、母は「ゴリマッチョは苦手。細マッチョがいい」と言っていた。あくまで個人の意見だけど。


「なんでだよ!肌を黒くすれば似合うかもしれないだろ!?」

「あー、どうだろ。たぶんそのままの自分が一番だよ。」


 実際手の加えすぎはよくないよね。女性も無茶苦茶化粧濃いおばちゃんとか見ると、いっそ化粧しないほうがいいんじゃなかろうかとか思うし。少なくとも僕はそう思う。これもあくまで個人の意見です。個人の意見です。大事なことなので二回言った。


「じゃあ俺は何をすればモテるんだよ!」

「そのモテたいという思考を捨てればいいんじゃないかな。」

「結局俺は駄目じゃねぇか!」

「駄目とは言ってない。ただ、人って結構下心に気付くものじゃないかな。」

「だとしても俺はモテたい!いや、モテないのならば俺が俺である必要性がない!モテるために努力する俺こそが俺であり、結果的にモテる俺も俺だがそれ以外になってしまった俺はもはや俺であるとは言えず、ただそこに存在するその他多数に成り果ててしまう!

 それでいいのか!?いや、よくない!言い訳がない!」

「何言ってるのか全く分かんない。」


 『高校に入ったけど、後ろの席の男子生徒がやばいやつすぎて困ってます』

 うん、ライトノベルのタイトルっぽくなった。本気で石橋君は何を言っているのだろう。『モテようとする自分』も『モテようとしない自分』も結局、遺伝情報、デオキシリボ核酸が同じで名前も変わらないんだから、自分であると言えると思うんだけど。それとも、彼はもっと哲学的な話をしているのだろうか。だとしたらそれは僕の範囲外だから哲学者とでも語り合ってくれたまえ。



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