高校生の姉と小学1年生の妹と 「春」 姉の隠し事と妹の灰色の脳
ミフユ
4月、桜の花が咲き誇る春の日、それはミアキの小学校の入学式の日だった。着飾ったミアキの晴れの日を両親と姉の私が祝おうと小学校へ向かっていた。
駆けていくミアキ。微笑みながらついていく両親と私。入学式では元気よく返事しつつ大人しくはしてくれていたけど、クラス分けされた後つまり小学校での最初の一日を終えた時には、いち早く男の子連中をまとめてというか従えての方がしっくりくるわ、要するにガキ大将になりおせていた。そんな時間どこにあった?こちらは目を白黒させる羽目になった。あの子にそんな素質があったのねと驚かされた。
ミアキ
教室に入るとすぐ男の子達と仲良くなった。というか声を掛けて回った。なんか女の子達のノリが合わないなあって思っちゃったから。じゃあ、こっちから男の子連中と友達になっちゃえって思ってプリントを回す時とか積極的に声を掛けていたら、恥ずかしがり屋の子が多くて私が先頭に立っている感じになっていた。みんな、「ミアキちゃんどうする?」だったから「じゃあ、こうしようよ」って言ったらいつも何人かはついて来るようになっちゃった。
お姉ちゃんに話をしたら「友達っていうより手下?ミアキってガキ大将だよねえ」と言われちゃった。
それにしても小学校ってあんな楽しいところだったとは。(お姉ちゃん曰く「ミアキにとって、パラダイスって事なんだね」と言われた)勉強は簡単だし、わからなきゃお父さんやお母さん、お姉ちゃんに聞けば分かったし。
唯一不満があるとすれば私が家でよく見ている衛星放送の海外ドラマや映画をこいつらはちっとも見てない事だ。
この間やっていたドラマでは美人の妹(そう、「美人の」が大事!)が俳優になるため義理の姉や義理の母の妨害を苦とせずバイトでお金を貯めて夢に突き進んでいてワクワクした。思わずお姉ちゃんに重ねて考えてしまった。もしそうだったら応援するのに、なんて事を思いながら見ていた。
よくわかんない時もあるけど、あんなに面白いのに。小学1年生のお子ちゃま達はこれだから困る。
4月のある週末の夕方、近くの公園で遊んでいたらお姉ちゃんが夕食だからと呼びにやって来た。
「お姉ちゃんが来たから帰るね。もう陽が暮れるし」
「ん。じゃ、アキちゃん、また学校でね!」
と男の子5人は家へと帰っていった。その中の3人は自転車に乗っていた。
自転車。乗り方が分からないから別に欲しいとは思わないけど、駆けっこでは勝てないのがなんか嫌だなと思いながら見ていた。
ミフユ
夕暮れの家への帰り道、あるお店の前を通った。暗くなった外から見るとまばゆい店内。ミアキぐらい女の子が両親に何かねだっていて、ミアキがそれを見ていた。私はミアキが珍しく何かに興味を持った目線で見ていたのを見逃さなかった。
そうなんだ。ふーん。
5月末。ミアキの誕生日の1ヶ月前に私はある思いつきを両親に相談して賛同と協力を確約して貰った。それは私の社会体験にもなるからいいと思ってくれたようだった。こうして少しだけ家事の量を減らしてアルバイトに行く事にした。まさか、あの子がそこで入らぬ勘ぐりをしてくるというのは想定外だったけど。
ミアキ
6月に入って急にお姉ちゃんの様子がおかしくなった。両親が共働きだったので平日の夕方の家の事はお姉ちゃんがだいたいはやっていた。それもこれも私のお手伝いもあっての事なのだ。
お姉ちゃんは学校が終わって家に帰って来るとすぐ私を連れて夕食の買い物に行く。そして二人で料理を作る(私も手伝っている)。
両親が帰ってきたら一緒に食べる。そして両親かお姉ちゃんが私と一緒にお風呂に入るという生活サイクルが出来ていた。
これが私の幸せな日々のはずだった。それがお姉ちゃんの様子がおかしくなって大きく崩れた。小学1年生の妹としてはお姉ちゃんが心配だったし、私の毎日が棒崩しの棒のように周りが削り取られているような感じがして不安だった。
朝、二人で家を出て学校に行く途中で、お姉ちゃんに思い切って聞いてみた。こんなにもしっかりしている小学校にも入った妹に相談すべきじゃないのかって。
「お姉ちゃん、何かあったの?」
眠たげなお姉ちゃんは生あくびをかみ殺した。
「ん?ああ、夜遅いから心配してくれてるの?」
……大事だと思っている事を伝えようとしてうん、うんと二度も頷いてしまった。
「ちょっとした気分転換よ。お父さんもお母さんも全然私の事叱ったりしてないでしょ。小学1年生が気にしなくて良いんだから」
そういってお姉ちゃんは密やかにおきている何かを隠そうとした。
学校で何かあったんじゃないだろうか。私なんかもう毎日楽しくやってるのに。まさかよくテレビとかで言ってる「いじめ」にでもあってるの?聞いてみる前よりもなお心配になってしまった。
翌日、お姉ちゃんが変わった理由を知りたいという気持ちが止められなくなって学校が終わると手下達じゃなかった学校のお友達(またはお子ちゃま達)と別れて、お姉ちゃんの高校に向かった。
「日々の縁起担ぎ」という小学1年生の私には良く分かんない話をテレビがやっていた時、お姉ちゃんはポロリと登下校ではもっぱら正門を使っている、変えるのは確かになんか嫌だとお母さん相手に話したのを聞いている。なので私は正門がよく見える左手の電柱の影、家に近い方を選んで隠れた。
お姉ちゃんは学校の友達らしい同じ服を着た女の子と正門を出てくるとあっさり手を振って別れた。何か一緒に行こうよと言われてたみたいだけど。
「ごめんね」
「あ、今日もなんだ」
頷くお姉ちゃん。
「じゃあ、また明日ね」
と言って手を振って別れた。
そして、なんと、なんと、こちらの方へ歩いてきた。これはまずい。狭い脇道に飛び込むとすぐ目についた家の影に隠れてしばらくお姉ちゃんが気付いてませんようにと祈った。こうしてお姉ちゃんに見つかる事は避けられたものの、通りに戻った時には肝心のお姉ちゃんの方を逃してしまった。
テレビでこういうのどう言っていたっけ。
「じんせいばんじさいおうがうま」
何の事かまだ意味分かんないや。仕方ないのでこの日は諦めて家に帰った。小学1年生は悩まないのだ。
家に帰るとほどなくお母さんも帰ってきた。お姉ちゃんが仕込んでいた食材で夕食を二人で作った。今日は野菜カレーだ。
お皿とかスプーンとかを私専用の踏み台を置いて食器棚から出す。
お母さんからは、
「ミアキ、お手伝い、頑張ってるね。ミフユが上手く教えてくれてるの?」
「うん。私が出来る事が増えるとすごく喜んでくれてる。なんか私にもっと食わせて背が伸びたらもっと手伝わせる事が出来るからいい料理を私にたくさん食べさせるのはとっても大事な事だって言ってた」
そういうとお母さんは大笑い。
「要するにお姉ちゃんはミアキが好きって遠回しに言っている訳ね」
「うん」
お母さんは最後にいくつか調味料やそうではない何かを鍋に付け加えていた。
「あまり辛くしないようにっと。……ミフユのカレー、ちょっとコクが足りないから。これで完成ね」
お姉ちゃんのカレーも美味しいけど、お母さんが手を加えた事でさらに一段と美味しくなっていた。
お母さんと夕食後、一緒にお姉ちゃんが帰ってくる待っていると21時前に帰って来た。
「疲れたー」
と玄関で開口一番に言った。すかさずお母さんは
「あんたがやるって決めた事でしょ」
と言ってお姉ちゃんをたしなめた。
「先に夕食食べさせて。お腹空き過ぎちゃった。お腹がくっつきそう」
というお姉ちゃん。制服も着替えないとはお姉ちゃんらしくない!
お母さんはお姉ちゃんのお皿に野菜カレーをよそいながら、
「昔、私があんたに言った冗談をミアキに言ってるんだ」
「だって、あれは私、あの頃に少し真剣に悩んだんだよ。結局、お父さんがお母さんがお前を愛しているということを遠回りな言い方してるだけだからって言ってくれてから納得したし、それは今や私の考えですらある」
「人への気持ちの伝え方の表現なんて人それぞれだからさ、好きにしたらいいけどね。あなたはあなたの言い方も考えて行きなさいね」
頷きながらガツガツ食べるお姉ちゃん。
「ところでお母さん。これ、何か手を加えたでしょ。私の味じゃない。何、これ。美味しい」
「んー。それは内緒。家にあるものしか使ってないからね。まずは自分の舌で頑張ってみなさい」
ミアキ(承前)
お父さんが先に帰ってきた夜にお姉ちゃんの様子をどう思っているのか聞いてみた。お父さんが料理する時は繊細。ちゃんと計って調味料を使う。お母さんとお姉ちゃんはお菓子ならともかく神経質過ぎるよと言ってた。
「どれ、ミフユは何を仕込んでいるのかな」
冷蔵庫を開けて覗き込むお父さん。
「ふむ。豚肉が漬けてあるから生姜焼きにしろというご宣託だな。ミアキ、大皿を4枚出してくれるか」
「はい。お茶碗と味噌汁のお椀も?」
「提案、えらいぞ。そう、お茶碗とお椀も出しておいて」
「はい」
「炊飯器はと……あと15分。じゃ、味噌汁だな」
そうお父さんが言うとダシをとって。味噌汁を作り出した。
わたしは自分の席に座ると肘をついてお父さんに聞いた。
「お父さん。お姉ちゃんの様子、おかしくない?」
「何が?」
そういいつつ、コンロの火を止めると味噌をときはじめた。
「だって、毎晩遅いし。夕食の準備はお父さんとお母さんばかり」
「昔はお父さんとお母さんでやっていてミフユは手伝ってただけだよ。今のミアキみたいにね。ミフユがお姉さんになって自分で全部出来るようになったから平日夕食は任せてと言い出したからやってもらっているし、今はあの子にやりたい事が出来たから肩代りしているだけだよ。それでも材料の買い出しと下ごしらえはミフユがやってるから、大きな意味では何も変わってない。ミフユがやる事で心配するような事があって私やお母さんがほっとくと思うか?」
それはない。すぐ顔を横に振った。
「だろ。さて、後はお母さんとミフユが帰ってきたら焼けば良いだけだから、ビールでも飲んで待つか。ミアキは冷たい右茶を飲むかい?」
「うん。一緒に飲む」
「じゃ、漬物を切るからお皿を一枚出してくれるかな」
「はい」
席を立つと私は踏み台を持って食器棚に駆け寄った。
ダイニング・キッチンにある鳩時計がポッポと7回鳴った。7時。お母さんはもうすぐ帰ってくる。そうしたら夕食だ。
このような日が何日か続いた。結局、お父さんもお母さんもお姉ちゃんが帰ってきても普通に接していて何も言わない。
三人とも何か私に隠しているんじゃないか。そういう思いに取り付かれ初めた。とってもゾワゾワする。
放課後。学校が終わると手下のお坊ちゃま達の「公園に行かないの?」という声に「ごめん。また明日ね」と振り切ってまた高校正門に向かった。
そして前回の反対側、右側の電柱の影に隠れる場所を変えて待ち伏せた。そのおかげか今度はまかれる事はなく後を付ける事が出来た。
お姉ちゃんは徒歩で20分ほど離れたショッピングモールに着くとあまり人のいない方の出入り口の方へと歩いて行った。
ドアの前に着くとバッグから何か取り出してドアの横の箱に押し当てた。ピッと音がなってモーターの音がするのを確認すると扉を開いて中に入って行った。私は駆け出した。ドアが閉まる前にと思ったけど、隠れていた場所からは距離が遠く目の前で閉まってまたモーター音がした。
まずい。これじゃお姉ちゃんがどこで働いているか分かんない。
どうしたものかと考えていたら、やはりここで働いているらしいおばさんが来たのが見えた。これはチャンス。うそ泣きしながら近付いた。
「おやおや、どうかしたの?泣いちゃって」
おばさんは私に目線を合わせようと身をかがめた。こういう人を嘘を言うのはよくないなあと思いつつ私は演技を続けた。
「お母さんがここで働いてるけど、はぐれちゃって中に入れないの」
「じゃあ、おばちゃんが中に入れたげるわ」
「ありがとうございます」
中に入るとおばさまに丁寧にお礼を言った。
「お母さんの場所は分かるから。本当にありがとうございました」
丁寧にお辞儀する私。本当に助かったんだから当然の事だ。
「いえいえ。早くお母さんの所に行きなさい」
「はーい」
そして助けてくれたおばさんの視界から一刻も早く外れるべく小走りで廊下の角を曲がると物陰に隠れて様子を窺いながらお姉ちゃんを探した。
すると更衣室から学校の制服をお店の制服に着替えたお姉ちゃんが出てきた。あれは家でもたまに連れて行かれるイタリアンカフェレストランのチェーン店の制服だ。よし。
お姉ちゃんに見つからないようにショッピングモール内へ出てこの日は家に帰った。
お姉ちゃんは普段、家事の大半をやっていて、その分お父さんとお母さんからお小遣いや平日夕食の食費をもらっている。このファミレスのお給料がどの程度か分かんないけど、普段でも無駄遣いせず服とか本を買ったりした上で貯金もしているらしいのでお金に困っての話ではないはず。何でやっているのかな?と謎が増えた。
翌日、私は学校が終わると家に全速力で帰って、お姉ちゃんの部屋に潜入しようとした。お金が必要な理由が分かるかもと思ったのだ。ところがお姉ちゃんの部屋のドアを開けると机の引き出しに貼り紙がしてあった。
「ミアキへ。 なにかしんぱいしてくれているみたいだけどだいじょうぶだからせんさくしないの!(「せんさくしないの!」とは、わたしのへやのひきだしとかむだんであけないでってことよ。)」
お姉ちゃんがこう書いてきているという事は探したって何もないのは確実だろう。ぱっと向きを変えて部屋を出るとそっとドアを閉めた。
TVドラマなら刑事がこういうんだろうな。
「考え直しだ」
そう決意して、TVドラマの人みたいに指を鳴らそうとしたけど鳴らなかった。ちょっと情けない。
今こそ私の灰色の脳を使う時が来た。(アガサ・クリスティの海外ドラマを見たのだ)ダイニング・キッチンに行くと冷蔵庫からミルクを出してグラスに注いでおもむろに自分の席に座った。そして私は今まで知った事を挙げてみた。
・お姉ちゃんの行動は両親が心配していないからみとめてる。そして私には教えようとしない。
・お姉ちゃんはお金が必要だからアルバイトしているが、家事でのお小遣いを貰っていて貯金もしていてお金の問題だけならアルバイトは不要だ。
・アルバイトで忙しいはずなのに、今も平日夕食はお姉ちゃんの作ったものを食べている。夜か早朝にお姉ちゃんが作り置きしていて、母や父が温めてくれていて美味しいから、それはそれでいいのだけど。
部屋の鳩時計がポッポと5回鳴った。5時だ。ふと頭にこの間見たドラマが思い出された。そして結論が出た。
私はダイニング・キッチンの机に「おねえちゃんをむかえにいってくる」と書き置きして家を飛び出した。
ショッピングモールに行くとイタリアンカフェレストランへ直行した。
「いらっしゃいませ。ってあんた、なんでここに来たの?」
驚くお姉ちゃん。そうだろう。まさか妹が探り当ててるなんて思いもしなかったんだから。お姉ちゃんはお店の人に事情を話して他にお客さんのいない奥の方の席に私を連れて行った。
「あんた、お父さんかお母さんに言って来たの?」
「台所にお姉ちゃんを迎えに行くって書き置きしてきた」
「んー。それじゃ、帰った時にお父さんとお母さんが驚いちゃうよ。もう。ミアキったら」
そういうと端末を操作してドリンクコーナーでオレンジジュースを注いで持ってきてくれた。
「お客様は私が仕事が終わるまでここでお待ち下さい。って言ったって払うのは私だけどね」
「うん。」
「お代わりが欲しい時とトイレに行きたい時は私を呼び止めてね」
「わかった。ここで大人しくお姉ちゃんの様子見てるね」
「全く、もう。……さあ、お父さんとお母さんに電話しないと」
そう言いながら姉は店の奥へと引っ込んでいった。
お店の人達は親切でグラスが空いていると「へえ。古城さんの妹さんなんだ。お代わりいるかい?」と聞いてくれた。みんな、いい人らしい。
ただ、お姉ちゃんが恐縮して頭を下げていた。お姉ちゃんには悪い事をしたかもと反省した。
お姉ちゃんが20時前に仕事を終えると手空きの職場の人達に「またね」と言われて見送られながら更衣室に行った。お姉ちゃんが着替えて出てくると二人でショッピングモールの外へと出た。
そこで弱った事にこの間入れてくれたおばさんが仕事が終わったのか帰ろうと後から出て来たのだ。
「あら、こんばんわ。この間はちゃんとお母さんに会えた?」
「はい。ありがとうございます」
そしてお姉ちゃんを見てしきりに「すごい若いわねえ」と首をかしげながら帰って行った。
「ねえ、ミアキ。これはどういう事かな?」
「お姉ちゃんの行く所を突き止めようとして助けてもらったんだけど」
「だけど?」
「多分、お姉ちゃんの事をお母さんと勘違いしていると思う。ごめんなさい」
お姉ちゃんは深い溜息をつきながら私の手を引いて家の方へと歩いた。
「お母さんが心配して連れ帰ろうかって言われたけど話をした方がいいと思ったから断ったよ。さあ、なんで押しかけてきたの?ミアキ、何か言いたい事があるんでしょ?」
私が灰色の脳を使って思いついた結論はこうだった。
「姉はきっとお金を貯めて家を出る気だ」
春先に見たテレビドラマ。美人の妹が義母や義姉たちにいびられる中でスターを夢見てお金を貯めて飛び出していくってものをやっていた。姉はきっとこのドラマのヒロインのようにアイドルか俳優でデビューする事を夢見てお金を貯めてるんだ。そうに違いない。
お姉ちゃんは妹の私から見てもきれいだ。デビューしたらきっと成功するに違いない。応援して上げたいけど今はなんだか嫌だ。
私はお姉ちゃんを説得しようと息を止めると一気に言った。
「お姉ちゃん。お金を貯めて家を出る気でしょ?私だってTVドラマとか見てそういうの知ってるんだから」
ここで姉は私に容赦なく頭にゲンコツを食らわせてきた。痛いなあ、もう。
「あんたねえ、流石に小学1年生でそれはないわ。ませガキ過ぎる。あんまり変なTVドラマそのまま信じちゃダメよ。明日、どういう事か教えて上げるから。……お母さんとお父さんも待ってるし、さっさと帰るよ」
何故か苦笑している姉。
あれれ?
ミアキ
目の前には男の子用のかっこいいバイク、女の子用のかわいい飾りのついた自転車が勢揃いしていた。ニヤリとする姉。
「さ、どれが欲しい。あんたの誕生日でしょ。お姉ちゃんがプレゼントするから好きなの選んで」
ミフユ
私は両親から貰っているお小遣いではなく自分が外で働いて得たお金で妹の誕生日を祝ってやりたかった。それは単なる自己満足の世界?でもちゃんと稼いだお金で妹にプレゼントってなにか憧れるなあと思った。するとちょうどクラスメイトのバイト先の先輩が旅行で2週間ほどいなくなるけどシフトが埋まらず困っていると聞いた。
両親に相談してみたら反対されなかったし平日の夕食対応では二人とも協力してくれた。こうして作った時間で夕方3時間2週間ほどファミレスのアルバイトをやって4万円ほど稼ぐ事が出来た。
ミアキがアルバイト先に押しかけた翌日の土曜日。ミアキについてきてと言って連れて行ったのは、ミアキの視線を釘付けにしたあの自転車販売店だった。
「あんた、この間、この店の前を通った時、乗ってみたいって顔してたじゃない。お見通しなんだから」
私はあなたの姉なんだからさ。そしてお店の人に売れ筋を聞いてみた。
「お勧めはこれだって。あんたの友達ぐらいの男の子達はこういうタイプ買ってるんだって。男の子たちと駆け回るならこういう方がいいんじゃない」
ミアキ
私もその点は異存ない。かわいらしい魔法少女である事よりもわんぱくなガキ大将として先頭をかっこよく走りたいっていうかクラスメイトたちには負けたくない。常に先頭を走っていたい。流石はお姉ちゃん。よく分かってる。
自転車ショップの人に見送られながらお店を出た。私の頭には自転車用のヘルメット、そして私の右側にはかっこいいモトクロスバイクがあった。姉が声高々に宣言した。
「さあ、公園行って練習しよ。乗れるまで帰らないからね。自転車乗れるところをお父さんとお母さんに見せてびっくりさせようよ」
「うん!」